生きるとは、試し試されること
ある広大で閉鎖的で野蛮な地では、地縁・血縁・職縁が人間関係の基本だった。
それぞれ、生まれ生活する土地での縁、血の繋がっている一族の縁、儲け話で絡まってきた縁。
こんな乱暴で人類の歴史と叡智を否定するような野蛮さがまかり通るのが、蛮地での常識だったのだ。
そして、気の遠くなる程の時間が経過した後のニューシャンハイも、その蛮地に属している。
悠久の時間を経ても、地縁も血縁も職縁も機能していた。
ここに孫一族というありふれた血族がいる。
一族は世界中に血族を形成し、各地を蝗の様に食い荒らして肥え太っている。
現地民はほぼ奴隷化され、孫一族は隆盛を極めている。
そして、現地民の誇り高き者が孫一族の者を皆殺すまでそれが続く。
ある意味で、この蛮地の種族の存在は人生の本質を再確認させ、教えてくれる。
そう。
「あらゆる生の本質とは、試し試されることである」
という本質である。
一般的には、こういった種族はオークやゴブリンが担当する。
しかしこの世界にイブリンはいても、オークやゴブリンはいない。
他の異世界におけるゴブリンに相当するのは、本能的レイダー種族のチャイナーとコリアドである。
生息地に根差す性質。
血縁で部族を為し、同種でも排他する性質。
だが、同じ襲撃に参加すれば種を超越して戦団を組む性質。
強者には盲従し、弱者とは共存しない。
これらはかつてこの地にあった蛮族と同質である。
閉鎖的で広大な蛮地における種の進化がなされた結果と見る者もいるが、数々の遺跡発掘から判明した真相は――
***
「つーか、つまりはここにいた人類がチャイナーとかコリアドとかいう亜人ってだけだろ? いや、本性を現した? いや進化した、か」
「つーか、他に異世界があるの前提で書いてるよなこの本。観測した奴が書いたのか」
「やっぱチェンジャーの嘘設定と同じノリだよなぁ、これ。デキの悪いSFってところか」
と、チェンジャーで購入したハードコピーの1つである『起源人類変遷学基礎読本』を携行型デッキチェアの上で読みながらツッコミを入れる秀治。
「なんだ? その本面白いのか?」
と火の番をしている健治が一瞬振り向く。砂漠において陽光のささない場所は雪国よりも冷え込むので、環境保護服を着用していても油断できない。事実、21世紀の旧世界でも赤道近くの砂漠で凍死する者は少なくなかった。健治は上質の固体燃料を惜しげもなく使って火を維持する。
「面白くは無いな。ツッコミどころ満載だ。が、時々マトモなことも書いてあるなぁ」
ペラペラとページをめくる秀治。
「大概の本がそうだろう? ラノベ以外は」
「ラノベは読んだ事が無ぇのでわからんけど、作者が無記名なんでやっぱ変だわこの本」
作者不明の本は少なくないのだが、秀治も健治も知らない事実であった。
健治が「そうか」と言いながら手にしたフレア棒の調整をし、秀治は手にした書籍を閉じて身を起こし、もっと有意義な時間の使い方を考える。
温かいカフェ茶の入った保温水筒を健治から受け取った秀治は、再びデッキチェアに腰を落とす。
カフェ茶は変わらず美味い。
ダラーズ・ヘビーを喫い、暫し無言になる。
健治が新しい鍋に水ボトルから水を入れ、湯を沸かしている。
宇宙船窪地の外は快晴なのに、ここは環境保護服越しでも冷え々々している気がする。科学的には、地形が吸収した環境温度の残滓現象である。
「ここでヤり合うことになるな」
と健治。調整を終えたフレア棒を横に置く。
「多分な」
と秀治。
「数が多いと厄介だな。ここは袋の鼠だ」
「やばくなったら砂漠の鼠になるさ」
「笑えないな」
と言いつつ苦笑する健治。
秀治は、
「……つまり、いつも通り。何とかなるようにヤるだけだ」
とダラーズ・ヘビーの煙を吹く。
「分かった」
と健治も背中で応じた。




