紹介状
237日目
朝の日課となった遺跡での魔物狩りを済ませ、家で寛いだ後、昼頃に日本へゲートを繋げます。
「鈴木さん、依頼の品は出来ました~?」
そうゲートから声をかけると対策室に居た人たちが一斉にこちらを向き、なにやらPCを操作していた鈴木さんが作業を中断しこちらにやってきます。
「武内さん、依頼された通り、子供でも分かりやすいように社会主義の闇の部分を強調した文章と絵になってます」
そう言ってA4の紙に書かれた30枚ぐらいの紙束を渡されます。
「武内さん、こちらの紙に翻訳をお願いします、吹き出しの所は文字数に気を付けて下さいね」
そういう鈴木さんの言葉にうなずきつつも、渡された物に目を通しますが、流石日本の官僚と言うべきでしょうか、かなり社会主義の闇の部分が強調されています。
「うん、これなら反乱を起こしてる人の主義が実現すると反対に平等どころか搾取され酷い抑圧が待っているって感じに思えそうだね」
「はい、結構誇張表現なども含まれていますが、あながち間違ってもいませんし、ウソでもないので問題ないかと」
鈴木さんはそう言って胸を張って若干ドヤ顔をしています。
うん、これ作ったのは鈴木さんじゃないよね?
なのになんで鈴木さんがドヤ顔してるの?
「鈴木さん、とりあえず今から全力で翻訳して明日の昼頃に翻訳したのを渡しますんで大至急製本してください」
「分かりました、製本の手配はしていますので翻訳が出来次第早急に取り掛かりますが、数はどのぐらい必要ですか?」
「そうですね、出来ればトータルで2~3万部、それも外装は少し豪華にして、絵と表紙はカラーにしてください」
「2~3万部ですか? 流石にその数となると日数が…」
「確かにそうですよね…。 まあとりあえず4日後の昼頃までに出来てるだけ用意をお願いします。 その後は順次纏まった数を貰えればいいんで」
「わかりました、では4日後のお昼頃までに出来る限り製本をして用意しておきます」
「お願いします。 あっ、あと袋とかに入れなくていいんで段ボールかなんかに本をそのまま詰め込む感じでお願いします。 こっちの世界にはビニールなんて無いんで余計な物はない方が良いんで」
そう言って、製本と受け渡しに関しての打ち合わせをした後にゲートを閉じます。
さて、じゃあこれから相談所に行って月山部長と翻訳だ。
それにしてもネレースがこの世界の言語が分かり読み書きも出来るようにしてくれていて助かったな。
これで異世界の言葉を読み書き出来なかったら翻訳に時間がかかっただろうし。
そんな事を考えつつ相談所で月山部長と二人で翻訳をします。
「武内君、この内容は少し過激じゃないか? それにえらく悪い方に誇張されているようだが…」
「そうですね、悪い方に誇張して欲しいとはお願いしましたが、見事に誇張されてますね。 とはいえこの世界は封建制度ですし、金貨数枚で人の命が買える世界ですからこのぐらい誇張されているぐらいで丁度いいんじゃないですか?」
自分がそう言うと月山部長も思い当たる節があるのか、納得した顔で翻訳をしていきます。
とはいえ、これを製本した後、パルン王国にばら撒くにしてもどうやってばら撒くかな。
行商を装って配り歩くか、それとも大きな商家にまとまった数を配るか、とはいえ大きな商家に配るにしてもいきなり行っても信用されないだろうしな…。
うん、ここは直接パルン王国の王かお偉いさんに直接会って紹介状でも書いて貰ってから大きな商家を回って配ろうか、あとはその商家の流通網にのせて各地にばら撒いて貰えば労せず広まりそうだし。
よし、グランバルさんとロ二ストさんに紹介状を書いてもらおう。
子供でも分かるぐらい分かりやすく作ってくれたおかげで大して苦労をする事も無く夕方頃には翻訳が終わります。
「ふぅ、もっと時間がかかるかと思ったが意外と簡単だったな」
「そうですね、まあ月山部長と二人で作業しましたし、内容も簡単でどちらかと言うと絵が多かったですからね」
そう言って二人でソファーにもたれ掛かりコーヒーを飲んでいますが、既に翻訳を終えた原稿はゲートを開いて対策室の鈴木さんに渡してあります。
さすがの鈴木さんも翻訳がここまで早く終わるとは思っていなかったのか驚いていましたが、二人で翻訳した旨を伝えると納得した感じで製本所に依頼を入るとの事でした。
4日後の昼までにはどの程度出来上がっているかな。
まあ、今日は家に帰って休んで明日はグランバルさんとロ二ストさんに紹介状を書いて貰いに行こうかな。
恐らく紹介状があると無いでは確実にパルン王国の対応が違ってくるだろうしね。
238日目
もはやルーティン化した遺跡での魔物狩りを朝のうちに行って、自宅で朝食を摂った後、領主館に向かいます。
「それで俺に紹介状を書けと?」
「そうです、いきなり自分が乗り込んでも城内にすんなり入れないでしょうし、お偉いさんに会えるかも分かりませんから。 それに一応手土産に日本の酒やジュースなんかを持っていきますんで今後交易相手になるかもしれませよ? まあ先行投資と変な主義主張をする人間たちを潰す為と思って」
「まあ確かにマサトの言う社会主義なんてもんは俺達領主や王国、いや国と言う物を根底から壊しかねんからな」
「そういう事ですね、交易云々は置いといて、この反乱を下火にして終わらせないと。 今はパルン王国だけですがこれが隣国に広がったりして火が付いたらそれこそ手が付けられなくなりますんで」
自分がそう言うとグランバルさんも同様の意見なのか、高級そうな紙を出し、なにやら文字をしたためた後、蝋封をし、ドグレニム領の文様が装飾された箱に収めて添え状と共に自分渡しました。
「マサト、これは正式な書類だ、門番にこの添え状と文箱を見せればパルン王国の要職に就く人間に会えるだろう。 それのお前の事だからバイルエ王国にも紹介状を書かせるんだろう? それならかなり中枢の人間に会えるはずだ」
そう言っていつになく真剣表情のグランバルさんに、丁重に事にあたる旨を伝え、領主館を後にしてバイルエ王国へゲートを使って移動します。
もはやフリーパスで通り抜けれるようになった王城の正門を通り抜け、王城の内部にあるロ二ストさんの執務室に向かいます。
何度来ても派手過ぎず、かといって質素過ぎず、落ち着きのある雰囲気の執務室に入るとロ二ストさんがソファーを勧め、メイドさんにお茶の準備を指示してくれます。
「これはマサト殿、毎回突然のご訪問ですな…」
そう言って苦笑いを浮かべるロ二ストさんですが、面倒だなって雰囲気を感じさせず穏やかな感じです。
「毎回毎回、突然でスイマセン、今日はお願いがあって来たんですよ」
「お願いですか? 私がお手伝いできる事ででしたら構いませんが」
小首を傾げ、何の依頼かを考える様子のロ二ストさんにパルン王国の件を話します。
「確かにパルン王国の反乱の件は伝わって来ていますが、その社会主義という主義・主張は庶民など貧しい人などが聞けば魅力的に聞こえるでしょうが、そこまで国を蝕むものとは…」
「そうなんですよ、それでその反乱を鎮静化させるために社会主義の悪い部分を本にしてパルン王国内にばら撒こうと思って準備をしているんですが、パルン王国の要職にある人と会って効率良くばら撒く方法などを打ち合わせしたくて…。 それでバイルエ王国からの紹介状を頂きたいんですよ」
「紹介状ですか? まあ確かにグランバル殿の紹介状だけでは物足りない可能性がありますな」
「そうですね、それに出来る限り上に立つ人間と話をしないと最悪こちらの情報が洩れる可能性がありますんで」
「情報が洩れる? 流石にそれは無いのでは? この王国を否定するような主張を王国に仕える者が信望するとは思えませんが?」
「いえ、恐らく社会主義を信望する人間は既に王国に仕える者にも浸透しつつあります。 それが証拠に反乱を鎮圧しようと兵を出すとすぐに反乱を起こしている者は地に潜るようですし」
そうロ二ストさんに説明をすると驚いたような顔をしつつも納得をしたのか思案顔で何かを考えています。
「マサト殿、すこしこちらでお待ちください」
そう言ってロ二ストさんが席を立ちどこかに行ってしまいましたが、まあこれで紹介状は出せませんとは言わないだろうから、言われた通り暫くお茶でも飲みながら待ちますかね。
どなたかレビューを書いてくださる猛者は居ませんでしょうか?
と思う今日この頃…。 自分でもこの物語のレビューをうまく書ける自信がありません。
そんな中でも読んで頂き、ブックマーク・評価、また、感想を頂き誠にありがとうござます。
拙い文章・誤字脱字が多く読みづらく申し訳ございません。
あと、図々しいお願いではございますが、評価頂ければなお幸いでございます。
また、誤字、気になる点のご指摘等誠にありがとうございます。




