降伏条件
軍使が砦に入り、30分ぐらいが経過した頃、砦から軍使として向かった幕僚と、ゴツイ鎧を着た人が砦から出てきます。
「土田、あのゴツイ鎧の人って守備隊長だと思う?」
「多分そうだろう、恐らく降伏勧告を受け入れる為に来たんだろうな」
そう土田と話ながら、本陣として作った東屋の方に向かい、軍使と砦側から来た人を待ちます。
砦から来た人は、守備隊長のラインドと名乗り、降伏を条件付きで受け入れる旨を伝えに来たようですが、遠目からだからあまり気が付きませんでしたが、身長は約190センチぐらいでしょうか、筋骨隆々のガチ戦士と言った感じです。
「それでラインドさん、条件付きで降伏を受け入れるとの事ですが、この場合無条件降伏が普通じゃないですか?」
「それは分かっているが、こちらも部下の命を預かる身だ、こちらの条件を飲んで貰わない事には降伏は出来ん!」
そう言ってラインドさんは一歩も引かない感じのようです。
「じゃあラインドさんの言う条件と言うのをお聞かせいただけますか? それによっては受け入れられるか断るかが決まりますので」
ラインドさんに条件を言うように促すと、ラインドさんは条件を話し始めます。
「一つ目は近隣の村々への略奪や乱暴をしないでもらいたい。 二つ目は砦の兵士達の助命だ、砦を明け渡し俺の首を差し出すから、兵士達を攻撃しないで貰いたい。 三つ目はこれ以上の進軍を止めてもらいたい」
そう言って頭を下げるラインドさんですが、どうやらウェース聖教国内の人にしてはまともな人のようです。
「とりあえず、一つ目の件からですが、我々は村などを襲って略奪や乱暴をするつもりはありません。 むしろ現在進行形で各村へ食料支援を実施し、戦後ドグレニム領とバイルエ王国を糾合する為に人心を掌握する事に力を入れています。 なので一つ目の条件は既に望み以上の形で達成されています」
「まさか、それは本当か?」
「ええ、本当です。 なんなら後で近くの村へ案内しますんでご自身の目でみれば良いでしょう」
「そうか、食料を支援してくれているのだな。 なら飢えに悩まされることもあるまい…」
そう言ってラインドさんは一人で納得しています。
うん、とりあえず後で案内するから自分の目で見てから納得してね。
「二つ目の兵士の助命ですけど、これは全く問題はありませんね。 こちらも無駄に血を流すのは嫌ですからその辺は安心してください。 とは言え解放はしません。 砦に軟禁させてもらいます」
「な、軟禁? それでは兵士達は故郷にも帰れず、自分の家族たちが蹂躙されるのを守る事も出来ないと?」
「まあそうなりますが、そもそも解放したら国を守るために再度武器を持って向かって来るでしょ? だからです。 それに自分達は兵士相手に戦いはしますが、民間人には一切手を出さないのでその辺は安心してください」
「それは、確かにその通りですが、家族を心配する物も多くおりますので、そこを曲げてお願いしたい」
「そうですね、ただこちらもウェース聖教国の兵士が無駄に減るのは困るんですよ。 なんせウェース聖教国を滅ぼした後に兵士達はドグレニム領とバイルエ王国でそのまま雇用するつもりなんで、無駄に禍根を残したくないんですよね」
「今なんと? ウェース聖教国の兵士をそのままドグレニム領とバイルエ王国で雇用されると?」
「そうですよ。 仮にも軍隊に所属する兵士ですからそのまま雇用して各軍の兵士と同等の扱いをする予定です。 それに職にあぶれて野盗になられても困りますし」
そう言うとラインドさんは驚いたような顔をしています。
「まあそう言う訳で助命はしますが、解放は現状難しいですね」
「では、この話を兵士達にし、内応を約束した者にこの話をウェース聖教国の兵士に流すという条件では如何でしょうか? それならそちらにも解放するメリットがあるはずです」
ラインドさんは必死に食らいついてきますが、確かにメリットはありますが、反対に口裏を合わせればこちらが不利にもなりかねないのでそう簡単には了承出来ない話です。
「じぁあ砦に軟禁するのは、守備隊長とその他幕僚で一般の兵士は事情を説明して解放するという事でどうでしょう? 実際800人の人間を軟禁するにも兵士が必要ですし」
そう声をあげたのは軍使として砦に赴いたバイルエ王国の幕僚の人です。
「まあ確かに、指揮官が居なければ軍隊はあまり機能しないし、それならまあいいかもしれませんが、この話はラインドさんが全員に訓辞するという形で行ってもらいますけどいいですか?」
「それは構いません、 兵士を一堂に集め、今の話を全員に伝えさせて頂きます」
「まあ一応言っておきますが、この話を意図的に利用してウェース聖教国が有利になるような事を言えば砦の兵士は全員命はありませんよ」
「それは分かっている、 そちらの監視の下で兵士達に伝えるので構わない」
「じゃあ兵士の処遇はそれでいいとしましょう。 ただ三つ目は完全の条件は全く呑めません。 その辺はお分かりですよね?」
「ああ、この状況で三つ目は無理だと自分でも理解している」
「そうですか、それは良かった、とは言え安心してください。 聖教会は存続させますし、総本山を破壊したりはしません。 とは言え現在の教会の幹部は全員幽閉させてもらいますが」
「そうか、聖教会は存続が許されるのだな?」
「ええ、そのためにわざわざ亡命した元聖女のステレーネさんが今回の進攻に付いてきてるんですし」
「なに? ステレーネ様がこの場に来ているだと?」
「来てますよ。 総本山を制圧した後に聖教会をまともにする為には元聖女の力が必要ですから」
「そうか、ステレーネ様はご無事で民の為にこの国を滅ぼし聖教会を正しき道に戻しに来たのだな?」
「まあそう思って頂いて結構です」
そう言いながらも、ステレーネさんの名前を出したらなんかラインドさんが一人で納得したのが驚きだけど、まあこの人は腹芸とか出来なさそうですし、実際に領民の生活を守る事を最初の条件にして来るぐらいだから信用して大丈夫でしょう。
そう思いながら、降伏条件の確認をおこない、合意をした後で、ラインドさんがステレーネさんに一目でもと言うので面会をさせてから土田と50人程の兵士を連れて砦に戻っていきました。
それにしても、ウェース聖教国内で、元聖女であるステレーネさんの名前すごい有効だな。
今後も必要に応じて使わせてもらおう。
そんな事を思いながらもステレーネさんとお茶を飲みながら雑談をしていると、砦から兵士が続々と出てきて移動をしていきます。
うん、どうやらうまく行ったようだな。
それにしてもラインドさんはまともな人のようだから是非ともドグレニム領側で雇用したいもんだけど、恐らく土田達も同じ考えだろうな~。
まあとりあえず、兵士の退去が完了したら砦に入城して今晩はここで宿泊だな。
それにしても現時点で血が流れていないのはいい事だ。
このまま無血でいければいいんだけど…。
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