音楽のような風-16
準備室に入ると、宏信は萌にイスをあてがった。萌は静かに腰掛けると、しっかりと父の顔を見ながら話し始めた。
「……お父さん、…あのね、あたし、思ったの」
「ん、何を?」
「ほら、学校でメダカ、飼ってるのよね」
「あぁ」
「…そうやって、メダカ飼ってることは、遊びかもしれない…単なる趣味かもしれないけど、そうじゃないって思うの。生き物を、大切にするってことは、大事なことだと思うの」
「うん、そうだな」
「もちろん、そうやって飼ってることで、色んな知識を得て、このメダカがどんな生き物でいま絶滅しそうになってることを知ることで、世の中のことをよく理解できるかもしれない」
「そうだ」
「モグラが何の役に立つのかって言えば、何の役にも立たないと思うけど、でも、ぼんやりと眺めてることは、あたしは好き」
「そうか」
「…あたしは、可愛いっていう気持ちだけかもしれないけど、ここのクラブの人たちは、みんな、色んな感情を持ってて、大切に思ってる」
「…ん」
「そうやって、一生懸命世話してる人は素敵」
「うん」
「……もし、…もしも、あたしがピアニストになったら、んん、なれたとしたら、…なれたとしても、あたしは、満足できるだろうかって、考えたの。コンサートホールで喝采を受けても、そんな自分を、眺めてて、自分を好きだって言えるかなって。それより、あたしは、あたしにピアノを楽しいと思わせてくれた高岡先生や溝口先生のようになれる方がいいなって」
「うん」




