決裂
130日目
昨日は二ホン砦に泊まろうかと思ったのですが、食料の補給もしたし転移魔法もあるのでプレモーネにある自宅に戻って休むために戻ってきました。
そして今日はバルタがグリンフォースの飼育を始めたので、だったら乗るこなせるようになる為に必要な馬具を注文しに馬具職人さんの店に行きます。
職人さんも当初はグリンフォース用の馬具など作ったことがないとの事で無理との事でしたが、鞍は革製でいい事と、200個という大量生産の依頼と即金でとの条件で引き受けてくれました。
ただ数が多いので順次受け取りという事で定期的に受け取りに来ることになります。
その後は領主館に向かいロニーニャ領への道が完成した旨を伝え、ゾルス達に軍旗を渡したので ドグレニム領の兵士が間違って攻撃をしないようお願いをしておきます。
「マサト、それにしてもゴブリンに与えた軍旗だが、ゴブリンが使うにはもったいないぐらい、斬新でいいデザインじゃないか?」
「そうですか?多分日本人が見たら総ツッコミの嵐ですよこれ・・・・」
「そうなのか?」
「はい、日本の文字を当て字でゴブリンって書いただけですから」
「そうなのか?こんな斬新なデザインなら ドグレニム領の軍旗もデザインして貰いたいぐらいなんだがな・・」
いや、当て字で「護武燐」ってそんなに斬新ですか?ドグレニム領を当て字にしたら、「怒愚レ弐夢」とかになりますよ・・・・・。
そう思いながら、日本語の当て字でドグレニムと書くと「怒愚レ弐夢」となると言いながら紙に書いてグランバルさんに渡しておきます。
今度、裁縫好きの横山さんに特攻服作ってもらって大将が着る物だとか言って着せてみようかな・・。
「それはそうとグランバルさん、明日からバイルエ王国に行ってきますんで、数日プレモーネ空けますんで」
「バイルエ王国?お前、何をしに行くんだ?」
「とりあえず道を作る事の最終確認と向こうに居る日本人の視察をして、ついでに交易と情報収集と観光?」
「まあ止めても無駄だろうからダメとは言わんが帰って来るんだろうな?」
「まあそれは大丈夫ですよ。それにこの世界の王様とか見てみたいだけですから」
そんな話をした後、領主館を後にして相談所に向かいます。
「月山さんがそんな風だから何時まで経っても我々日本人がまともに生活出来ないんですよ!!!!こんなんじゃいつになっても日本に帰る方法なんて見つかりませんよ!!!」
相談所に入ろうとすると中から聞き覚えのある怒鳴り声とそれを囃し立てる人たちの声が聞こえます。
「月山部長~こんにちは~」
そう言いながら怒鳴り声など聞こえていないかのように相談所に入ると野田課長他8人ぐらいが月山部長に詰め寄っている感じでした。
「武内!!!貴様何しに来た!!!」
「何しにって月山部長と話をしに来たんですが、なにか?」
「今、私たちは大事な話をしていて取り込んでいるんだ!帰れ!!!」
そう野田課長はつばを飛ばしながら怒鳴ります。
「いや、野田課長の用事なんでただ喚き散らして周りに迷惑かけてるだけでしょ?喚きたいなら門の外で喚けばいいじゃないですか。自分達じゃなにも出来ないからって文句を言うだけの人よりまともな話をしに来たんで、暇な人は帰ってもらった方がいいんですけど」
「武内君、言い過ぎだぞ、それに野田君も感情的にならずに冷静になって話をしないと何も解決しないだろう。」
月山部長が仲裁をする形で一旦、野田課長を落ち着かせようとします。
「私は冷静ですし感情的になどなっていません。それと先ほどお話をした事は我々の総意であって武内のように私利私欲に走ってる訳ではないのです。そこの所をよく考えて頂きたいのです」
「私利私欲とは物は言いようですが、野田課長は何が望みなんですか?」
「ふん!お前なんかには理解できないだろうが、この町に居る日本人は得手不得手があり、それにより得られる収入が変わって来る、それでは知識や技術が無い人間はどんなに頑張っても報われることがないだろう、それを私たちは全員が働いて得た金を一旦まとめて均等に分配する事で不利益を被る事が無いようにしようと話しているんだ」
「野田課長はどこの社会主義者ですか?そんなふざけた提案なんか努力して真面目に自立してる人が納得する訳ないでしょ」
「そんな事を言っているからお前は何も分かっていないと言うんだ!一部の人間だけが利益を得て格差が生まれるのが問題なんだ!それを平等にし、お互いが助け合ってこそ、この状況を乗り切れるというものだ!」
「全く理解も出来ませんし同意も出来ないですね、因みに野田課長はそうなった際に何の仕事をするんですか?」
「そんなの決まっているだろう、私達が提案した事なんだからこのシステムの管理や日本人の指導、教育をするのが当然だろう」
「要は自分達は働かずに、他の人が働いて得た金で自分達は生活がしたいという事ですよね?そんな事、誰も納得しないでしょ」
「ふざけんな!お前は何も分かっていないのにそうやって屁理屈ばかり言って、それがどれだけ周りに迷惑をかけているのか分からないのか!」
「とりあえず、迷惑をかけられた覚えはありますが、迷惑をかけた覚えはありませんね」
そう言って野田課長を見るとワナワナと顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいます。
「月山さん、もうこの町に居る日本人の多くが限界なんですよ。それは月山さんも分かっているでしょう。今が改革の時なんです!」
「野田君の言いたい事はある程度理解できるが、武内君の言うように納得しない日本人も多くいるだろう。それを一方的に押し付けるのはどうかと思うが」
「納得しない人間はそれこそ私利私欲に走って助け合おうとしていない人間ではないですか!そういう人間は頭を抑えつけてでも納得させるのが我々大人の責務でしょう!私たちはこの町に居る日本人全員の為を思って言っているのですよ」
うん、どう考えても自分達が働かずに楽して金を得ようと私利私欲で言っているようにしか聞こえない・・・。
「野田課長はスターリンにでもなりたいんですか?」
「誰がスターリンになりたいなんて言った!そんな事を言って自分の事しか考えていないからお前は駄目なんだ!!」
「月山さん、聞く処によればこれから製糸工場や織物工場などを立ち上げるという話ではないですか。だからこそ我々の言う提案を実行し管理をする事で助け合いが成り立ち格差が無くなるのです。納得しない者は自分達が不利益を被るとわかれば納得して助け合いに加わるに決まってます」
「野田君、製糸工場も織物工場も武内君が立ち上げようとしているんだぞ?武内君が納得しなければそもそも工場の立ち上げすらままならないと言うのにそれを目当てにすると言うのは皮算用と言うのではないか?」
「月山さんまでそのような事を言うのですか?武内が居なくても工場を立ち上げて稼働させればいいではないですか!それをすべて武内任せにするからコイツが増長するんですよ!!」
「いや、野田課長、製糸工場や織物工場を自分達でどうやって立ち上げるんですか?」
「そんなのは決まっているだろう、月山さんが日本人に金銭を支援をしているのは知っている、その金を原資にすればいいだけだろう、そんなことも分からんのか?」
「いや、その金、自分の金なんですけど・・。そもそも材料とか建設予定地のあてはあるんですか?」
「ふざけるな!お前はそうやって邪魔ばかりして楽しいのか!!お前のように少し恵まれているからと言って自己中心的な人間が居るからこの世界に連れてこられた人間が苦労をしているのだろう!それを分かっているのか?」
「いや、自分がいたから今の生活が成り立っているんでしょ?そんなに自分達の提案が良いと思うのなら賛同する人達だけでやれば良いじゃないですか」
「ふん、お前に言われなくてもそうするに決まっているだろう、お前が邪魔をしなければ結果などすぐ出るんだ!!」
「まあ結果は火を見るより明らかですけど、自分からの物資や今の宿舎は当てにしないでくださいね、そもそも今の宿舎も自分が領主のグランバルさんに協力する条件で破格の価格で用意してもらってるんですから。自分達のお金で住む場所や事務所を探してやってください」
「ふざけるな!!それが邪魔をしてると言うんだ!!今の宿舎もお前が用意する物資も我々は使用する権利があるんだぞ!」
「いや、権利とかありませんからね、単に自分がグランバルさんに協力する対価で用意させてるものですから、自分達で好き勝手するなら普通に強制退去させられますから。それに自分が提供している物資は今後順次販売する予定ですし。散々人を罵倒しておいて自分達の都合で権利とか言われても通じるわけないでしょ」
「聞きましたか?月山さん、武内はこんな奴なんですよ!!こんな奴の自由にさせているから、この町に居る日本人の価値が落ちて、ろくに計算や知識も無い奴らに安い賃金で顎で使われているんですよ。我々のように教養があり知識もある人間が導くことでこの町も発展していずれは領主も我々に感謝するというものです」
「確かに武内君の言い分は少し強引に感じるが、実際に宿舎の手配も増築も物資の支援も武内君が居たからこそ得られた事であって、グランバルさんの依頼を武内君がこなすからこそ今の生活が保障されているのも事実だ、それを無視して当然の権利と言うのは些か強引ではないのか?」
「月山さんまでこんな奴の片を持つとは見損ないましたよ!あなたはもっとまともな考えが出来る人だと思っていましたが先の先まで考える事の出来ない人だったとは」
「いや、野田課長達の方が先の先が見えていないでしょ、自分達が楽に金を手に入れる方法だけを考えて皮算用ばかりで、全く先が見えていないじゃないですか。ハッキリ言いますけど、自分は自活をする為に努力をする人達には支援や投資をしますけど、一部の人間だけが得をする社会主義を振りかざそうとする人には支援も投資もするつもりはありませんし、領主であるグランバルさんも支援はしてくれませよ」
「ふん!そんな事を言って私達を騙そうとしても無駄だ!どの国も我々日本人が喉から手が出るほど迎えたがっている、領主が支援をしないわけがないだろう」
「あ~、そう言えば野田課長を含め数人に他国の間者が接触して引き抜きをかけてるからですか?貴族にするとか領地を与えるとかでしょ?それに対して過剰要求をしたから先方も今はそれだけの利があるか調べてるところですね」
「な、なんでそれを知ってるんだ?まあいい、その通りだ、我々を迎え入れたいと言ってる国が幾つもあるんだ、それに応じないでここに残ってもらいたいなら、領主もそれなりの待遇を約束するに決まってる」
「うん、それは無いですね、むしろそこまで調べ上げられてるのに間者が放置されてる時点で引き止める気が無いの分かりません?」
「そ、それは・・・」
「因みにバイルエ王国との外交でお互いが保護している日本人の引き抜きをしないとの密約があるんで。双方の間者が情報交換してるんですよ、だから今は諜報能力が通常以上なんですよ。その上で黙認してるんですから他国に行きたいなら行けばいいと言うスタンスですね」
「ふ、ふざけんな!我々が他国に行って困るのは領主だぞ、それを指を咥えて見ているはずがない!」
「じゃあグランバルさんのとこ行って聞いてみたらどうです?間違いなく相手にされないでしょうが」
そこまで言うと野田課長も少しは自分の立場を理解したのでしょうか、反論する言葉が弱くなってきます。
その後も無駄な問答が続きましたが最終的には、後で後悔するなよ!と捨て台詞を残し相談所を出ていきました。
「武内君、さっき言ってたことは本当なのか?」
「何がですか?」
「いや、他国からの間者が日本人に引き抜きをかけているという話だ」
「あ~、なんか野田課長が無駄に自信満々なんで、引き抜きでも受けてるんじゃないかな~っと思って言ったら本当だったみたいな?」
「じぁあバイルエ王国との密約と言うのは?」
「そんなものは無いと思いますよ。まあグランバルさんが本当に密約結んでるかもしれませんが、とりあえず出まかせです」
「はぁ~、これで野田君達が本当にプレモーネを出て他国に行ったらどうするんだ?」
「その時はその時ですね、本人達が望んだことですから、無理に縛り付けないで自由にさせてあげるしかないでしょうね」
「それは・・同じ会社で働いていた同僚だぞ?」
「月山部長、心配なのは分かりますが、野田課長達も子供じゃないんですから、自分で考えてこうしたいと言うならそうさせるしかないですよ。じゃなければ今後も過剰に要求をしてきて反対に日本人同士で反目しあう事になりますし、社会主義なんか持ち込んでプレモーネの人を煽動しようものなら関係ない日本人まで被害をうけますから」
そう言い月山部長には、野田課長の好きにさせるように言含めて、渋々納得させた後、相談所を後にして転移魔法で領主館に行ってグランバルさんに今回の顛末を説明しておきます。
流石に最初は日本人流出に難色を示していましたが、社会主義の説明をして利益より害の方が大きい旨を伝え納得をしてもらいました。
「マサト、その社会主義ってやつは、一生懸命働いてもサボってる人間と賃金は同じだから俺もサボろうってならないか?」
「なりますよ。なので社会主義が成功した国は世界で1つもありません。ただ低賃金の人達には魅力があるんで社会主義の運動に火が付くと厄介なんですよ」
「それならなおさらそんなもんは認められんぞ」
「ですので他国に行きたいと言うならそれを止めないで貰いたいんですよ」
その後も社会主義、共産主義について話をした後、領主館を後にします。
うん、それにしても一番魅力的なはずの自分には引き抜きの話が1件も来ていないんだけど・・・・・・・。
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拙い文章・誤字脱字が多く読みづらく申し訳ございません。
あと、図々しいお願いではございますが、評価頂ければなお幸いでございます。
また、誤字、気になる点のご指摘等誠にありがとうございます。




