サモラブレドは便利
ニューシャンハイのサードエリアにある月光の銀所有の敷地に展開されている仮設基地内の二号棟。
二人の男が作戦控え室で話しこんでいた。
一人はTIETの隊長。もう一人は三人をここに連れてきた三等団員である。
「あの三人、初の実戦を生き延びてちょっとは使い物になりそうだったんですが、良かったんですかぃ?」
中年の三等団員がチケット100枚以上の価値のある半合成酒の瓶を手に取り、2つのグラスに注ぐ。
「バロスさんが望むことなら、その内容に関して我々がとやかく言うことは無い。我々の任務はそういうもので、だから他の団員とは別格の待遇にありつけている」
『さん』に微妙なイントネーションをのせ、TIET隊長はグラスを受け取りながら真顔で返す。
「まぁ、そうなんですがね。ヘヘ」
「三人がどうなるかは、あいつらが決めるさ。それが自由で自己責任ってものだ」
「不自然なる自由の罠ってやつですな。あいつらがこの傭兵団に入ることを決めた時点で、こうなることは決まっていたと」
「旧世界で流行した自由や平等や人権なんてものは、所詮は支配者にとって便利な『バカを騙すための道具』に過ぎない。それは、旧世界が滅んだことで実証されてる」
TIET隊長はグラスを手に肥満体を揺すりながら溜息交じりに語り、続けて、
「自分達が滅びるような選択しかできなかったという事は、現実問題に対する不自然な思考の歪みがあったという事だからな。個体の生存が最優先では無いが、肝心の世界が存続しなければ全てが水泡に帰すということだ」
と半合成酒を呷り、続けて、
「それは組織も集団も同じことだ」
と〆る。
「スタンドアローンでは生存も存続もできないですからな」
三等団員は珍しく長口舌な隊長に付き合い、グラスを掲げて同意する。
二人の男はこの世界の常識に囚われていない。
もし囚われていたら、このような過酷な世界の傭兵組織内の異質な部署を回すことなど覚束ない。
さらに、特権を享受し続ける事もできないのだ。
常識やルールは守るものではなく、自分で作り他者に強制して活用するものであるのだから。
そういう意味では、バロスは少々TIETに属する者たちにとってはルールに左右され過ぎている物足りない雇い主とも言えた。
だが、今回のバロスにしては変わった命令は、ルールを守る側からの脱却の兆候かもしれない。
少なくとも、TIETに属するこの二人はそう考えていた。
***
チェンジャーで所有権移項手続きを終えた二人は、その足でバロスが所有するモータープールに向かう。
歩哨も立ってない無用心さに違和感があるが、広大な敷地を占有したモータープールに入り、なんとか頂戴して所有したキャリアを見つける。
そこには、三つの少年らしき影が蠢いていた。
秀治は健治に目配せする。
健治は頷き、2分かけてキャリアと各種機動車の列を迂回し、三人の少年の首に連続してサモラブレドを突き刺して回る。
頤と鎖骨の間が潰れたトマト状態になった三つの死体を見下ろし、
「この制服は、アレだよな」
「バロスの手下が着ていたな」
「仕掛けてきたぁ? バカか?」
「にしては、こいつらがしていた事がな」
と健治は三人がキャリアの下に潜り込んで仕掛けようとしていたブツを秀治に見せる。
秀治は受け取り、
「発信機か?」
と健治に訊ねる。
「どうかな。だが爆弾ではない」
「目的は俺らの監視。その理由は、俺たちの所在を常に確認し、抹殺に絶好の機会獲得ってところか」
「発信機なら、そうだろうな」
秀治は肩を竦め、
「おいおい。バロスの旦那よぉ……」
と天を仰ぐ。
「どうやら、優秀なバカのほうだったようだね」
と健治。
「やれやれ。で、俺らはどうする?」
「秀治のプランでいい」
「おっけ。じゃ、とりあえず備品とキャリアのチェック。必要物資は2週間分ってところで」
「了解だ」
二人の野獣は動き出した。




