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音楽のような風-4


 園長室に戻ると、父宏信が待っていた。萌は驚いて宏信に駆け寄った。

「どうしたの?授業は?」

「ちょうど、四時間目はなかったんだ。それより、萌、どういうことなんだ」

西園寺はゆっくりと宏信に近づいて手を差し出した。

「お父さんですか、初めまして、わたくし東部音楽大学の西園寺郷士と申します」

堂々とした西園寺の風格に圧倒されるように宏信は白衣の袖を気にしながら手を差し出し握手した。

「率直に、申しますが、お宅のお嬢さん、萌さんには才能があります。最近の若い人は技術的に長けている者は大勢見られます。昨日のコンクールも随分そういう子供たちで埋められていました。確かに技術は必要ですが、そういうものを越えた、感性、の優れた子供たちというのはほとんどおりません。お宅のお嬢さんは、技術的にはまだまだだというのが正直なところです。お伺いしますが、お嬢さんは、どなたかのご指導をお受けになられたことはありますか?」

「ええ、この子は、近所のピアノ教室に小学生の時に通っていましたが、あとは、ここの音楽の溝口先生に教えていただいています」

「失礼ですが、その程度でここまで弾けるというのは、信じられないくらいです。小学校に上がる以前から個人レッスンを受けていても、優勝はおろか優秀賞も取れないのがごく普通の子供たちです。音楽に対する感性が欠けているのです。訓練で技術を上げても、芸術性において劣ってしまうのです。お嬢さんにはそれがある」

「はぁ。…恐縮です」

「それで、わたくしの方としても彼女の才能を高く評価しているわけですが、ここから本題です。お嬢さんはちょうど三年生ですし、如何でしょう、東京の高校に進学させるおつもりはありませんでしょうか。東京の高校に進学してわたくしのところでレッスンをして、わたくしの大学に進学すれば、全日本はもちろん、もしかすると世界レベルにまで成長するかもしれません。正直なところ、年齢的には、遅いかもしれません。しかし、放っておくのは惜しい才能を持っています。如何でしょう、わたくしに預けていただけませんでしょうか」

「はぁ……」

宏信は恐縮して身を小さくしたまま生返事を返して萌を見た。萌は不安げに父を見ていた。

「ご心配なく。全寮制の学校を用意します。そこでは、萌さんと同じように、毎日音楽に精進している生徒もおりますから励みになりますし、お嬢さんの向上心も増すことでしょう。如何でしょう」

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