音楽のような風-17
「たくさんの子供たちに楽しく音楽を教えることができれば、その方が、ピアニストになるよりもいいなって」
「そうか」
「変かな?」
「いや。全然。だけど、どっちにしても、音大に行くことになるんだぞ」
「でもね、お父さん。理科の先生も楽しそうだなって、思うの」
「…そうか」
「草花を育てたり、メダカ飼ったりして、そういうことしながら、…楽しみながら、お父さんがこないだ言ってたようなことが感じられれば、いいな」
「…うん」
「お花は好きだし、お母さんと一緒で。動物やお魚も可愛いなって思うの。お父さんと一緒ね。あたし、…何もできないよ。たまたまピアノを褒められたけど、成績はまぁまぁかもしれないけど、だからってどうってこともないよ。だからって何もできるわけでもないよ。おさむ君?だったかな、彼なんか立派だと思う」
「うん」
「……あたし、このままで、いい…」
「そうか」
「あたし、ピアノ、好きだよ。草木も好き。モグラも好きだし、メダカも好き。いまの学校が好き…。……このままで、いい…。……家にいたいの。……それだけなんだけど……、そんなことだけかも…しれないけど……、それでも、いい?」
「それでいい。萌が自分で決めたことだ、それがいいんだ」
萌は表情をほころばせながら父を見た。父の視線は温かく、萌にはそれが何よりも嬉しかった。




