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なろうラジオ大賞3短編集

レンタル落ちDVDの映画と、その中に映るカセットテープ

作者: ミント

 レンタル落ちDVDのワゴンセール。


 近所の本屋で行われるそれを、私は頻繁に覗きに行く。カゴの中に入った映画はどれもたくさんの人に見られ、そして忘れられていった作品ばかりだ。


 私はその中から、適当に目についた一本を選ぶ。


 昔ちょっと聞いたことのある女優の名前。英語のタイトルそのままのなんとなくB級感があるタイトル。有名すぎてネタバレしきっている作品や、シリーズもの映画の初期作品。


 千円もしないそれを買って帰ると、私はぐったりしながらDVDプレーヤーをつけてその映画を見る。


 一九八〇年代の映画は少ない予算の中で役者が必死に演技し、リアリティを追求することで物語としての面白さを引き立てている。


 一九九〇年代の映画は様々なセットや小道具を使って、なんとかファンタジーの世界を現実に近づけようという工夫が見て取れる。


 二〇〇〇年代の映画はCG技術の発達が見えてきて、実際の光景と映像技術の融合が見事な美を表現している。


 二〇一〇年代の映画は今とほとんど変わらない。

 といっても現在が二〇二〇年代初頭であると考えると、二〇一〇年代の映画は比較的新しい作品であると言えるだろう。「懐かしい」と言われるようになるのはもう少し先。おそらく、今の小学生が高校生ぐらいになってからのことだろう。


 私は、その時どうなっているだろう。


 胸の中にぼんやりと、そんな不安が広がる。新型コロナウイルスの流行。不安定な経済状況に、見通しのない未来。映画は常に現実味を求めているが、目の前にある現実はどれも悲惨なものばかりで目も当てられない。だから人々は映画を見る。少しでも「現実に近いけれど、美化された現実」を目にするために。辛すぎる現実から目を背け、美しい非現実の世界に逃げ込むのだ。


 映画の中で一人の女優がカセットテープを前に、ガラケーで何やら喚き散らしている。彼女は数年後に、カセットテープもガラケーもほぼ死滅する時代が来ることを知らないだろう。


 そう、未来は誰にもわからない。映画の中でも現実でも、私たちはとにかく目の前を生きるしかない。時に現実逃避を挟みながらそれでも現実に立ち向かい、精一杯生きていくしかないのだ。


 別に感動するシーンでもないのに、ふと涙が零れる。


 私の人生は映画のようなものすごい不幸がない代わりに、派手な幸運も訪れない。ただ小さな不幸の連続で、予告編にすらならないようなことばかりだ。でも、それでも。


 私は生きていくしかないのだ。


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