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音楽のような風-1


                音楽のような風


 某月某日―――快晴。風向、南西。


 雲ひとつない空の下、スピーカーから朝礼のアナウンスが流れると、整然と生徒たちが並んだ。ざわめきが鎮まらない中、園長は壇上に静かに立った。いつもより微笑みながら話し始めた園長の言葉に注目が集まったのは、ひとりの少女の名前が上がったときだった。

「―――ということで、三年C組の五月萌さんが、県のピアノコンクールで優秀賞を受賞しました。五月さん、前へ」

 列の中から慌てるように出てきた萌は促されるままに、朝礼台に上げられ、小さく身をすくめながら園長の横に立った。園長は滔々と賛辞を述べ萌を讃えた。しかし、萌は緊張のあまりもう何もはっきりとは見ることもできず、何も聞き取ることはできなかった。


 教室に戻ってから萌はクラスメートに取り囲まれて盛大な歓迎を受けた。照れて身を小さくしている萌とは裏腹に取り巻いたクラスメートは萌を褒め讃え、中でも信田久美は昂まった興奮を抑えきれないように声を上げていた。予鈴が鳴って、一時間目の谷口先生が入ってくるととりまいていた生徒も散り散りになりようやく静かになった。萌はほっとして一息つくと、慌てて鞄から教科書を取り出した。



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