強襲用軽機動車『Lidd-VTH』
リド・ブス。
それは、ブスバカリ様式のニトロマンを搭載するリドである。
常時供給され普及している標準ニトロマンと違い、ブスバカリがチェンジャーに並ぶのはレアだ。
だが、両者の違いを分かる者はいない。
なぜなら、ニトロマンの稼動音と表記以外は何も変わらないからだ。
チェンジャーのラインナップにブスバカリがあるのは、レアガチャ詐欺と同じである。
全ての人類は、特別でありたい愚かな衝動を持っている。それが豊かな生存にとって優位に働くという再現性無き信仰である。
無論、そんな法則は自然には無い。むしろ他との違いは、標的に成り易く生繋ぎ難しだ。嗚呼無紋様のシマウマの末路よ。
ダイスケが見つけたのは、そんなイシカリノカニで誰もが使いたがらない結果としてなんとか原形をとどめたリド・ブスである。
この場合、目立つ事が逆に敬遠を招き、結果的に生き残ったと言えよう。
しかし、いずれにしても使う者が残らなければ、ここでその役目を終えて砂に埋もれる末路だった。
「よりによってコレ?」
ダイスケが引き摺って来たリド・ブスを前にハナコは溜息。
「他のはどうしようもないです。ほとんどがバラバラでした。こいつだけがほとんど無傷で」
「当然だろう。誰も戦闘用途には使わなかったはずだ」
ダイスケの報告に、シズコが頷く。
4座席+開放型上部銃座x1。備銃は無く、望遠鏡が代わりに付けらた警戒席化している。戦闘目的で使わないと考えられ、機銃は外されていた。
「積まれてた物資は無事ですが、あまり量はありません」
無論、ダイスケは事前に自身の生存目的にある程度の物資を隠匿した。
「移動だけに使っていたからね」
とハナコは金属フレーム各所に付けられた物資箱や鞄を開いては確認し、シズコは魔石の残量を確認する。二人ともダイスケの隠匿を見抜いていたが、責める理由は無い。
「生存物資は三人で5日分ってところね。リド・ブスがイケるなら、これは充分。予備の環境保護服と武器は?」
「環境保護服の応急補修パッチがありました。短時日しか持ちませんけど、損傷は補修できます。あと、銃は無いです。うちらもコリアドも含め、すっからかんです」
応急補修パッチが大量に余っているのは、大量の死者が発生した場合だけだ。この場の誰も、そこには触れない。そんな余裕は無いのだ。
ダイスケは既に応急処置をしており、彼からパッチを受け取ったハナコとシズコがパッチを使ってお互いの身体確認をしながら損傷箇所を補修する。その後、ダイスケもチェックを受ける。
「ハナコ。魔石は心許ない。ニューシャンハイまで辿り着けるかは賭けになる」
シズコの報告にハナコは冷静で、ダイスケはやや青褪める。
「そう。じゃあ、さっさと移動しよう」
と事も無げにハナコは出発を促す。傭兵団が消滅した以上、大きな状況変化を促す理不尽な命令は機能しない。
「はい」
「りょ、了解です」
シズコとダイスケもそれを理解していたが、シズコはハナコと一蓮托生の覚悟を持ち、ダイスケは他に生き残るアテが無いので従う感じだった。
「目標はニューシャンハイ。慌てないで、できるだけ急いで、色々注意。集中力を途切れさせない事が一番大事。ま、やることはこれまでと同じ」
とハナコが具体的ぽい曖昧な行動方針を宣言し、助手席のダイスケが「了解!」とヤケ気味の空元気を出し、運転席のシズコが「はい」と応えてブスバカリを起動。魔石を砕く音と独特の稼動音を発し、仄かにブスバカリが青く光る。
三人が乗り組んだリド・ブスが砂岩の大地を蹴って発車。砂塵緩衝装置が適切に上下動し、段差や地形に因らず直進を補助する。
ハナコは上部銃座で背後を振り返り、遠ざかる父と仲間たちの死体に別れを目礼で告げる。
感傷は一瞬。
それ以上は許されない。
それが砂漠である。
ハナコは進行方向に向き直り、再び背後を振り返る事は無かった。
***
車輌用のグラバーとも言える砂塵緩衝装置により、砂岩と砂丘がごたまぜの地形でも、リド・ブスは最も燃費の良い巡航速度を発揮した。無論、シズコの操縦の腕があってのことである。
武装や装甲を外した分だけ物資搭載量を増やしていたが、ニューシャンハイまで1日の距離に来ていたので全体の生存物資自体が減っている。これは航続距離を稼ぐのに良い条件だった。
ハナコは上部銃座で望遠鏡を使い、進行方向扇状120度の監視を続ける。砂丘が多く、さらに砂塵が舞うので視界透過度は低いが、何もしないよりは集中を切らさない。
環境保護服を着ているとはいえ、密閉型の車輌よりも色んな面で厳しい行程だ。灼熱の陽光と砂風の煩わしさに晒されて心地好いと思う者はまずいない。
行程を開始して10分ほどで、三人は風に乗って運ばれてくる戦闘音をキャッチする。
ハナコは目前の砂岩を遮蔽にして停車するように指示し、シズコが指示通りリド・ブスを停め、独特の音を発するブスバカリの稼動も停止させる。
停車したら、ハナコはすぐに二人に周辺警戒を指示。
それから遮光器のついた望遠ゴーグルを手にリド・ブスから降車して、砂岩を登る。
『どこかの戦団? いや、装備が良いから傭兵かな』
砂岩に腹ばいで寝そべり、ハナコは発見した武装勢力の規模を測る。
『目算で二個分隊くらい。キャリアは2以上。タルクが7以上。BPARもいる。数は不明』
『一番近いのは、BPARと歩兵の二人組。風向きから、こちらに気づいてはいない』
脳内メモにハナコは情報を書きつけ、すぐに腹ばいのまま匍匐してリド・ブスに戻る。
「1km以上迂回したい。魔石は足りそう?」
戻ったハナコはダイスケに訊ねる。シズコは継続して周辺警戒。
ブスバカリを確認していたダイスケは、
「無理っす。この先も何がアルか分からないですし」
既に天候が変わりつつあるし、何に遭遇するか分かったものでは無い。
当初から『イケるイケないでは、イケるかもしれない』だった。
出発して10分で迂回を強いられるような行程は、魔石を極端に多く消費する。
既にニューシャンハイの都市圏内に入っているのだが、むしろ人が多く集まる都市圏は戦闘・略奪が増加傾向にある。
しばし思案顔で親指を噛むハナコ。
次いで、
「潤沢にチケットがあるわけじゃないけど、迂回経路上に補給処は無かった?」
とダイスケに問う。
「えーと。あるっすけど、今もあるかは……これ、前回来た時のマップですよね」
とダイスケは頼りない顔で答える。
戦団が活発に動き、傭兵がそこらでドンパチし、適応生物がそこに花を添える。
中世をモデルにしたファンタジー世界と同様、人類は霊長では無いし強者でも支配者でも無い。怪物怪奇怪異が跋扈する世界のほんの一部を必死に守って生存しているに過ぎない。他の生物種同様に、人類がいつ絶滅しても全く不思議ではない。
この世界も同様である。
つまり、補給処や給水地は、目まぐるしく消えたり移設したり再建したり放棄されたりしている。
「ハナコ。傭兵の前衛斥候が迫っている。徒歩。数は3。うち、BPARが1。10時の方向、距離目測で300」
周辺警戒中のシズコが新たな動きを告げる。
「はいはい。ダイスケはシズコと交代で迫っている連中を監視。シズコは運転席。指示したらブスバカリ始動」
苛立たしさを隠し切れずにハナコは矢継ぎ早に指示を出し、自分は銃座に上がる。
「次から次へと。不運は続くって言うけど、そろそろ流れを断ち切らないとね」
銃座におさまり、ハナコは呟いた。




