燻る火種
221日目
グレームさんの説得の成果か、砦の守備隊長のラインドさんとその配下の人達はすんなりドグレニム領兵の一員になる事を了承し、大聖堂で襲って来た6人組もドグレニム領兵になるとの事です。
まあ話を聞く限り、ラインドさん達は領民の為なら所属なんかは気にしない感じのようですが、6人組は街道の見回り給金が出て倒した魔物から得られた利益も得られるというのが決め手だったみたいです。
まあ魔物を倒せば倒しただけ得られるお金が増えるんだから、毎月給金の出る冒険者みたいなものですから普通に考えて実力がそこそこあれば、割のいい仕事ですよね。
そんな事を思いながらも、ドグレニム領兵を率いて来たタロイマンさんと内政官の人、そして新たに加わったグレームさん、ラインドさんと今後の方針について話合いますが、最優先は食料支援と荒れた田畑や村の再建、そして難民になって他国に行った人へ帰還を促す事に重点を置くことになります。
「ではタケウチ殿の率いるゴブリン軍団と例の6人組には領内の魔物討伐を、グレーム殿は内政官と共に統治を本格化するための行政全般を、ラインド殿には今後増えて来る旧ウェース聖教国兵の雇用を、そして我々ドグレニム領兵は各村への食料輸送をするという事で」
そう言ってタロイマンさんが会議を締めくくります。
「それとタケウチ殿には、グランバル様に一応今回の進攻のあらましを書いた書状を届けてもらいたい」
「いいですよ。 報告がてら行ってきます。 まあ自分の独断で決めた事とかあるんでついでにお小言も聞いてきますんで」
そう言ってゲートをくぐりプレモーネの領主館に向かいます。
「マサト、無事に終わったみたいだな」
執務室でお茶を飲むグランバルさんがそう言っての椅子の背もたれに体重を預けます。
「そうですね、大した被害も無く無事終了しました」
「被害が大して出ていないのはいい事だ、それで今後統治するにあたって問題はありそうか?」
「統治に関しては重税をかけたり労役を課したりしなければすんなり出来ると思いますよ。 ただ田畑は荒廃して食糧難がしばらく続くでしょうから増収は期待できませんね」
「そうか、兵を出して得たのは荒廃した土地と飢えた領民の住む土地か…。 領土が増えた事を手放しに喜べんな」
「そうでも無いですよ、一応優秀な人材は確保していますんで復興と統治はスムーズに行くと思いますよ」
ため息をついていたグランバルさんですが自分の言葉を聞いて身を乗り出します。
「それは本当か? その人材って言うのはどういう奴だ?」
「一番の収穫はウェース聖教国の宰相と言われたグレームさん、あと砦の守備隊長だったラインドさんですかね」
「マサト、お前あのグレーム卿をか? どういう事だ? 俺は何も聞いてないぞ!」
「そうですね、今言いましたし、本人はもう権力に興味ない感じですから問題ないですよ。 それにグレームさんの手腕は確かですから、統治に行った内政官の人達と一緒に働いて貰ってます」
「お前な、そういう重要な事は先に報告するなり相談するなりしろよな、それにしてもあのグレーム卿をどうやって口説いたんだ?」
「口説いていませんよ。 ただ権力争いに振るっていた手腕を領民の為にと言っただけです。 本人の話だとスラム出身で飢えの苦しみは身に染みて知ってるようですしいい仕事すると思いますよ?」
「そうか、まあもう登用してしまった後じゃ今更何も言えんな…。 それでもう一人のラインドって言うのはどういう人間だ?」
「一言で言うと部下や領民などの為になら死をも厭わないような人間?」
「なんで疑問形なんだ? 本当に大丈夫なのか?」
「多分大丈夫です。 なんせ自分の命を差し出すから砦に居る兵の助命を求めるような人ですから」
そう言う自分にグランバルさんは今一納得していないような表情をしながらも、その他の人材の説明を聞いています。
「まあ大体は分かったが、今回はマサトがバイルエ王国と勝手に話を進めた侵攻計画で得た領地なんだから食料支援は責任を持てよ」
「まあその辺は仕方ないですね。 とはいえアイテムBOXから穀物を出すだけなんで構いませんが統治の方は頑張ってしてくださいね。 せっかく得た領地ですし今後交易先を開拓するにあたって重要になってきますから」
「ああ、自領になった以上はドグレニム領の領民として扱うし発展にも尽力する。 とは言え俺の出る幕はなさそうだがな…」
グランバルさんは軽く嫌味を言うと机の上に置いてあった書類を数枚渡してきます。
「なんですか?」
「マサトが調べて欲しいって言っていたパルン王国で起きてる反乱の報告を纏めた書類だ」
そう言って渡された数枚の書類を執務室のソファーに座り内容を確認します。
書類に書かれた内容を読み進めるとどうやら反乱の首謀者は低所得層に対し高所得者が儲けを還元しない事が貧富の差が出来る原因と言い、権力者を排除し利益を職種に応じ平等に分配する国を目指すと言って支持を得ているようです。
またなんで社会主義的な発想が。
それにしても首謀者や幹部は異世界人と思われるが素性は不明ってなってるけど、まさかね…。
あとは反乱の状況か、この報告書を読む限り現時点では国が軍を派遣すると反乱軍は解散し、軍が帰還すると再結集するの繰り返しか。
この手の小細工をする反乱軍を討伐するには罠に嵌めるのが一番だけど情報伝達もパルン王国は即座に出来ないだろうから相当うまくやらないと罠にはかからないだろうな…。
「マサト、それを読んでどう思う?」
「どう思うってどういう事ですか?」
「その反乱軍が掲げている主義主張、そして今後どうなるかの見通しだ」
「主義主張は以前お話した事のある社会主義のように感じますね。 今後に関しては分かりませんね、このまま火が燻るようならいつかふとしたきっかけで炎上するでしょうし、このまま下火になって消えるかもしれません」
「マサトでも今後の予測は難しいか」
「自分はそこまでなんでも見通す程の力はありませんから当然です。 とは言え反乱軍の主義主張が他国にまで飛び火するのは困りますね。 とりあえず今後も注視しておいてください」
その後は、グランバルさんと再度、新たに領土となった土地の管理や復興へ向けた話、投降兵の再編などをした後に領主館を後にします。
あとは月山部長に戦争の結果とパルン王国で起きてる反乱の報告をしたら久々に今日は自宅のベッドで休んで明日はゾルス達の所に視察に行こう。
それにしてもパルン王国で起きてる反乱の首謀者は野田課長じゃないだろうな…。
なんかあの人ならやりかねないけど、まあその時はこっそりとパルン王国に手を貸して反乱の元凶を処理しないと。
とはいえ日本政府からの依頼もあるし、当面はオダ帝国の偵察かな…。
本当、仕事多すぎでしょ。
どこかに労働基準監督署でも無いんもんかな…。
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