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音楽のような風-14

「…正直なところ、中学卒業してすぐに独り暮らしをさせるのは不安なんだ。いくら全寮制でも。それに、レッスンとは言っても、今までしていたような気が向いたときに一時間くらいというものでもないだろうしな。休みの日は、五六時間、あるいはもっとレッスンするようなことにもなるだろう。そんな厳しい生活に萌が耐えられるだろうか。……それ以上に…、…それ以外にも大切なものがあることがわからなくなるんじゃないだろうか……」

「え?」

「……うちの、生物部の子たちは、まじめにクラブに来ない子も多いし、まぁ…成績もいいわけじゃないんだ。…だけど、うちの子たちは、生き物の温もりを知ってる」

「…うん」

「ウサギを抱いて温かいと感じる。小屋の掃除をして臭いと感じる。もうすぐ、あのモグラも死ぬだろうけど、その悲しみも儚さも知っている……。……音楽に、いや、音楽だけじゃないだろうけど、何かに打ち込んで他のものが見えなくなることもあるんじゃないだろうか。それが、お父さんは…お父さんとしては、心配なんだ」

あっさりとモグラが死ぬと言い切った父に驚きながらも、萌は頷いた。

「おさむ君は、いつも、雨の日でも、ミミズを獲ってきてくれるんだけど、彼は回りからは、少し知恵遅れのように言われてる。まぁ、成績もそんなにはよくない。それでも、生き物の世話は熱心だし、知識も豊富だし、精密画も上手なんだ。今の受験社会では彼の評価は低いかもしれないが、人間としては立派なもんだと、わたしは思ってる」

「…うん」

「萌は、音楽の才能があると言われたんだから、それを伸ばす機会がある以上、頑張ればいいだろう。だけど、それだけということだけには、ならないでほしい。それが、わたしの望みだ」

「お父さん……」

「あとは、お前が決めなさい」

「……ん」

小さく萌は頷いた。


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