圧力と生命方程式
「なるほど」
秀治は納得顔で頷く。
続けて、
「つまり、漆黒の爪なんて組織はもう無いってことか」
とさらに頷きを繰り返す。
言いながら一転、プラカーブの壁にナイフを突き立てる。
「勇者評議会? ふざけんなよ。中2ユトリ病患者の集団がっ!」
スカムプロウラーをしめあげてこうなってる事実を知った秀治は、珍しくキレている。
噂にすらならない事実を知るために、秀治と健治は4時間もかけて支夷奴十四号街を歩かされたのだ。
秀治が吼え健治が無表情でいる場所は、BARラスボスが入るビルがあった場所。
漆黒の爪の本部があった場所。
最早、その痕跡すら見当たらない場所。
「どうも。その中2ユトリ病患者集団から来ました」
と、突然白と黄金の服装をした少年が瞬間移動したかのように出現して言う。
「……」
「……」
二人は黙って出現した勇者評議会の使いを見据える。
「ボクは林今鹿という者でして、今回の事後処理の一部を担当している勇者評議会の一員の勇者です」
和やかにヒョロ系イケメンのナウシカと名乗る勇者は自己紹介をする。
名刺を差し出す文化は無いらしく『この制服で気づけよカスども』という態度で、ニコニコしながらとうとうと述べる。
曰く。
・勇者評議会の決定は絶対。
・転移者ごときが勇者評議会の決定に不満を持つことすら不敬。
・勇者評議会は今回の騒動に関係して損失したゴミカスどもの補填をしてやる。5万チケット分はクーポン券で、5万チケットは真水で。
・なお、上記の補填はチケット消費税導入運動に賛同する事が条件。
などなど。
「いらん!!」
と秀治。健治も頷きながらコミュニスト666を構えようとしたのを、秀治が腕を掴んで止める。
「あっそ。じゃ、ゴミムシ転移者君たち、面倒なこと起こさないでね? 違法はいけないことだよ? ぷーくすくす」
と言い置いて、ナウシカは再度瞬間移動する。
二人にとって、違法が悪いとかはどうでもいいのだ。
設定された法そのものが違憲だった場合または違憲要素が少しでもある場合、違法行為が遵法になる。法とは、その程度のものなのだから。
裏路地に残った二人は、新たな敵を見つけた喜びを隠しつつ、無表情にその場を去るのであった。
今すぐには無理だが、歴史的重みも伝統的説得力も無い集団に対して、彼らは従う気は毛頭無いのである。
喩えそれが目先の利益に繋がろうとも、最低でも2千年以上続く何らかの権威でなければ、従えないのだ。
でなければ、詐欺師の天国になってしまうからである。
そんな世界を二人は望んで無い。
ゆえに即座に結論が出た。
勇者評議会は潰す。皆殺しだ。
と。
結論が出れば早い。
そのために必要なプロセスを踏めばいいだけなのだから、自然に目標が決まる。
二人は歩きながら、それぞれの思考の中で目標達成の計画を立て始めた。
そこには、少しの間仕事で共に過ごした少女の面影など消え失せていた。
所詮女一匹。この世界には、男も女も腐るほどいるし、現実に腐っているのだ。
ゆえに、真の自由をライフスタイルにしている二人に対しては、女程度では『衝動と行動と獲得の確定方程式』つまりは『ハードボイルド』を覆す事はできないのであった。
無謀と言わば言え。
現実は、やってみなければ分からないものは決して少なく無いのだから。




