五話
「しーちゃん」
「いらっしゃい、」
ドアを開いたしーちゃんはちょっとだけびっくりした。はじめて見るおかお。かわいいね。いたい。あはっ、かわいいもいたい。すてき。
しーちゃんの手がほっぺにさわる。いたい。いたくて、冷たくて、気持ちい。
しーちゃんの指が目元にさわる。そういえばおけしょうをしてない。せっかくしーちゃんといっしょに寝られるのに。ちょっとはずかしいや。あれ?いつもしてたんだっけ。眠るときはおけしょうしない。あれ?でもしーちゃんは……わかんない。
しーちゃんに手を引かれておうちに入った。ふらふらしてもしーちゃんが抱っこしてくれる。全身がいたい。しあわせ。もっとぎゅうっとしてほしいの。えへへ。
しーちゃんはわたしをベッドに寝かせてくれる。
しーちゃんもきて?
いいの。しーちゃんにいたくされながら眠りたいの。だからがんばったんだよ。
「ひさしぶり、だね」
「えへへ。しーちゃん」
ひさしぶり。いつもわたし思ってるの。しーちゃんに会うたびに。でも今日はしーちゃんが言ってくれたね。ふしぎ。それだけでこんなに気持ちいの。しあわせなの。いたいの。
「隈、すごいよ。眠れてないの?」
あはっ。
聞いてくれた。
あまい。しーちゃんがあまいの。
「あのね、あのね、わたし、考えたんだぁー。しーちゃんとね、眠りたいの、だけどいたいから、だからね、ね、いたくても眠れるようにって、たくさん眠たくなってきたの」
しーちゃんがきらきらしてる。
いつもよりしーちゃんがきれい。
いたい。
いつもよりずぅっと。
好き。
だけどね、眠たいの。ずぅっと見ていたいの、だけどね、眠たいの。すてきでしょ?わたし、これからもしーちゃんと眠れるの。やりかたが分かったの。だからしあわせなの。しーちゃんが見てくれなくてもいいの。いたくてもがまんできるの。しーちゃんの目にわたしがうつるだけでいい。わがままなんて言わないから。見てくれなくてもいいの。いいの。
「ノゾミは、私と、眠りたいの?」
「うん。うん。そうなの。しあわせだから、眠たくなるの。しーちゃんといるとね、わたし、しあわせなの」
「……そっか」
どうしてそんな顔をするの。
悲しいの?
わたしといっしょに眠るのは、悲しいの?
ならわたしがまんするよ。床でもいいの。しーちゃんがそばにいればいいの。
しーちゃんが抱っこしてくれる。
いたい。いたい。気持ちいの。眠たいよ。だいじょうぶ。しあわせ。わたしはしあわせ。
「ごめんね」
「なんでしーちゃんが謝るの」
「ごめんね」
「しーちゃんが謝ることなんてないよ」
「ごめんね」
しーちゃんが泣いてる。
どうしてだろう。
わたしが悪いのかな。
そうだよね。
わたしが。
ぜんぶ。
ああ、いたいよ。
「泣かないで。しーちゃん泣かないでよ」
「ごめんね。ごめん―――もう、終わりにするから」
しーちゃんが言った。
おわり。
なにが?
しーちゃんが口を開く。
きれい。
しろい。
ぁ。
「ん゛っ、」
きもちい。
しーちゃんがわたしにしーちゃんの痕をくれる。
バレちゃいけないからって、絶対にくれなかったもの。
きもちいの。
しーちゃんバンパイアみたい。
きもちいの。
せかいがね、ちかちかして。
これだけでね、わたし逝っちゃいそうなの。
ああ。
そっか。
終わるんだね。
ぜんぶ。
「―――……ふふ。好きな人の恋人、とっちゃった」
おやすみなさい。