何とかするにはダメ過ぎる
「あの野郎……ニトロマンと車台がヘタってるキャリアを寄越しやがった」
操縦席で秀治が苦りきった声で愚痴っている。
健治は上部銃座で全周警戒中である。
「ケンちゃんよぉ、やばいかもだぜ!?」
秀治は上に向かって怒鳴る。
「密閉も甘い。砂が入り込む」
と健治は返す。
環境保護服は自分達で入手したモノなのでヘタっているかどうかは今のところ分からない。
だが、チェンジャーで提供されるものは耐久面でも効能面でも8掛け程度には信頼できると二人は学んでいた。
「とりあえず、できるだけの事はやっておくか」
と秀治は溜息をつき、
「そこの窪地に入れて止める」
とキャリアの速度を落とし、徐行速度で窪地に入れる。
窪地は何かの遺跡の残骸で形成されたもので、二人は「宇宙船か? スゲー」という感想を持った。
砂漠では地図がほとんど当てにならないので、この窪地の正確な位置を二人は記録できない。
天測資料や精密測定機器やGPSでもあれば別だが、そんなものは無い。
「じゃ、ちょっといじって何とかするわ。周辺把握と警戒よろしくなケンちゃん」
秀治はそう言い置いて、キャリアに潜り込む。
健治はコミュニスト666を手に、円状に窪地の安全確認をする。
***
健治が確認を始めて数分後。
巨大な箱型の機械が砂に埋もれて大量にある空間が目に入る。
あまりキャリアから離れるわけにもいかず、キャリアが見える地点から健治は離れようとしなかったので確認はしなかった。
その後はビル風に似た感じで時々吹き込む砂風に悩まされながら、健治は把握を完了。警戒に移る。
秀治は頻々と愚痴を叫びながら『何とかする作業』を続けていた。
「秀治。確認はしなかったが、なんか機械が大量にある場所があったぞ」
と、立哨する健治はキャリアの中の秀治に大声で報告する。
「あーん? 機械? 今それどころじゃ無いよ!」
と秀治は応え、健治は「一応な。それ以外は特段何も無い。安心して『何とかしてくれ』」と〆る。
健治にしてもコミュニスト666を何とかして別の拳銃に変更したかった。
もっと言えば、砂漠に出た以上はそれ向きの武器が欲しかった。
だが、そんなものは多分無い。なので、手持ちのモノで何とかするしか無いと考えている。
***
健治がかつてそれなりにハマったオンラインアクションゲームの1つに『歴史戦車大全』というものがあった。
妙な科学者が実在を確認されている戦車を4D再現機で複製・改造できるシステムを構築し、プレイヤーはそれを使って自分好みの戦車をカスタムして試合場で戦わせる興行奴隷という設定の安直なものだった。
だが、その安直さと軽さが楽しかった。
なぜ健治がそんな事を思い出したのかというと、さっき見た機械群が歴史戦車大全に登場する4D再現機とどこか似ていたからだ。
だから何だ? と健治はバッサリ思考を中断し、再び警戒に集中する。
秀治の方も『何とかする』には、手持ちの物資では限界が来る事は分かっていた。
そもそも製造知識も設備も無い以上、何とかするにしても部品交換とマッチングの調整くらいしかできない。
それほど高度な機械では無いので、ニトロマン以外のあれこれはさっさと交換し調整して終わる。
問題はニトロマンである。
魔石という意味不明の何かを燃料なのか媒介なのか、ともかく必要とする謎の動力機関である。
「ったく」
秀治はニトロマンを見つめ、苛立たしげに嘆息する。つまり、お手上げである。
見切りと決断と注文が早いのが秀治の持ち芸であり、それは状況に因らず発揮される。
「ダメだぁ、ケンちゃん。これ以上はどうにもなんねー」
と秀治がキャリアから出てくる。
手にはチェンジャーから買った飲用水のボトルが2つ。
秀治は1つを健治に放り、健治は危なげなく受け取る。
「そうか」
と健治は受け取ったボトルの口を切り、一口含む。
「ダメダメだぁ。この世界は全く異世界モノぽくねぇ。できることが少なすぎるわ」
と秀治も水ボトルを呷る。
二人とも機械工学を学んだわけでもなく、せいぜい義務教育で習ったレベルの機械いじりしかできない。
それも、前世界の法則に則る物限定であり魔術とか魔石とかが出てくるとわけが分からず、いじりようが無い。
そもそも加工具も治具もほとんど無い世界で、何とかするのは無理があるとも言えた。
二人が見た限り、サードエリアでは金属加工すら人類がやってる様子は無いのだ。
全てはチケット経済システムとチェンジャーによる供給なのだから。
『金属を自分達で加工して活用するって発想があるのは、転移者と転生者と一部の遺物知識を得た奴だけじゃないかなぁ』
と、かつて秀治は結論付けていた。
「あ」
と健治はどん詰まり状態で苛々している秀治に、
「前の世界でHTEってあったじゃないか。あれの47ミリ砲な。気に入ってたんだ」
と滅茶苦茶不自然且つ突飛な事を言う。健治はこういうことをままやる。あまり会話が得意では無いのだ。特に、どうでもいいような会話が苦手だった。
浅く無い付き合いの秀治は、当然健治のこういう気遣いを理解している。
「そういやケンちゃんはその好事家の為の砲をしつこく使ってな」
「選択の余地がある場合、好きなモノを使い続けた結果のみが納得をもたらすものだ」
健治は立哨のまま、背中で語る。
それを見ながら、秀治は水ボトルをもう一口呷り、
「……HTEか。どうにも懐かしいね」
とやや遠い目をして微笑む。
秀治の苛立ちはやや緩和されていた。




