ジンキャス
全てがひび割れたプラカーブ合成材製の壁。
そこには、プラカーブ製の額に納められた大小様々なハードコピーの写真が所狭しとかかっている。
写真は統一感が無く、テーマも無さそうな印象を見る者に与える。
強いて言えば、この酒場の主が「気に入ったものと気に入らないもの」をごちゃまぜにしてかけてあるようであった。
「それが生きるってことだぜ、ボーイ」
***
酒場「ジンジャーズ・キャッスル」は、略して「ジンキャス」と呼ばれるサードエリアにある比較的危険な酒場である。
その危険は本当の意味で生きている者たちにとって、適切かつ良い塩梅の危険さであった。
「おっさん! 俺ケミカル!」
と空いたテーブルにつくなり大声で注文する秀治。
「俺は……」
と思案しながら同じくテーブルにつく健治。
「うるせえなぁ!! 俺の耳プラグはまだ壊れてねーぞクソガキ」
酒場の主である老いた男がケミカルの入った透明ボトルを持って来る。
身長は高く、腹もでかい。髭もでかいし、禿げた頭頂部もでかい。腕も脚もでかいし、腰のベルトに吊っているダディ・キャノンもでかい。
それがジンジャーである。
「さんきゅーおっさん!」
とチケットを渡してから、ケミカルのボトルを受け取る秀治。
チケットをポケットにしまいながらジンジャーが、
「仕事帰りか」
と言えば、
「そそ。いやぁチャイナーに絡まれて散々だったよ」
とボトルキャップを捻りながら秀治。
それを聞いた隣のテーブルの輸送屋風の女3人がこちらを向き、そのうちの1人が、
「東側か? コリアドは出なかったのか?」
と声をかけてくる。
秀治はケミカルを一口飲んでから、
「ふぃー。いなかったぜ」
と女に顔だけ向けて答える。
「そうか……」
と女は呟いて、腑に落ちない風情だ。
秀治はニヤリとする。
「そうか」
と健治は呟き、椅子に座ったまま腰のホルスターから44口径超強装弾仕様のリボルバー拳銃を抜き構え、その太い銃身にぽつんと空いた銃口から超強装弾をぶっ放す。
一切の躊躇が無い健治の発砲により店内を号砲が轟き渡り、当然の帰結として女の頭が消し飛ぶ。
脳漿と頭蓋骨の破片と眼球と大量の血がプラカーブ製の壁にびちゃりと貼りつき、慌てた残りの女二人が銃を抜きながら立ち上がろうとする。
健治の二射目は女たちの強化神経による運動速度を超える速さで実行され、一人の女の胸部が消し飛び、右腕が千切れ飛ぶ。
残りの女は中型の半自動拳銃を抜き終えるも、一瞬で仲間二人が肉塊に進化した現実を前にパニックになる。
「なにすんだよっ!!」
と拳銃を構える残った女。歳は17歳くらいだろう。そこそこ可愛い見た目をしている。変態どもに受けが良さそうだ。
と、秀治はケミカルを呷りながら思った。
店内は「いつもの危険」に過ぎないこの成り行きに、平静そのものだ。
「さぁ。おまえはどうする?」
とクマモト44を構える健治。とはいえ、女の言葉には耳を傾けない。彼は自分が言いたいことを言い、やりたいことをやるだけだ。
「どうするって……」
残った女は青褪め怖気づいているが、それで殺人能力を失ったわけではない。それはこの場の誰もが理解していた。引金を引くのに、然程の労力や特殊能力が必要なわけでは無い。
「お前らの雇い主を言えば」
と秀治は何の気無しに言い、ケミカルを呷り、
「壁に貼り付いているクソの塊にならないで済むかもな、ふぃー」
と女を見ずに呟く。態度は落ち着いているが、内心はワクワクドキドキしている。いつ自分の頭が吹き飛ぶのか分からないこの状況を楽しんでいるのだ。
無論、秀治は自分の頭が吹き飛ぶENDを望んでいる。『こんな狂った世界』だから、では無い。
『転移元の日本よりいくらかマシな世界で無意味に殺されるのは、転移前の想定よりは良い死に様だ』と思ってるからだ。
「……な、なんでバレた?」
健治の暴力と秀治の誘導に、テンパってる女はついゲロを呟きに乗せて吐いてしまう。
二人に確証があったわけではない。
だが、この稼業に証拠は不要なのだ。
怪しいと思うなら、即座にぶっ放してしまえ。
後の事は、後でなんとかすればいいのだ。なんとかならないならば、死ぬだけだ。
これぞ自由である。
結局、女は知ってることを白状した。
女が意外と情報を知っていたことから、秀治は女に温情をかける。
ジンジャーとの交渉により店の清掃費用の補填として奴隷窟に売り飛ばすことになった。
無論、売り飛ばす前にジンジャーと客らでたっぷり『商品価値を確認』してからだ。
「おまえらは味見しないのか?」
と常連客の1人が言えば、
「公衆便所は使わないことにしてる。病気がこぇーからな」
と笑って返す秀治。
その横で、健治は真面目な顔で品書きを見つめて何を注文するかまだ悩んでいる。
今日もジンキャスの日常は平穏であった。




