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男足る者

砂漠でヤるはずだったのに、気づいてみたら市街戦。

過程は簡単である。


ジンキャスを出た秀治と健治は、酔い覚ましがてら今後を計画するためにサードエリアをぶらぶらしていた。

と言っても、ぶらぶら歩ける場所など主要路しかない。他は、ぶらつけば銃撃戦必至だからだ。決して、主要路ならば銃撃戦が起きないわけでは無いが。

そこに偶然砂漠に出ようと主要路を行進するキッド班+1。

二人を見つけて即座にガーレットを発射するラインハルト。

後は主要路での比較的小規模な銃撃戦展開、とあいなる。


工部局都市衛兵は通常通りの対応。

すんなり秀治と健治が確保されたのは意外だが、他は漆黒の爪への事情聴取を含め通常通りの流れとなった。


***


現代日本のイメージで人権とか民主警察とか裁判制度を想起してる層には意外かもしれないが、この世界の警察はそれほど甘くない。

どちらかといえば、現代の中共や朝鮮半島に近いだろう。


秀治と健治は確保後、工部局都市衛兵本部に連行され、取り調べも聴取も無く、拷問室にぶちこまれる。

拷問である。

それが何かと言えば、まずは肉体面の身体欠損を含めた拷問コースである。

秀治は両腕と下顎を失い、健治は両目と両腕脚を失った。

特筆すべきは、二人とも泣き言も悲鳴もあげなかった事くらいだろうか。


次に肉体面+精神面である。

延々と苛まれる自己同一性である。

このタームでも、二人は泣き言も悲鳴もあげなかった。


次は、それ以前と打って変わって、太陽作戦である。

つまり、丁重に人間扱いを始める。

人並以上と思わせる暮らしをさせるのだ。

失った身体部位を再生し、清潔な衣服を与え、良質な個室を用意する。


以上を、都市衛兵は合計2ヶ月かけて行った。

しかし、普通の人間ならこれで落ちる。誰が支配者なのか。自分が何なのか。骨身に染みて理解できるからだ。

そもそも、以上の行程は『どんな世界の教育でも行われていることを、純粋に短縮した』に過ぎないのだ。

『教育とは洗脳なり』『社会適応化(ソーシャライズ)』である。


これでダメなら、今度はもっとハードコースである。


そして、秀治も健治も、普通では無い。

ニューシャンハイ都市大学精神解剖学部を主席で出て、拷問一筋26年の担当者も舌を巻いた。

なので、面子を保つために更なるハードコースを二人に課した。

ハードコースでは、さすがに二人とも悲鳴をあげざるを得ない。

しかし、泣き言を一切漏らさなかった。

拷問という手段を使ってはいるが、さすがに殺してしまうのは色々面倒である。

それがサードエリアの根無し草であろうと、市場と都市の利益に反してしまう。死者は生産しないのだから。


様々なことがあり色々な勢力が利益を得た結果としての今日、数々の苦難を耐え切った二人は『証拠不十分・送検不可』で釈放される。

二人の確保から実に半年が経過していた。


秀治も健治も五体壮健で釈放されたのを、拷問26年の担当者は複雑な目で見送った。

彼はこの後、処分される。憎悪の対象に過ぎないのに、同時に二人に対して畏敬の念も覚えていた。それは、この担当者が本物のプロだからこそ持ち得た複雑な心理なのかもしれない。


都市衛兵本部前で秀治が煙草をくわえ、ついで健治に勧める。健治は黙って一本抜き取り、同じくくわえる。

二人とも同時に自分の煙草に火を着け、一息に肺に煙を呑み込む。


「「……うめぇ」」


と二人は呟き、やるべき事をやるために同時に一歩を踏みしめる。

そこに迷いなどあろうはずも無かった。


***


やるべき事がある男は、普通ではいられない。

普通なのは、家畜化した卑劣で臆病な男だけである。

だが、普通な者たちが大半である。

だから世界はこうなのだ。

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