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音楽のような風-6

 教室に戻るともうお昼休みだった。緊張で疲れ果てた萌が、やっとの思いで席に着くと、目敏く見つけた信田と南村が萌に近づいてきた。

「ね、偉い先生が来てたんだって?」

信田の言葉に萌ははっとして振り返った。信田はにんまりしながら萌を見つめていた。どきどきしながら、こくりと頷くと、信田は大声で、「すっごぉーい」と叫んだ。それを聞きつけた生徒たちが萌の回りに集まってきた。

「どうしたんだ?」

「萌ちゃんにね、スカウトが来たの」

「ナニナニ、それ?」

「ね、萌ちゃん話してよ」

信田の言葉に身を小さくして萌は俯いてしまった。いつの間にか他の女子も嬌声を上げている。

 ―――すっごぉーい、萌ちゃん。ピアニストになるの?

 ―――やっぱり、賞を取った人は違うわ。

 ―――ねね、サインしてよ、今のうちに。

 萌の耳にはもうどれが誰の声だかわからなくなっていた。ただ、身をすくめて時間の経つのを待った。


 放課後のチャイムが鳴ると、萌はすぐに教室を飛び出した。このまま教室で囃し立てられ続けることに耐えられなかった。階段を降りて音楽室に向かったが、ふと思い立って北校舎へ向きを変えた。

 北校舎の理科室の中に入ると、萌は父を探した。父の姿は、いつもいるはずの準備室の中の席にはおらず、萌は外へ出た。飼育室に近づくと、何人かの生徒と一緒に話している父の姿を見つけた。ウサギの世話をしている生徒とそれを見守っている父の姿を、金網越しにしばらく見ていた。やがて、振り返った父と目が合って、萌はちょっとと合図をした。宏信はそばにいた生徒にひと言ふた言言い残すと飼育室から出てきた。

「どうした?」

「あのね、今日のことなんだけど」

「あぁ、そうか。ここじゃ、なんだな。…そうだな、理科室においで」

 宏信に連れられて理科準備室に戻った萌は、自分から相談しに来たにもかかわらず自分から切り出すこともできないまま、イスに腰掛けていた。宏信の方も話し出せないまま、少しずつ時間が経って行った。しばらく時間が過ぎて、ようやく萌は口を開いた。

「どうしたらいいの……」

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