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人類だもの

『こいつらとは二度と関わりたく無い』と、バロスは思う。

強いからとか残酷だからとか、冷徹だからでは……無い。

こいつらと関わると、ロクな事にならないという確信を得たからだ。

どうしてこいつらに興味を持ったのか、今では自分自身を信じられない。

『こいつらは何があっても自分達の途を変えない』だろう。


つまり、こちらのルールを無視するクソッタレ(ハードボイルド)だ。


そうありたいと願う男は少なくないだろうが、そういう存在になれる男は少ないか、まずいない。

日々を生き残る合理性とか利害損得を考えた場合、全くナンセンスな生き方だからだ。

寄らば大樹。長いものには巻かれろ。大半の人は、自由でいるよりも何かの奴隷でいる方が得をするし、奴隷であることを選択する。

その後ろめたさを誤魔化すために、人権とか契約とか対等とか関係とかいう『自然界には無い概念』を発明したくらい、人類とはそういうものだ。


だが、稀にそうでない者がいる。

それは自然界そのものであり、飼い馴らせない猛獣のようなもので、動物園でおとなしくしていてくれる類では無い。

早々にくたばってくれれば御の字な、バイオレンス(ルール破壊)の象徴的な存在である。

合理と利害損得のルールで生きている自分のような男とは、全く別なのだ。

本来、無関心と交渉と殺し合いという三択がある関係性に於いて、猛獣相手には無関心と殺し合いしか無い。

今回は連中の目的がバロスの命で無かっただけであり、もしバロスの命が目的だったならとっくにバロスはあの世である。

さらに、この野獣どもは契約とか取引という言葉を使う。端からそんなルールに従う気など無いのに、こちらのルールのことは熟知しているという事だ。

狡猾な野獣ほど始末に負えないものもそれほど無い。

バロスらのルールでは、バロスはそこそこの強者である。しかし、野獣の前では強者足り得ない。

強みである経済力が、何の意味も持たないからだ。

『利害損得の話にならない』というバロスたちのルール外にいる異質さを、バロスは猛獣・野獣と評した。


「じゃあな、旦那」

『砂漠のローニン』こと、秀治と健治は来た時と同様に自然体でその場を立ち去った。


***


死体だらけの連れ込み宿に1人残されたバロス。

続けて、バロスはカリンの死体を目に入れる。

卑猥な意匠のドアの外に出る。

部下の死体だらけだった。

すぐに部屋に戻る。

テーブルの上にある、中身が半分以上残っている合成酒の瓶が目に入る。

ふるふると疲れたように首を振る。


バロスは「だがな」と呟く。


バロスには部下の死体を目にしても、何の感慨も無い。

部下は手下であり、手駒であり、経営者としてはコストに過ぎないからだ。必要量さえ満たせば、増減それぞれにメリット・デメリットがあるだけのモノだ。

感情を抑制する経営者の本能であり資質は、恐怖心を緩和して現在やるべき事に意識をスライドさせる。

ヤバイ連中なら、始末した方が良いに決まっている。

野獣は一度捉えた獲物を決して逃がさないという。

この先もあいつらにいい様にされるわけにはいかない。

そうだ。


デザート・ローニンとかいうフカしたあいつらに渡したキャリアには、何の仕掛けもできていない。

だが今からやることはできるかもしれない。

手下の傭兵にやらせるべきだろう。

それが不首尾ならば、次に西に向かう前にあいつらを始末するべきだ。

どうせ根無し草な獣だ。今回のようにこちらが油断さえしなければ、数と火力で圧殺できるはずである。

リスク排除は優先事項だ。交渉ができないならば、排除の方法は自ずと決まる。

それがこちらのルールを歯牙にもかけない『野獣』ならば、始末するしかないではないか。

人と獣の物語は、常にどちらかの死で終わるのだ。

オレが死ぬのは嫌だ。

ならば、()るべきだ。


そう決断すると、バロスは死体だらけの高級宿を出て部下である傭兵たちの拠点に向かった。

歩いて向かわなければならなかったのは、携帯無線機というものが一般には無く魔石動力で稼動する大型の車載用しか入手できないからだ。

そもそも、都市内では近距離しか無線は届かない。

バロスは転生者でも転移者でも無いので、この異質さに気づけない。


バロス自身は気づいていなかったが、感情の抑制に失敗している。判断材料にデザート・ローニンへの恐怖心と反発が混ざりこんでしまっていた。

関わるべきでないと生存効率的な警告をする思考は、巧みに感情の作用によって歪められ、塗り潰される。

彼自身、今夜ほどの危機は今まで無かった。初めて人の皮を被った野獣・猛獣と直接対峙した直後であり、一概にバロスを愚かとは言えまい。

さらに、自分自身が信じているルール(秩序)がゴミクズ扱いされていい様にされた反発。

これは、人間である以上瞬時に頭でどうにかできるものでは無い。時間だけが解決する類のものだ。落ち着いて時間を置いて考えれば、また違った結論が出ただろう。

だが、経営者にとって時間と利益には密接な相関関係があり、悠長に時間を浪費することは忌避されるものだ。

自助だけが全てという偏ったルールを信仰して成功してきたバロスにとって、無論時間の浪費は選択肢にならない。

つまるところ、バロスは経営者であり自由人では無いということだった。経営者のルールに縛られた矮小な存在とも言える。

バロスが出した危機的状況を回避するために危機的状況を自ら招くという結論は、いわゆる経営者のルール、秩序の中に限れば正解に近いかもしれない。

だが、この世界は1つのルールで成り立っているわけでも無いし、秩序も1つでは無い。

あるルールが別のルールに、ある秩序が別の秩序に食い殺されることなど、珍しくも無い。20世紀を経て21世紀になっても、人類がやることに大差がないように、だ。


バロスは人類という前提において決して愚か者では無い。

むしろ人類の中では優秀な部類だ。


だが、単に人である事が彼の運命を決めてしまう。

人であることの宿命により左右される運命の環は、奇しくも彼が好んだ金属環と同様に逃れられるモノでは無い。

まさに……人であるが故に。


ともかく。

バロスの決断の結果は、これまで上手くやってきたバロスが得るモノとはかけ離れたものになるのだろう。

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