月光の銀
頂戴したキャリアに向かう前に、二人にはやらなければならないことがあった。
無論、バロスの組織のモータープールにある頂戴したキャリアの所有権変更である。
「チェンジャーで管理キーを使い所有者を変更しなきゃな」
と秀治。
「急ごう」
と健治。
サードエリアではそこら中にあるチェンジャーだが歓楽街である大世界では数が限られており、折悪しく二人がいる場所の近くにはチェンジャーが見当たらない
なので、やや早足で歩く二人。
バロスが立ち直って余計な真似をする前に、一度チェンジャーの管理下に頂戴したキャリアを置く方が無難なのだ。
急ぎ足でチェンジャーに向かう秀治が、
「そういや。妙な名乗りをあげる事になったが、意外と悪くないよな」
と言えば、健治は、
「ああ」
と返す。
そんな遣り取りをしながら、二人の若者は夜中の大世界から脱け出したのだ。
***
この世界において、命と都市内にいられる以外の何をも持たない身分の若者が少しでも長く生存する方法のメジャーな手段は、傭兵と売春である。
この2つだけが、自分の才能と運だけでチケットを稼ぐことができるからだ。無論、その大半は最初の仕事で死ぬ。
傭兵はともかく売春に危険があるのか? と考える平和ボケな人がいるらしいが、21世紀でも危険地帯での売春とはそういうものだった。
法治国家の縛りが無ければ、全てのコトに於いて命の危険が爆発的に増加するのだから。
この世界に於いて、持たざる者が選べる選択肢は少ない。場合によっては無いこともある。
選択肢が無い者は死ぬしか無いし、選択肢があっても命がけで運ゲーを自分の才能で乗り切るしか生存する方法が無いのだ。
そして、秀治と健治も幾度も運ゲーを才能で切り抜けている二人だ。
ここに、ガセ・ヒロユキという少年がいる。因みに、ガセが名前でヒロユキが苗字である。
バロスが抱えている傭兵団『オクジフ・クニキス』の1つに所属する、五等歩兵である。
ガセは団において最年少の一人であり、最低階級の使い捨てられ担当である。
月光の銀において同じ境遇の者は多い。だが、仲間意識は無い。横の繋がりが出来ないように個人を分断するのは組織運営の基本であり、バロスから団を預かる現団長もそのルールを守っている。
より上位の傭兵たちは一部の任務がある者を除き、報酬が入ったということもあり都市歓楽街に繰り出していた。
だが、五等歩兵組は出かけない。出かける許可も無いし、余分に使えるチケットも無い。
彼らが押し込められているカマボコ宿舎の中で、彼らは一言も話をせず、暗く真剣な顔で支給されたアギスを丁寧に磨いている。
制服と低級生存装備とアギスしか装備を支給されない五等歩兵にとり、目の前の戦いを生き延びてノルマを果たすためにはアギス以外に頼れるモノが無いのだ。
砂漠では適応生物やレイダーが。
都市内ではアンダーダークやどこかの組や愚連隊が。
いつ襲ってくるかも分からないし、自分達が四等団員以上になるには手柄というノルマを果たさないといけないのだ。
だから、彼らは協力できない。協力したら自分が死んで、他の者が首尾よく四等団員入りというマヌケな結果になるからだ。
自分の才能で勝ち上がれ。
個性である個人の才能ほど素晴らしいモノは無い。
才能が無いやつが勝てないのも死ぬのも、自然なことだ。
旧世界は不自然さから滅んだ。
なんとか生き残れた選ばれた人類は、二度と旧世界の愚かな人類の轍を踏んではならない。
これが常識となっている。
それしか教わってないので、他の考え方を知らないのだ。
そして、常識が輪となってシステムが回っている。
無論、ここにいるガセらもこれが当たり前だと思っている。
そんな折、
「ガセとニックとロンボ。二号棟に来い!」
面識がある三等団員が宿舎の出入口から顔を出して命令する。
ガセらは即座に立ち上がってアギスを腰のベルトに吊るし、命令に従う。
五等歩兵の少年三人は、手柄を立てるチャンスが来たのかもしれないと気合を入れた。
***
二号棟は8931小隊の管理棟であり、BPAR着用の団員により物々しい警備が常にされている。
三等団員に連れられ、ガセらはそこの作戦控え室に押し込まれた。
中には8931小隊独立特別戦術分隊の隊長がいた。
「三名とも楽にしろ。貴様らに任務が下令された。作戦説明後、即時出動だ」
TIET隊長は制服を裂かんばかりにでっぷりと太った腹を撫でさすりながら、作戦を説明する。
説明は40秒で終わった。
三等団員に「もたもたするなっ!!」と蹴飛ばされながら、ガセら三人は徒歩で出動する。
支給されたのは新型の発信装置だけ。ニトロマン動力にくっつけるだけでそのエネルギーを利用して稼動する。
それをキャリアの1つに仕掛けるだけ。
命令なので実行しなければならないが、正直な話として三人とも落胆していた。これは手柄にならないからだ。
三人は黙ったまま傭兵団とバロスの資源輸送隊共用のモータープールに向かう。
彼らは、何の危険も感じていなかった。作戦説明でも危険は一切触れられなかったし、命令内容に戦闘的な要素が一切無かったからだ。




