自制とか合理とか他人をイイワケにしないための処方箋。
「で。どういうことよ?」
消費されない動力を生み出し続けるエアズ結晶粉末が出すエネルギーに耐え切れずにニトロマン機関が炎上したチャイナー製の軽機動車が、都合3台。
その前に仁王立ちし、秀治がラインハルトに訊く。訊いてはいるが、満足な答えなどは期待していない風情だ。
「こんなはずは無いんだ! ラノベなら、俺のような主人公はピンチになっても、なんだかんだで最後には勝つんだ!!」
ラインハルトは叫ぶ。秀治が思ったとおり、満足な答えなど出てこないし、ラインハルトはそれ以前のレベルである。
「あ~~。こいつ、生きてる価値あんのか?」
と秀治。右手に持つ14mm歩兵拳銃をぶらぶらさせながら、呆れ顔である。
「自分ではそう思ってそうだな。主人公とか言ってるし。承認欲求中毒者か?」
と健治。こちらは足下に頭部が吹き飛ばされたキッドを見下ろしながらである。
「ラノベの神様!! そろそろ俺大勝利展開にしてください!!!」
秀治と健治など眼中に無いラインハルトは、夜空に向かって懇願の叫びを放つ。
『無ぇーよ』
などと神を仮定した何かが応えることも無く、現実に起きた事は溜息をつきながら秀治と健治二人が同時にゾルダーとクマモトをラインハルトの頭部に向け、即座に爆砕する。
放たれた2発の銃声に比して、ラインハルトの最期は取り立てて言及するに及ばないものだった。
まるでラインハルトの人生そのものが無意味であるかのように。
***
キッド班は文字通り消滅。
つまり、皆殺しである。
『自分に銃口を向けた者、つまり自分に敵意を持った者は殺すしか無い。それが自然であり、摂理である。これに反すれば、自滅を招く』
秀治も健治も、信仰心などは無いと思っている。
しかし、自分の立脚点である大自然に対してだけは、信仰心を持っている。
無論、二人とも自覚など無いが。
「漆黒の爪、なんかショボかったな」
と秀治。
「こんなもんだろう。俺は3発食らった」
と腿を覆うLHAを指さす健治。
そこには3発分の凹みがある。
内出血はしてるが、戦闘行動に問題は無いと健治は判断している。
だが、痛いものは痛い。
「キッドってのは、漆黒の爪じゃ伝説だったらしいぜ? 一撃のキッドとか呼ばれてたらしい。その一撃なのかねぇ?」
秀治は健治に近寄り、まじまじと観察しながら呟く。
「一撃じゃなく、3発だけどな」
と健治。
「一回に3発撃てば、一撃じゃね?」
と秀治。
「じゃあ、俺のセブンシェルは一撃で7発ってことなのか? そもそも、キッドが使ってたのは機関拳銃だ」
と健治。
この遣り取りの間にも、都市衛兵の巡回車が青いクサム灯を派手に点灯し、大挙して押し寄せてる。
遣り取りに結論を得ないまま、二人はうんざり顔で都市衛兵という無能集団を迎えた。
逃げるという選択肢は、今回は無い。
***
やるべき事をやる時、男は逃げてはならないのだ。
それが、ハードボイルドであり、男の掟である。