健治と秀治
西暦20XX年。
人類世界はリセットされた。
おそらく100億人前後の人類のうち、約1/3が消えた。
さらに2年後、残りの2/3のうちの約9割が消えていた。
「そう。存在が薄くなり過ぎて、誰にも何にも気づかれること無くすっと消えてしまったのよ」
***
ショットガン。
『世楽製』にしては充分持っている、と竹中健治は思った。
「ケンちゃん! そろそろニトロマンがマジヤバだぜ!」
機関担当の秀治が、右側ハッチから顔を出して叫ぶ。
「了解。 すぐにチャイナーを片付ける」
健治は手にしたヨラク・ショットガンを後方に向ける。
先には、チャイナーの戦闘バギーが1台。
「積荷ヨコスアル! ソシタラ、アナナタチ無事!!」
などと意味不明なことを叫んでおり、当然ながら健治はヨラクをぶっ放す。
「おいおいおいおいおいおい! 当たってねーぞ!! ケンちゃん!」
秀治が機関を制御しながら、器用に健治にツッコミをいれる。
「まだ慌てるような時じゃない。ほらよっ!」
一声し、健治は右手首を若干捻り気味にし、さらに連続してヨラクをチャイナー戦闘バギーにぶっ放す。
戦闘バギーは軽機動車より下の最底辺の車輌である。
少なくとも、この砂漠では。
健治愛用のセブンシェルに収められた弾頭は、7粒。
そのうちの3粒が、チャイナー戦闘バギーの操縦手の心臓と右目を吹き飛ばした。
乾いた砂の海に飛び散り埋まる血まみれの身体部位。
残りの4粒は、勿論空の彼方だ。
「ナニスルカーーー!」
チャイナー戦闘バギーの上方に位置する57mm機関砲の砲手が叫ぶ。
だが、それは虚しい叫びだ。
操縦手を失ったバギーは、砲手が何を叫ぼうとも制御を失った事実を変える事は無い。
チャイナー戦闘バギーは凄まじい砂煙を上げ、高速での制御喪失という洗礼を受けてジャンプ、ステップ、ローリングをし、爆散した。
「やったぜ!!! さすケン!!」
秀治は機関を制御しつつ、ニトロマンの後遺症を安定させながら、言い出しっぺの健治すら数えていなかったタイムリミットを叫ぶ。
器用な奴だ。
と、いつも通りに消費したセブンシェルの補充をヨラクに込めながら、健治は思った。
「油断するな。チャイナーはキモ粘着系だからな」
健治は秀治にそう言い、自身は全周警戒姿勢をとる。
「分かってるよ! ……よっしゃ、ニトロマンも安定。ニューシャンハイまであと30分ってところだな」
「そうか。今回も面倒な仕事だった」
健治は穴だらけの防弾ベストの腰ポケットから葉巻を取り出し口にくわえる。無論、火は着けない。
そして積荷であるヤパン製の医薬品が詰まったコンテナにしばし視線を固定する。
健治には、このコンテナを自分に託してチャイナーの銃弾で死んだあの少女の、どこか満たされた死に顔が一瞬重なる。
「……」
全周警戒時にしては、視線固定に少し時間を長く取った。それだけ感慨深いものだったのかもしれない。
「……感傷は自分が死んでからやれって、な」
独り言を呟きつつ、すぐに視線を視程一杯に移して全周を見回す健治。
「感傷もおちおちできねー稼業、とくらぁ!」
秀治も独り言を呟き、自分の仕事に集中する。
そしていつもの、
「「ぼやぼやしてると、死ぬほど後悔バッサリさ!!」」
と二人の男の独り言は、タンデムする。
***
人類はリセットされても、そこそこしぶとく、生まれ、生きて、死んでいた。
ロマンに命を賭ける事が日常的になったことで、より人類全体の本質的な生命力を高めてもいた。
有史以前のような、より分かり易い周期に人類は突入していた。
男が男で、女は女だという自然の摂理の世界に、だ。