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音楽のような風-2

 穏やかな風が窓から吹き込んでくる三時間目の国語の時間。教室にいる全員が静かに古文の朗読テープに耳を傾けているとき、こつこつと扉をノックする音が聞こえた。上杉先生が急いで扉に近づいて開けると、音楽の溝口先生が顔を覗かせて小声で何かを言った。すると上杉先生は、萌の名前を呼んで手招きした。萌は言われるままに席を立ち、廊下に出ると溝口先生が真剣な表情で園長室に行くように伝えた。萌は何が何やらわからないまま、教室を後にした。

 溝口先生に付き添われて園長室に入ると、荘厳な雰囲気を醸した部屋に圧倒されて萌は目が眩みそうになった。おどおどと足を踏み入れると、園長先生が手招きをして萌を呼び寄せた。溝口先生に背を押されて歩き出すと、ソファに座っていた紳士が身を起こして萌を歓迎した。萌は圧倒されながら、促されるままに挨拶をした。

 紳士は名刺を差し出して、萌に渡した。萌は戸惑いながらそれを受け取った。園長先生が改めて紳士を紹介してくれた。

「こちらの方は、東部音楽大学の西園寺先生だ。昨日のコンクールにゲストとして招かれていたから、君も記憶があるだろう」

萌は少し上目遣いに西園寺を見ながら、記憶を辿ったが、緊張感で一杯だった昨日のことはほとんど思い出せなかった。

 紳士は堂々とした姿勢で萌の様子を見ながら、話し出した。

「昨日のコンクールで、聞かせてもらったんだが、あなたのピアノには非常に惹かれるものがあった」

萌は恐縮しながら小さくお辞儀した。

「技術的には未熟なんだが、そのなんというか、最近の若い人たちは、技術ばかりが際立っている中で、あなたの演奏には、そう、感性、が感じられた。それで、今日東京に帰る前に一度お話させてもらいたいと思って寄せていただいたわけなんだが。先生、音楽室はいま使えます」

いきなり問い掛けられた溝口先生は少し慌てながら頷いた。

「そうですか、じゃあ、少し、弾いてもらえないだろうか。本題はその後にでも」

強引に押し進められてしまい、何の返事もできないまま、萌は音楽室に連れていかれた。


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