保身と合理性に勇気は要らない
数分後。
環境保護服を着た者が2人とBPARを着用した者1人が窪地の上に現れる。
彼らは、ハンターAの先行偵察班Bである。
本隊に先行し、事前にアタリを付けた範囲を偵察・目標を発見・監視する役目を負っている。
BPARを着用した者がバロの班長であり、彼は徐にパルコ10mmWSDを構え、自身で目視目測した秀治と健治に20サイクル撃ち込む。
およそ2mある銃から放たれる銃声としては、比較的軽い音が連続する。
突然の射撃に、バロの残り二人は少し驚いている。だが、彼らも傭兵である。
しかも、仕事が途切れ無く続いている月光の銀所属の傭兵だ。
即座に自身の役割を果たすために1人は伏せて遮光シールド付の望遠ゴーグルで観測に入り、1人は目標から見えない位置に下がる。
これは、攻撃効果を確認する事に専念する者と、敵の反撃から連絡役を生残させるBattle・Intelligence・Communicationという正面戦力三要素の基本的な役割分担である。これらを機能させていない戦闘単位は、どれだけ優位を得ようと必ず敗北する。
ビル風よりも凄まじく荒れ狂う窪地周辺の風と、巻き上がりのたうつ砂塵の煙。局所において拡大した気温差から生じる様々な悪条件は、決して射撃戦に向いた条件ではない。
距離およそ400。この場の条件ではまず当たらないが、パルコ10mmWSDは戦争用弾幕銃だ。命中率が1%でもあれば、制圧射で確率を上げられる。
発射された100発の弾は撃ち下ろしの優位があっても不規則に吹き荒れる風と気温差による大気密度の変化で軌道を変えて踊る。
それでも数発が窪地の二人に襲い掛かり、跳弾か直撃かは不明だが一人の環境保護服を損傷させたように戦果確認担当には見えた。
慌てたようにターゲットの二人はそれぞれ別の方向に飛び込む。その場所は、バロが陣取る位置からは死角となる。
BPAR着用者が身振りで連絡役を本隊に戻す指示を出す。
残ったもう1人は遮光シールド付の望遠ゴーグル越しに、観測に専念する。
このままBPARと観測手はここに残り、二人の動きを封じるつもりらしい。
本隊への報告を指示された1人は環境保護服脚部のグラバーを使って注意深く砂岩を降り、走り去った。
「目標に動き無し。避退経路の確認くらいしとくべきだったのでは?」
と観測手を担う者が左手でBPARの足に触れ、若干咎める様に言う。
どういう原理かは不明だが、接触しているとビル風よりも酷い風が吹き荒れる場でも会話が出来る。通信機の一種なのだろうが、使用している者はその構造原理など知らない。
「別の先行偵察が反対側に行ってるからな。こちらに注意を向けさせるのは、間違った判断じゃねぇよ。それに、本隊もすぐに来る」
とBPARがくぐもった声で返し、パルコを構えたまま腰を下げて膝射姿勢を取る。
BPARは外部スピーカーを内蔵しているが、自然環境によっては満足に機能しない。接触通信手段は砂漠の歩兵戦に必須の機能と言えた。
***
ハンターAは21名を擁し、うちBPARは9機。
野戦キャリアは2輌、タルクが13輌ある。
この地形にキャリアを入れるのは制限される。2輌入れるのはおそらく不可能。
タルクを入れても、優位点である『装甲された高速性と火力』を活かせない。
いずれにしても、無駄にキャリアとタルクを危険に晒すだけである。
よって。
ハンターAの指揮官は、BPARと歩兵の突入作戦しか取れない。
逆側に回った別の先行偵察の報告次第ではあるが、パルコを構えているバロ班長は数々の戦闘を超えてきた者のカンで突入作戦と直感し、確信していた。
ならば、突入組の援護射撃ができるこの場を先に占有しておく事は、自身の安全に繋がる。何が起こるか分からない泥臭い突撃なんて御免蒙る。
その為には、自分がここにいる時に戦闘を開始しておくべきで、突入が始まっても援護射撃という文句のつけようがない効率的な役割を担いつつ自身の安全を確保する。
指揮官の立場で考えれば、戦闘開始後に部隊の配置を転換する余裕を捻り出すには、自軍の損害と時間の浪費を覚悟しなければならない。それは敵の優位を増やす利敵行為である。
そんな事はなるべくしたくないだろう。
ただでさえ手駒と時間が不足しているのだ。
故に、バロ班長は威力偵察でも無いのに戦端を開いたのだ。
そして、今のところ直感以上に上手く行っている。目標の環境保護服に損傷を与えた可能性すらある。砂漠で環境保護服がイカれたらどうなるか? 考えるまでも無く、死だ。
パルコがこんなに頼もしい銃だとは、バロ班長も観測手も知らなかった。
高度な反動抑制機能と銃身交換不要の連続射撃性能と適度な威力と有効射程を実現しているパルコは、都市衛兵の制式装備には劣る。
しかし、チェンジャー市場に流通している銃の中ではトップクラスの総合性能を獲得している。
中Ⅲ型までの適応生物にすら対処可能であり、BPARを着用した歩兵やタルクにすら運用次第で有効射が可能だ。
小銃兵5名分の集中射弾幕を1挺で実現でき、重機関銃の1/5以下の重量で射程以外は見劣りしない。
泣き所はランニングコストだが、支給される身としては関係ない。
パルコを装備したBPARに対して防衛面で正面対抗力を担保するには、対砲撃防御された陣地や装甲と20mmクラスの砲が必要だろう。
ハンターAが持っているデータに、目標がそれらを用意しているという項目は無い。
バロ班長はランダムなタイミングとサイクルで窪地に向かって牽制制圧射を行っている。
行いながら、経験に照らしてもここまでの流れは良いと改めて確信を深めていた。
バロ班長はBPAR内で口角を歪め、自身の生存と任務達成、そして報酬獲得を確信した。




