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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

どSなエルフさんは今日も俺に無理難題を押し付ける~極寒のフィンブルベルトに轟くは絶叫か恋詩か~

作者: 中村屋一九

※)若干の卑猥な表現が含まれます。苦手な方はご注意を。

「ぅおおおおおおおおお――ッ!!! くそババアくたばりやがれ!」


 極寒の地、猛吹雪のフィンブルベルト山脈の岩肌を全力疾走で駆け抜ける少年。

 後ろからは、フロストドラゴンの群れ。

 勿論、狙いは少年だ。

 雪の中を物ともせず、巨躯をうならせ爪やブレスをまき散らす。

 その攻撃を紙一重で避けつつ、彼は恨みの呪詛を吐いた。


 巨体が動く度に大地は鳴動、雪崩が起きるのは明白だ。

 前門の雪崩、後門のドラゴン――絶体絶命のピンチが彼を襲う。


「はい! 死んだ! 今日で俺は死んだよ。絶対化けて出てやる。あぁ! でもダメだ、化けて出た瞬間浄化魔法で消し炭になっちゃう。何で湧き水一杯の為に、死ぬ思いしなきゃいけないんだよ――ッ!!」






 とある大森林の奥深く、朽ちた大木を利用した住処がある。

 古木と萌える草花の香りに包まれたその最奥。

 書斎で一人のエルフが羽ペンを走らせる。


 輝く黄金の長髪。

 そこから覗く長い耳には、宝石があしらわれた耳飾りが付いていた。

 口には長いキセルを咥え、紫煙を燻らせる。

 少しイラついているのだろうか? ガリッと吸口を噛んで呟いた。


「はぁ〜、喉が渇いたわ?」


(ギクッ!! これは、アカンやつや。こう言った時の師匠は、必ず無理難題を押し付けてくる。俺に出来る事は唯一つ――戦略的撤退。そーっとだ。音も立てずにこの部屋から出る。急げ! されど、音は立てるな。風の精が吹き出す小風の様に出ていくのだ)


「聞こえなかったのかしら? ユージィロ。私は、喉が渇いたと言ったのよ?」

「ハハッ……でしたら、今ハーブティーでもご用意しますね師匠……?」


 現実は非常である。

 彼がドアノブに手を掛けたと同時に、再び同じ台詞が聞こえた。

 それも、今回は名指しでだ。

 天を仰ぎ観念した彼は、引きつりながらも紅茶の準備をしようとした。


「はぁ~」

「グム――ッ!!」


 師匠と呼ばれたエルフは紫煙のため息をつく。

 その吐息が聞こえるや否や、ユージィロの視界は反転。

 神速の風魔法が彼の足を引っかけたのだ。

 木でできた床と絨毯に転ばされただけなので痛みはない。


 しかし、彼は息苦しさを感じていた。

 空気を求めて息を吸い込むと、ライムやグレープフルーツ、様々な香草、バターにバニラ。

 あたかも極上の白ワインの様な香りが鼻口いっぱいに広がる。


 もがく両頬には柔らかい感触。

 白磁の太ももが顔を締め付け、口と鼻には布一枚で隔てられた秘部が押し付けられていた。

 飛び上がって馬乗りになった拍子だろう。

 長いスカートはめくり上がり、彼の顔全体を覆い隠す。


 途切れた視覚は感覚を鋭敏にさせ、嗅覚と触覚に導かれるままユージィロの身体は反応してしまう。

 その反応に気付いたエルフは、嗜虐的な視線と薄笑いを浮かべた。


「何だ? 駄犬の分際で、抑えもきかんのか? ほれ。エルフは人間と違って糞も小用もせん。たまらんだろ?」


 更に下着を押し付けられ、窒息しそうな程の圧がかかる。

 思わず開いた口の中には蠱惑的な香りが充満し、欲望のまま貪りたい衝動に支配された。


(ダメだ!! そんな事をした瞬間に俺の首はへし折られる。今は唯耐えるしかない。頑張れ俺!)


「ふむ……少しはマシになったか。舌先が触れた瞬間へし折ってやろうと思ったが、褒めてやらんとな」

「ぷっは! は〜は〜」


 少しだけ腰を浮かせたエルフはスカートを正し、黄金の瞳で彼を見下ろす。

 下半身に空気を求める熱い吐息と鼻先が当たろうが、お構いなしだ。


「ユージィロ、私は喉が渇いたぞ?」

「だから、俺はハーブティーでも用意しましょうか? と言いました」

「ユージィロ、この世界に落ちてきたお前を拾ってやったのは誰だ?」

「それは、マルディス師匠です」

「そう、私だ。ユージィロ、そんなお前の魔導を育ててやったのは誰だ?」

「師匠です」

「そうだな。ユージィロ、お前の童貞を奪ってやったのは誰だ?」

「師匠です……」

「ふふ、分かってるではないか。あの時のお前は、随分と可愛かったのぅ? 豚の様な悲鳴を上げながら『もう出ません』と泣いておった」

「……」



 マルディスと呼ばれたエルフは、浮かせた腰をゆっくり前後に動かす。

 その度にユージィロの鼻先は薄い布を撫で上げ、微かな湿り気と更に強くなる香りに、彼の精神は限界に近づいていた。


「そんな弟子思いの私に、尽くすのが道理だろ? 犬は犬らしく、ご主人様の言う事を聞かんとのぅ?」


(確かに、俺は『落ち人』だ。三年前の学校帰り、突如この世界に放り込まれた。所謂、異世界転移と言うやつらしいが落ちた先が悪過ぎた。

 まず、この森は世界屈指の危険地帯で生きてここを突破した者はいない。更に、マルディス師匠は『黄金の魔女』と呼ばれる程の生きる伝説だが性格が悪過ぎる。

 俺を助けた見返りに、弟子と言う名の半奴隷扱いして、いつも無理難題を押し付けてくるのだ。まぁ、多少は美味しい思いもできてるし、何しろこんな美人と一緒に暮らせるのも悪くないんだけど……)


「エラく嬉しそうな目をしてるじゃないか? そんなに、女子が顔に馬乗りになるのが嬉しいのか? この変態が。ユージィロ、フィンブルベルトの中腹に不凍滝がある。その源泉を汲んでこい」

「フィンブルベルト!? あそこは氷竜の巣窟だ! いくらなんでも死ん――グムッ」

「黙れ。師匠に劣情を抱く頭も下半身も、冷やしてくるが良い」


 再度、窒死しそうな程の圧と頬骨に白磁の万力がミシミシと締め上げる。

 芳醇な香りは幾重にも強くなり、震える舌に唾液が満ちる口内。

 死と悦が交差する刹那、マルディスは口を開いた。


「それに、お前は私が鍛え上げた魔導師。フィンブルベルトのトカゲ如きで死ぬ様ならもう要らん。そうだな? 無事に帰ってきたら褒美をやろう」


 彼女のしなやかな指先が彼の怒張したズボンを一撫でする。

 その一指だけでユージィロは雷に打たれた様に背中を反らした。


「く――ッ!!!」

「はは、気持ち良かろう? 続きをして欲しかったら、せいぜい励めよ」


 そう言った彼女は、ふわりと浮かび上がり机に向かい背を向けた。


(こうなった師匠は、梃子でも動かない。言われるがままフィンブルベルト山脈に行くだけだ)


「……いってきます。後師匠、俺の名前はユージィロじゃなくてユウジロウだって何回も言ってるでしょ」

「ふん。口から涎を垂れ流すガキが、私に意見するなど輪廻百回分早いわ。早く行ってこい」


 名前の発音に関してツッコミを入れたつもりが、馥郁な香りに当てられた口から涎が止めどなく滴り落ちる。

 マルディスは振り返る事もなく、逆にツッコミを入れて彼を見送った。




「って、走馬灯を見てる場合じゃねぇ!! このままだとマジ死ぬ。でも()()は絶対使いたくない! 走れ、走れ! 魔導師は走るのが仕事だ!」


 脱兎の如く逃げるユージィロ。途中から大きく進路を変え、雪崩とフロストドラゴンに追いかけられる形だ。

 そのまま走り続けるも、遂に終わりの時が訪れる。


 大海衝の如き雪崩と数多のブレスがユージィロを飲み込もうとした瞬間、彼は観念したかの様に目を閉じ遥か上空へ飛び上がった。



「詠え極光――至高の黄金を輝かせるが為に」


 彼は、トリガーとなる一節を詠った。

 たったそれだけのことで、身体の奥底から魔力が湧きあがり分厚い層が彼を覆う。

 ドラゴンブレスは最早届かず――さぁ、喝采を! 『落ち人』と『黄金の魔女』による刹那の歌劇ご覧あれ。



「黄金の君に仕えて幾星霜。抱かれはされど、己はついぞ抱けない」

(ユージィロ……『落ち人』はこの世界に落ちた時、必ず何かに特化した力を授かる。百芸に通じる武芸者。石を金に変える探究者)


「輝ける者の蜜を強請る、厚顔無恥の哀れな道化。口笛を吹き、淫猥な視線を貴女に向ける」

(お前はその中でも異端。膨大の魔力保持と、見た者の魔力を一時的に借りる簒奪者だ。お前は運が良いな? 初めて見る相手が『黄金の魔女』だぞ)


「抗うことの出来ない劣情が今や遅しと猛り狂う。喜んで跪き、優美な御御足に口づけを。西風となって御髪を梳かしたいのだ」

(だが、残念……お前に私の魔力は奪えない。この力は私だけの物……私の力を振るいたいならば――)


「我が身は既に狂気の侍従。甘露を求め剛力振るう」

(傅き愛を詠え。その詠を聞き入れて、お前に力を授けよう)



 輝ける者の力を振るう為、ユージィロは『詠唱』を始める。

 これこそ、彼にはめられた枷。

 マルディスの力を使うには『詠唱』が必要だ。

 それが彼女への愛を詠う物でなくてはならない。

 トリガーを引くことで、トランス状態になった彼はあまりにも恥ずかしい愛を詠う。

 だからこそ彼はこれを使いたくなかった。

 一節詠う度に彼女との会話を思い出し、心は躍動。



「ならばこそ、私の従僕――力を見せよ。頭を垂れ舌這わせて希うなら黄金の傍流を授けよう。眼前の敵を蹂躙し、私の前に戦の誉れを積上げよ」

(ハッハッハ、ユージィロ随分情熱的ではないか。そうかそうか、お前はそこまで私に恋焦がれていたのだな)


 確かなバイパスの繋がりを感じたマルディスは、お気に入りのロッキングチェアに座り愛に答えるが如く続きを『詠唱』した。



「是非もなし――これより我は屠竜の刃」

(さぁ、見せてみろユージィロ。これより私達は一心同体)


「常住不滅の奈落に飛び込み、彼者の金貨を血肉で汚す」

(この一瞬こそ永遠、私の魔力を持ってお前の世界を見せてみろ!)


「「黄金は二人といらぬ。魔剣を突き立てるが如く、神話を奏でろ竜殺し。英雄譚の幕開けだ」」


 異口同音の終節が紡がれた時、躍り出るは異能の剣。

 黄金の魔力で覆われた神域の空間を数多の剣が降り注ぐ。


 剣。劍。釼。一つとして同じ形の無い剣。

 その一本一本が持つ権能――即ちドラゴンスレイヤー。

 英雄が神の力を受けてドラゴンを倒し、黄金を持ち帰る物語。

 だが、ユージィロは既に至高の黄金を持っている。


 ならば、偽物の黄金など許してはならぬ。

 驟雨の様に降り注ぐ必殺の一撃に、ただドラゴンは死んでいくのみ。

 権能の蹂躙――本日をもって、フィンブルベルト山脈からフロストドラゴンは絶滅した。



「はぁはぁ……だから使いたくなかったんだよ……」


 雪面に倒れ込むユージィロ。

 未だ収まらない魔力の鼓動が雪をどんどん溶かしていく。

 冷静になって自分が発した『詠唱』を振り返ると、あまりの歪な愛に彼は顔を覆った。


「ドM過ぎんだろ……俺……」


 ポツリと呟いた彼は、目的の源泉を求めて立ち上がる。

 大規模な魔法を使った為か、吹雪は晴れて視界は明瞭。

 雲外蒼天の空に眩しい太陽が覗いていた。




「見つけた」


 歩くこと数時間。

 彼の眼前に一筋の滝が見えた。

 この極寒の地でも凍ることなくせせらぎ落ち、逆巻いた水滴だけがダイヤモンドダストの様に煌めいていた。

 細氷のレンズに通された日光は七条の光に別れ、雪面を虹色に染め上げる。


 何と幻想的な空間か。

 世界中の宝石を敷き詰めても、ここまでの輝きは出せない。

 しかし、ユージィロの目的は滝ではなく源泉だ。

 彼は、後ろ髪を引かれる様に滝を遡る。



 雄大な滝も辿れば一滴。

 清水はこんこんと湧き出し、波紋となって広がる。

 雪より冷たい水は生命を拒絶。

 唯々、無色透明の世界が重力に沿って何条にも別れ、また一つに結びつく。


 その荘厳なまでに美しい原初の水にユージィロは喉を鳴らす。

 それもそのはず。

 先の戦いから水一滴も飲んでおらず、喉は焼け付く様に乾いていた。

 抗うことのできない誘惑に、そっと手を伸ばす。


「美味い……」


 身体に沁み渡った水は、疲労を一瞬で癒し無くなりかけていた魔力さえ回復させた。

 両手の隙間から滴る雫。

 蜂蜜が垂れるが如くトロリとして、この粘性が不凍たる所以。


 ユージィロは、マルディスから預かった水瓶を源泉に浸した。

 なみなみと吸い込まれる水に注意を払いつつ、眼下を見下ろす。


 連なる山々は銀世界に覆われ、吹き付ける風が頬を刺す。

 蒼天の青に太陽の赤、白銀と虹色の滝。

 荘厳と雄大な景色を目に焼き付けて、彼の旅は終わった。






「ただ今戻りました~」

「ふむ、思ったより早かったじゃないか?」


 マルディスはいつものロッキングチェアに座り、彼の帰宅を歓迎した。

 気だるげに紫煙を燻らせ、その香りがユージィロの鼻先を掠める。


「いやはや、大変でしたよ? 案の定ドラゴンに追いかけられるわ、雪崩には巻き込まれそうになるわ。生きてるのが不思議なくらいです」

「だが、お前は生きている。して、例の物は?」

「ちゃんと、持って帰ってきてますよ。今グラスを用意します」


 グラスになみなみと注がれた清水。

 彼女は、それを一気に飲み干し喜悦の吐息を吐いた。

 口の端から水は零れ落ち、煽情的な表情にユージィロは思わず魅入ってしまう。


「美味いな。もう一杯だ」

「はい。って、おっとっとっと――ッ!」


 お代わりを注ごうとしたユージィロの手をマルディスが軽く引っ張る。

 水瓶から注ぎ落ちる雫はグラスを外れ、彼女の衣服を汚す。

 薄手の服に溢れんばかりの水が掛かり、豊満なボディーラインをくっきりと浮かび上がらせた。


「師匠、何やってるんですか!? 今タオルを持ってきます」

「――待て。ゆっくりこちらを向け」


 急いでタオルを取りに行く彼の後ろから声が掛かる。

 シュルシュルっと衣擦れの音が聞こえ、見なくても彼女が服を脱ぎ捨てたことが分かった。


 振り返ったその先には、一糸纏わぬマルディス。

 彫刻と見間違うほどの白磁の肌。

 水滴は弾けるようにデコルテから下半身まで吸いつき、組んだ足先から流れ落ちる雫にユージィロは喉を鳴らした。


「そう言えば、褒美がまだだったな? ユージィロ、身体が濡れてしまったぞ? このままでは風邪を引いてしまう。お前の舌を使って、()()まで舐め摂れ。それをもって、今回の褒美としよう」


 大胆に大きく脚を組み替えるマルディスに、ユージィロは跪き首を垂れる。

 恐る恐る出した舌先は、指先から指股へ。

 丹念に、されど貪るように彼女の身体を這いずり回った――






 とある大森林の奥深く、朽ちた大木を利用した住処がある。

 古木と萌える草花の香りに包まれたその最奥。

 書斎で一人のエルフが、羽ペンを走らせる。

 隣には若い従者。


 口には長いキセルを咥え、紫煙を燻らせる。

 またイラついているのだろうか? ガリッと吸口を噛んで呟いた。


「はぁ~、小腹が空いたわね? ねぇ、ユージィロ? ヨトゥンの柱状節理にある燕の巣が……」

(あぁあああああ!! 貴女はそうやってまた無理難題を押し付ける――ッ!!)

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