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音楽のような風-3

 ピアノの前に座って、萌は昨日の演奏曲を弾き始めた。しかし、緊張で上手く弾けなかった。しかし西園寺は、咎めることもなくニコニコしながら聞いてくれた。と、突然、制止した。

「そこ。ちょっと待って」

そう言うと手を伸ばして鍵盤を弾き始めた。

「昨日も気になったんだけど、いまのところ、あなたの弾き方は、極端に言えばこうだ」

萌は、西園寺の指が意外にしなやかであることに驚きながら、目で追った。

「ここのところを、こうするとどうなるかな。わかるか?」

しなやかな指の動きが萌のそれとは異なった音楽を奏でることが目に見えるようにわかった。

「どうだ。わかるかい。この調子で弾いてみなさい」

 萌の緊張はいつの間にか解けていた。ただ、いまの音を再現することに集中していた。萌の指がいま教えられた小節に差しかかると、まるで誰かに導かれるように動いた。と、音の蕾が花開いたような印象を、萌自身が感じてしまった。西園寺は、小さくブラボォと言いながら、指揮をするかのように手を振り始めた。萌は自分の指が奏でる音が、その瞬間から、異なるイメージを描いていることを感じながら楽しく演奏することができた。

 思いの外うまく弾けたことに満足して顔を上げると西園寺は、にんまり微笑みながら萌の顔を覗き込んだ。そして、後ろを向くように指示した。

「この音が何かわかるかな?」

耳に届いた音に、おそるおそる答えると西園寺は満足したようだった。

「次の音は?」

萌の答えに西園寺はまた満足して、ブラボォと言った。

「素晴らしい。いい耳をしている。やはり、あなたは絶対音感の持ち主だ」

萌は何が何やらわからないまま、にこにこしている西園寺を見ているだけだった。


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