一話 目覚め
「〇〇〇、〇〇〇〇〇〇……」
誰かの声が聞こえる……
遠くて、深くて、
いや、私が深いところにいるのかなぁ。
暗いのに心地が良くて、けどここは私の場所じゃなくて……
「あなたならきっと、わたくしの大切な人たちを守ってくれると思っています」
誰?
「わたくしの我儘に付き合わせてしまってごめんなさい。だけど、譲れないの。最初で最後。そう、あの方たちを捨てないで」
目の前には誰もいないのにそこにいる。見えなくてもみえる。
目に涙をいっぱいに溜めて両手を組んで、小さな女の子は何かを頼んでいた
女の子に伝える
『大丈夫。私があなたの願いを届けるよ』
「だけど、わたくしは動けもしない、何もできない。行動するのはあなたなの。わたくしの大切な人方々を助けて差し上げれるのはあなただけ」
『そっか。じゃぁ、約束しよう。私は貴女に幸せを届けます』
「……嬉しい。わたくしはあの方々に迷惑しかかけていませんから……。もう行ってくださいませ」
『貴女は?』
「わたくしは見守りますわ。もしもあなたが本当に困ったら寝る前にわたくしの名前を3回呼んでくださいませ。きっと助けに向かいますわ」
『分かった』
「その時は多大な代償を覚悟していてくださいませ」
きっと女の子はニッコリ笑って言ったんだろう
「癖の強い方々ですからね。死なない様にお気を付けあそばせ」
涙を一筋流して……
明るいところへ流されてゆく。女の子の姿は消え闇に包まれると意識が無くなった。
ここは……
体が重い。まるで何重にも重ねてコートを着ているようだ。
まぶたをあげると不思議な天井が目に入った
「お嬢様!? お目覚めになられましたか……」
ひどく安心した様な顔をした女の人が立っている。
「お嬢様、お分かりになられますか? 今旦那様方をお呼びしておりますからね」
誰だろう……
「はぁう、あ……」
声を出そうとしても空気が漏れるだけで音にならない
「ティナ……」
声がして入ってきたのは20代前半くらいだろうか、夫婦と見られる若い男女。
男の人は安心したようにニッコリと微笑んでいる
女の人はその大きな目をいっぱいに開いて私の手を握った
不快さは無くむしろ心地の良いようで安心できた
「ティナ、分かるかい?」
男の人は心配そうに私の顔を覗き込んだ後背後に立っている人にボソボソと何かを言った
背後に立っているのは執事服を着た年配の方だが主は男の人であろう
「今はゆっくり休んで傷を癒しましょうね、ティナ」
女の人は私の頭をゆっくりゆっくり撫でながら言った
「奥様、お客様が……」
「あら、いけない。ごめんなさい、ティナ。わたくしは少し席を外しますわ。眠っておいてくださいね」
メイド服を着た女の子に呼ばれ女の人はいそいそと出て行った
その後男の人も執事服の人と話しながら出て行った。
「お嬢様がお目覚めになられたというのに忙しい方々だこと。全く、娘の心配くらいしてやれば良いものを。この屋敷にいながら若旦那様もアグレイ様も顔をお見せにならないとは……」
次に入ってきたのは眼鏡をかけた一見冷たそうな雰囲気を放つ女の人だった。
40代くらいだろうか?
メイドではなさそうだ
「ティナ……。あなた達、少しお下がりなさい」
「「はいっ」」
部屋にいた人が全員出て行ったことを確認した女の人は私の頭に手を乗せた