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音楽のような風-12

 窓から、夕暮れに佇む風景を、じっと、勉強机に座りながら眺めていると、いつの間にか部屋は暗くなっていた。エンジの空の陰に紫色に染まる風景から、目を離して振り返ると、静かな部屋が無言で応えてくれたように感じた。ぼんやりと目を漂わせ、行き着いた先には、微かに入る残り陽の傍らに、ピアノが佇んでいる。

 萌は、じっとそのピアノを見つめた。小さいころにおねだりして買ってもらった。母の弾いた童謡が好きだった。ピアノ教室に通いたいと言ったのは、自分だったろうか…?

 ピアノは佇んでいる。

 ゆっくりと腰を上げ、ピアノに近づいた。レースのカバーを外して蓋を開けた。白い鍵盤が薄暗がりの中で、微かにエンジに映えている。そっと鍵盤を押すと、鈍く静かに鳴った。その音は、窓の横の樫の葉のざわめきにもかき消されるようだった。

 もう一度押してみる。

 ―――♪。

余韻が闇の中に消えていく。確かなハーモニーを奏でて。

 今度はもっと強く押してみる。

 ―――♪。

部屋に広がったその音は、確かに、何かと共鳴して消えていく。

 萌は耳を澄ましてみる。消え行く音の先に色んな音が聴こえてきた。樫の木のざわめきが聴こえる。スズメのさざめきが聴こえる。カラスの遠鳴きも。車が失踪して去っていく音も聴こえてくる。…どこかで、鳥が鳴いている……。インコだろうか?

 ―――♪。

  懐かしい音……。

 萌は、不意に自分が共鳴していると気づいた。

  ……自分の鼓動が共鳴している。

 ―――♪。

  繰り返しても飽きない……。

 快い余韻に浸りながら、夕闇の訪れに身を委ねた。


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