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第80話 叔父を斬る、父を斬る③─一世一代のショーの幕開け─


   1


 穏やかな日射しが縁側に降り注ぐ朝。忠正と為義の刑罰は死刑から流罪へと改められた。

 交渉に成功したことを伝えに、清盛は義朝のいる六条の屋敷へと向かった。

「お前の父ちゃん、殺されなくてもいいことになった」

「そうか、やったな!」

 口元を緩ませ、顔一面に喜びを表現する義朝。

「おう。これで、大切な人たちを殺さなくて済むんだ」

「ありがとな、清盛」

「礼には及ばないさ」

「よし、今日は父上の死刑撤回を祝って──」

 乾杯だ、と義朝が言おうとしたとき、突如源氏屋敷に赤い直垂を着た男たち数人が入ってきて、為義を取り押さえた。そして屋敷を出てどこかへ向かった。

「待て、どこへ行く?」

 赤い直垂を着た集団に、義朝は声をかけた。

 その集団の一人は、

「六条河原」

 と答えた。

「六条河原で何をするんだ?」

「源為義と平忠正の処刑だ」

「させるか」

 刀を抜いた義朝は、赤い直垂を着た男たちに斬りかかろうとした。だが、赤い直垂を着た男たちの中から、柿色の直垂を着た竹内が出てきて言う。

「やっぱり武士は血の気が荒いなぁ。さっさとしないと、連れていかれるぜ、お前の父ちゃん」

「貴様が俺の父を誘拐した犯人だな?」

「いかにも。処刑も俺が決めた」

「貴様だけは殺す」

「やれるものなら、やってみな」

 そう言って竹内は義朝の首筋を目がけて斬りかかった。

 竹内の一撃を受け止める義朝。

 戦っている中でもどこか余裕のある淡々とした表情で戦う竹内は、赤い直垂の男たちに向かって、

「よし、縄で縛ったか。これから六条河原で一世一代の見世物が始まるぜ」

 と言ったあとに懐から鳥型に切り抜かれた紙を取り出し、呪のようなものを唱えた。

 鳥型に切り抜かれた紙は大きな鳥の姿へと変わり、その上へ為義と男たちを載せ、自らも乗る。

「逃げるか」

「待ってるぜ。お前たちが六条河原へ来るのをな」

 大きな鳥に乗った竹内はそう言い残し、飛んでいった。


   2


 清盛と義朝は連れ去られた為義を追いかけ、六条河原へと向かった。

 河原には筵が敷かれ、検非違使の一人と思われる武者が抜身の刀を持って、暗い面構えをして待機している。対して、竹矢来で仕切られた場所に密集していた民衆たちは、怖がりながらも、武者の処刑を見届けようとしている。

「叔父上と義朝の親父はどこにいるんだ」

 清盛は義朝と一緒に、竹矢来の前にある人垣をかき分けて目の前へと出た。

 魂をなくしたかのような虚ろな顔つきで、縄に縛られた忠正と為義は、白装束を着てずっと下を向いている。

「叔父上、今助けに行くから待ってろ」

 腰に帯びていた小烏丸を清盛が抜こうとしたとき、

「殿、こんな大変なときに何をしていたのですか⁉」

 処刑場にいた盛国に声をかけられた。

「いや、義朝に父の死刑が撤回されることを教えに行ってて」

「忠正殿がいきなり検非違使に捕まって大変だったのですよ!」

 盛国は怒鳴った。

「悪い悪い」

「お前、名前を何という」

「私は平家の家臣平盛国というものです」

「俺は源義朝。赤い直垂の男たちに連れ去られた父上を、清盛と一緒に救いに来た」

「ほう」

「盛国、武器は持っているか?」

「いつも使っている薙刀ならありませんが、腰に帯びている太刀なら」

「それでもいい。今から清盛の叔父上と俺の父上を助けに行く」

「わかった」

 盛国は首を縦に振った。

 清盛の方を向いた義朝は言う。

「行くぞ、清盛」

「ああ」

 清盛と義朝、盛国の3人は腰に差していた刀を抜いて、目の前の竹矢来を斬った。


「来たか」

 抜身の刀を持ったまま、竹内は言った。

「竹内、俺の叔父上を返しに来た」

 そう言って清盛は刀を構え、竹内に斬りかかった。

「めんどくせぇなあ。お前ら、やっちまえ!」

 周りにいた赤い直垂の男たちに、竹内は指示を出した。

 赤い直垂の男たちのなかの一人が指を出して、

「克弥、こいつの動きを封じろ」

「わかりました」

 克弥は指から糸を出して、清盛と義朝の四肢を縛り上げた。

「体が、動かない」

 糸を引きちぎるべく、必死でもがく清盛と義朝。だが、意思に反して、糸の縛りはどんどん強くなり、縛られている部分の痛みは増してゆく。

「平清盛だっけな? お前たちにやるべきことをやってもらったら解放してやる。それまでの辛抱だ」

「お前になんか、絶対に屈しない」

「まあまあ落ち着けよ」

 そう言って竹内は克弥に目配りをした。

 克弥は竹内の意を受け取ったのか、締め付けをさらに強くする。

 二人の手足には今にも切断されそうな痛みが走る。

 苦しむ二人を横目に竹内は、

「これで役者は揃った」

 懐から書状を取り出し、清盛と義朝に見せた。

 書状には、平忠正と源為義を斬首に処す、と書かれている。しかも後白河帝や信西の花押がしっかりと書かれているので、偽造されたそれではない。

「貴様汚いぞ」

 盛国は刀を構えて竹内に斬りかかろうとした。

「清盛だか義朝の仲間か。こいつは一般人だな」

 竹内は足元から水の波紋のようなものを出した。

 波紋は石が転がる地面に、円を描いてどんどん大きくなって、盛国のもとへと伝わってゆく。

(何だ、これは⁉) 両手で刀を持った盛国は、一瞬体が動かなくなった。足を動かそうとしても体が動かない。

 あと少しのところで、波紋が盛国の足元へ及ぼうとしていたとき、それを掻き消すように砂鉄の刃がどこからか飛んできた。

「誰だ」

 自分の能力の発動を妨害された竹内は、砂鉄の飛んできた方向を見た。

 そこには、赤い旗と白い旗をたなびかせた源氏と平家の連合軍の姿があった。先陣には抜身の刀を持った正清と拳を鳴らしている教盛がいる。

「悪い、遅くなった」

 そう言って正清は、抜身の刀を鞘へとしまう。

「六条河原の方が騒がしいなと思って来てみたら、こんな騒ぎが起きていたとはな」

 克弥の能力で動けなくなった清盛と義朝の前に現れたのは、正清たち源氏一党と忠清率いる平家の一門だった。


   3


 ──さすがにここまでは計算していなかった。

 源氏と平家の郎党たちが、突然大挙してきたことに舌を巻く竹内。逃げようとしたが、

「おっと、俺の殿と忠正殿に手を出してもらっては困るな」

 忠清の率いる数騎に道を遮られてしまった。

「な、何なんだ、お前たちは」

「何って、俺たちの仲間と家族を取り返しに来ただけに決まってるだろ」

「おのれ……」

 懐に手を突っ込んだ竹内は、あるだけの人型を取り出して、式神を呼び出し、

「やってしまえ!」

 号令をかけた。

「ふっ、たかが紙切れの大群だ。恐れずに続け」

 教盛の檄で、平家の一門は薙刀の穂をきらめかせて式神の軍勢に対抗した。

「教盛に続け!」

 教盛に触発された正清の下知を承け、広常や義明と言った源氏一門の武闘派たちは、一斉に竹内の操る式神軍団に攻めかかる。

「それどころではなさそうだな」

 予想外の源氏・平家軍来襲に戸惑った克弥は、自身の体から出した糸で、清盛と義朝の四肢を切断しようとした。そこへ忠清がやってきて、持っていた刀で克弥の糸を切断した。

「殿、ご無事で何より」

「ありがとう、忠清」

「俺はこの糸男を足止めするから、今のうちに忠正殿を救出してきてください」

「わかった」

 忠清に糸を斬られ、身動きが自由になった清盛と義朝は、今にも首を斬られかけようとしている為義と忠正の方へと向かう。

「邪魔はさせるか!」

 救出しようと砂利の上を駆ける清盛と義朝を、竹内の部下と思わしき検非違使の役人が妨害する。

「お前らに構ってる暇はない」

 そう言いながら義朝は立ちふさがった検非違使の役人を斬っていった。

 清盛も負けじと行く手を阻む検非違使の役人たちと戦う。


   4


「まさか義朝、お前に助けられるとはな」

 縄を解かれた為義は言った。まさか散々痛めつけてきた自分の息子に救われるとは夢にも思っていなかった。

「正直お前のことは助けたくない。けれども、今若や乙若がお前を必要としているから仕方なく助けてやっているだけだ」

「そうか」

「逃げるぞ、父上」

「おう」

 かつては見捨てた父の手を、義朝は強く握って逃げようとしたときに、

「やっと着いた」

 息を切らした清盛がたどり着いた。

「遅いじゃないか、清盛」

「さっきまで戦ってて」

「時間がない。早々とお前の叔父を助けて逃げるぞ」

「わかった」

 抜き身の刀で、清盛は忠正の手を拘束していた縄を斬った。

「けっ、あのとき俺がお前を認めたのがバカみたいじゃねぇか」

「行こう、時間がない」

 清盛が叔父をを連れて逃げ出そうとしたとき、

「体が、動かない」

 金縛りに遭ったかのように体が動かなくなった。体よ動け、と言って動かそうとしても、関節が石のように堅くなってしまって動かせない。

「畜生」

 義朝も動かない身体を必死に動かそうとする。

 二人の手が動いた。これで再び体が動くようになったと思った清盛と義朝は、再び忠正と為義を連れて逃げようとする。だが、清盛と義朝の手は刀の柄を強く握り、気が付けば上段に構えていた。

「義朝、何をする」

「どうした、清盛」

 異変に気が付いた為義と忠正は叫ぶ。

「体が、勝手に」

 動くんだ。そう清盛と義朝が叫ぼうとしたときに、持っていた刀を振り下ろし、清盛は忠正の、義朝は為義の首を斬った。

 二人の血は河原に流れている小さな小川の水を、竜田川の紅葉のような紅色に染め上げる。

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