一話
好きな人の好きな人をとってみた。
しーちゃんの目の中にわたしはいなかったから、そうすることでしかしーちゃんの気を引けなかった。じっさいにそうすることでしーちゃんの目の中にわたしは映った。うれしかった。しーちゃんはわたしを見てくれた。それ以上を求めるのは贅沢っていうものだよね。だからわたしはしーちゃんに恨まれても憎まれても気にならなかった。しーちゃんはわたしを見てくれる。しあわせだった。
そう思っていたのに、しーちゃんはわたしに触れてくれるようにもなった。恋人にしちゃったあの子とえっちなことをするのは気持ちわるかったけど、きっと我慢したわたしにごほうびをくれたんだと思う。
それともそれとも、もしかしてわたしの声にきゅんとしちゃったとか?
もっとしーちゃんに見てもらいたい、もっと強い感情を向けてほしい、そんな欲張りが顔を出しちゃった思い付き。それであの子としているのを中継してみた後から、しーちゃんは触ってくれるようになったんだ。
こんなにしあわせなことってない。
しーちゃんの手に触れられるとわたしはすぐに有頂天になってしまう。うれしくてうれしくてどうしようもなくなる。変に思われていないかなってどきどきする。でもしーちゃんはいつもわたしをとても気持ちよくしてくれる。しあわせだった。とてもしあわせだった。
こんなにうまくいったのは初めての体験だった。
いつもはこんなにうまくいかない。好きな人の好きな人を取ってみたのは初めてだったけど、きっとこれが正解だった。わたしは初めて好きな人に好きになってもらえた。だって普通、好きな人としかそういうことってしないもん。
しあわせだった。
とてもしあわせだったのに。
「混ぜてほしいならそう言えばいい」
なんとかっていう名前の、しーちゃんの知り合い。
気持ち悪い笑顔を浮かべてしーちゃんの上に乗っかっている。
わたしのしーちゃんにこんな気持ち悪いものが触れているのが許せない。
爪を突き立てたこいつの腕から汚い血が流れて手が汚れた。しーちゃんに綺麗にしてもらいたい。それなのにしーちゃんはなんでなにも言わないの。
「独占欲なんて止めておけ。無駄だって分かっているだろう、君も」
無駄なんかじゃない。
独占欲なんかじゃない。
わたしとしーちゃんは好きあっている。
わたしは初めて好きな人と両想いになれた。
それなのにわたしの足は勝手にその場から逃げ出していた。
どうして?
わからない。
わたしはしあわせなはずなのに。
しーちゃんと好きあって、愛し合って、それなのに、なんで。
なんで。
なんでしーちゃんが笑っている姿を思い出せないんだろう。
しーちゃん。
わたしの好きな人。
ねえしーちゃん。
しーちゃんってもしかして、わたしのこと、好きじゃないのかな。