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トラベラー傭兵部隊『石狩の蟹』の最期

秀治と健治がパルコの制圧射に対してリアクションを開始した頃のこと。


ほぼ同時刻の真昼に、窪地から北に2kmの砂岩地帯で特定の拠点都市を持たない流浪(トラベラー)傭兵部隊『イシカリノカニ』が壊滅した。

護衛してた資源輸送隊に対してのコリアドの襲撃に加え、旧世界の豚に似た吸血適応生物『ホー・タカリ・エフミ』の群れに襲われたのだ。

三つ巴の戦闘は、2分で終わった。

たったそれだけの短い時間で、人類に限って言えば育成に平均20年かけた多数の命が失われた。

つまり、2分で平均20年分x人数分のコストが永久に失われた。失われたので、全てが無駄になった。

投じたコスト分だけ、人類にとっては大きな負債であり、大赤字である。

ただ生きるということ自体が、コストで考えれば負債なのだから。

最もコスパが良い人生とは、突き詰めると誕生直後に間髪入れずに死ぬことである。誕生の瞬間に死ねば、コストをほぼ0にできる。

故に。

効率やコスパを強制される場を、現出する地獄とも呼ぶ。

そして、戦場は最も出現率の高い地獄なのだ。


***


資源輸送隊は消滅。

コリアドも消滅。

イシカリノカニは三人を残して、全員ホー・タカリ・エフミに血を吸われ肉を貪られて原形をとどめないミイラ状になっていた。

ホー・タカリ・エフミは、残った三人が生き残るための活路を拓くような奮闘と幸運により、消滅した。

武器折れ、矢弾尽き刃物も全て折れるような激闘の果てに、初めて三人は生き残れたのだ。


3名のうち、最先任は年齢13歳でイシカリノカニ隊長の娘であるハナコ。

残った2名のうち、1人はハナコの護衛で29歳とかなり歳がいってるシズコ。

もう1人は炊事担当兼車載機銃手で17歳のダイスケ。

彼らは主に運によって死闘を切り抜けた。

当然疲れきっているし、環境保護服の損傷も懸念材料だ。

だが、束の間の休息が許されるわけでも無いし、損傷を確認している余裕は無い。


所属する基盤組織が失われた彼らは、言うなれば国籍を失った派遣労働者と大差無い生きているだけのゴミだ。

いや、燃えるゴミの日に出してスッキリできない分だけ、ゴミにすら劣るとも言える。

(信用)無し。

(背景)無し。

つまり、身分(存在価値)無しだ。

能力の有無は関係ない。能力なんてものは、銭と族の前には無意味であるし、銭と族で代替可能だ。

小は大に及ばないが、大は小を兼ねるのである。


少なくとも、2000年代の同胞喰いをしている日本の自認上級国民たちが彼らを見れば、総じてそう思っただろう。


残骸を確認して回るダイスケを眺めながら、ハナコとシズコは今後の身の振り方を話し合う。

残った仲間やコリアドの死体は、原形をとどめているモノの方が少ない。

そして、そもそも埋葬は不要だ。砂漠で死ぬ者は、砂漠の自然に抱かれて砂に埋もれるのだ。

弔いの気持ちを、何らかの時間と物資を取られない手段で為せば、それ以上の事は不要だった。

そもそも、砂漠にいる人類にはそれより上の余裕は無い。適応生物でも無い限り、この砂漠という環境は生物にとって過酷なのだ。


小ダザイからセンカク要塞を経由して延々砂漠を渡ってきた彼らだが、もう少しでニューシャンハイという地点で運に見放された。

ハナコの父も資源輸送隊の頭領も人事を尽くした。

単に運が無かったのだ。

だが、自分達三人は生き残っている。この先は分からないが、今は生きている。

だから。


「移動手段が確保できればニューシャンハイ。無かったら、それまでね」

と肌身離さず身に付けているマップケースから各都市の相対距離と相対位置だけを記した図を取り出して広げたハナコが言う。

「そうですね」

とシズコも同意する。


そもそも、環境保護服を着用した人類の徒歩で地獄の砂漠を越えるのは不可能。

機動力が無ければ、ここからニューシャンハイまでたどり着く方法は無いということになる。


ダイスケは必死になって残骸を漁っている。

それはハナコやイシカリノカニに対する忠誠心や恩義だけで無く、何よりも自身の目前に展開された死活問題だからだった。

これを矮小と責める事はできない。そもそも個人はどれだけ有能でも、砂漠の前では矮小なのである。

誰だって無政府状態の無国家世界で生きれば、つまり歴史を失えば。

心は、我が身が一番になるのが当たり前なのだ。

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