日本政府の迷い
200日目
朝9時頃に月山部長が自宅にやってきましたので、ゲートを維持する為の補助魔道具を準備して約束した時間の10時になるのを待ちます。
10時になり転移魔法でゲートを開くと既に日本側は主要な人が集まっているようで一斉にこちらを向きます。
「あ~おはようございます。 なんか皆さんお揃いで…」
「武内さん、今日は先日話した件の再確認をさせて頂きますが、マスコミに接触したのは武内さん達では無いんですよね?」
そう言って内閣府の鈴木さんが勢いよく質問をしてきます。
「この前も言いましたけど、自分達では無いですよ。 前回言ったように、マスコミにリークするという唯一持ってるカードで交渉を有利にしようとしていたのに、そのカード無駄にするような真似する訳ないじゃないですか」
そう自分がサラッと悪びれることなく答えると、今回は参加していた政治家の人が顔を顰めます。
「では、この前お渡ししたお城の写真で分かった事とかはあるんですか?」
鈴木さんは、自分の言葉が終わると同時に畳みかけるように質問をぶつけてきます。
「なんか今日はえらく機嫌が悪いような…。 俗に言う女の子の日?」
「違います!!! ていうかそう言うのはセクハラですよ!」
なんか凄い剣幕で怒られましたが、訴える相手が異世界に居るんじゃ慰謝料とか請求できないですよね…。
「まあ、そういうのは冗談で、一応自分が拠点にしている所の領主さんと、隣国の外務卿さんに写真見せて確認しましたけど、オダ帝国って国の首都アズチってとこの城みたいですよ?」
「はぁ~。ふざけないでください」
そう言って深いため息をついて信じようとしない鈴木さんに、ネレースから貰ったヌスターロス大陸の詳細地図を見せます。
「これは、転移をおこなった神から貰った世界地図ですか?」
「世界地図と言うよりヌスターロス大陸の詳細地図みたいです。 他にも大陸はあるようなのですが、そこには日本人を転移させてないって言ってたので貰ってないんですよね」
「武内さん、この地図は頂けますか?」
「あげるのはいいんですが、数が無いんで、コピーしてもらえます? 原紙は差し上げますんで、コピーを4~5枚にして返して頂ければ助かります」
自分がそう言うと、鈴木さんは後ろに控える職員さんと話をし何か確認をしています。
「武内さん、申し訳ないんですが、このサイズのコピーは出来ません、何枚かに分割してコピーして張り合わせる形でもよろしいですか?」
「まあそうなりますよね…。 広げたら2~3畳分ぐらいの大きさありますから…。 まあそれでいいですよ」
その言葉を聞いた鈴木さんは地図を職員さんに渡し、渡された職員さんはコピーで複製をしに行ってしまいます。
「いや、鈴木さん、オダ帝国の説明の為に地図出したのに、持っていったら説明できないじゃないですか」
「あっ!!」
確かに!!
そんな顔をした鈴木さんが、先程地図を持って行った職員を呼び戻そうとしていたので、それを止めて、もう一枚ヌスターロス大陸の地図を出します。
「武内さん、同じものが複数あるなら複製する必要ないじゃないですか?」
「いや、異世界でこの詳細地図は貴重なので、1枚でも多くあった方が色々便利なんですよ。 よく考えてください、手書きで作られた大まかな地図が主流の世界に自分達は居るんですから。 ある意味この地図1枚が異世界では国宝級ですよ」
流石に国宝級は言い過ぎたかと思いましたが、なんか日本の人達は納得をしてくれています。
「では、この地図をお借りして、武内さんいる場所とオダ帝国がどこなのか教えてもらえますか?」
そう広げた地図を前にして言う鈴木さんですが、ゲートは20センチ四方の大きさで手を伸ばしても地図が遠すぎて場所を指し示す事が出来ません。
とりあえずアイテムBOXから槍を取り出して穂先で場所を指し示します。
「ここがロータンヌ共和国にあるドグレニム領、自分達が拠点にする場所ですね…」
「それは分かりましたが、何で槍で場所の説明をしてるんですか?」
そう鈴木さんが言うので周りを見ると皆さん若干引いています。
「いや、手が届かないし…。 指し棒とか無いんで、長い物で刺せるものって言ったら槍しか…」
「槍は刺すものですよね? 間違ってはいないようですが、刺す違いです、これを使ってください!!」
鈴木さんはそう言って、レーザーポインターを渡してきます。
「なんかハイテクですね?」
「いえ、今はこれが普通です。 場所を指し示すのに槍を出す人間が異常なんです!」
う~ん、異世界なら普通ぽいんだけどな~。
いや、普通じゃないか、指揮棒みたいなのロ二ストさん達使ってたもんね。
そう思いながらレーザーポインターを受け取りドグレニム領を指し示します。
うん、レーザーポインターと引き換えに槍を別の職員さんが持って行っちゃいましたけど、あげるなんて言ってませんよ?
「それでもって、ここがオダ帝国」
「ここがオダ帝国ですか? 国境線がこれだとして、かなり周りの国に比べて国土が小さいような気がしますが?」
「そうですね、どうやらこの国は、金や銀、そして銅などを仕入れてヌスターロス大陸に流通している貨幣を製造して流通させることで利益を出しているみたいです。 まあ昔はもっと国土があったようですがここ150年ぐらいはこの大きさぐらいらしいですよ?」
「そうですか、それでここに居る日本人がマスコミと接触しているのですね?」
「いえ、それは分からないです」
「何故ですか? 場所が分かっているなら確認できるじゃないですか?」
「いやいや、写真を貰ってまだ2日ですよ? 無理でしょ。 それに明々後日からドグレニム領とバイルエ王国で連合してウェース聖教国に攻込むんで調べる暇なんて無いですし」
「攻め込む? 武内さんは戦争をするんですか?」
「まあそうなりますね。 とは言え侵略戦争と言うより解放戦争って感じですし、多分血は流れないでしょうからお気になさらず」
「そういう問題では無いんです! 日本人が戦争に参加するなんて、あってはならない事です!」
「じゃあ鈴木さんは、魔物に襲われても国が守ってもくれず、食べ物も無く難民が多く発生している国を放っておけと?」
「そうは言いませんが、だったら食糧支援とか方法はあるはずです」
「そうですね。 食糧支援をしても国が徴発してしまったら意味無いんですよ? どっかの国みたいに上層部だけが支援で太って、下の人には行き渡らない。それでも支援しろと?」
うん、日本の近くに同様の国があるので説得力があったのでしょう。
鈴木さんは黙り込んでしまいます。
「まあそういう事なので、魔物の大発生で被害の少ないドグレニム領とバイルエ王国で連合してウェース聖教国を解体してそのまま併呑してそこに住む人々を救うんです」
「確かに、いい事をするみたいに聞こえますが、侵略して占領するんですよね?」
「占領しますね。 まあ既に人心は離れていますし、飢えで死者もでてますからとっとと占領して支援をしないと更に深刻な被害が出ますから。 それに自分達が居るのは異世界で日本じゃないですし、日本人の倫理観で物事を考えたら何も出来ませんよ」
そう言うと鈴木さんは黙り込んでしまいます。
「武内君と言ったね? その戦争の話は実際日本に住む私たちの預かり知らぬところだし、関与する事ではない、私達が聞きたいのは、マスコミと接触した日本人が誰でどのようにして接触したかだ、君にはそれを調べて早急に何とかして辞めさせてもらいたい」
そう口を開いたのは、内閣官房副長官の田川さんって言う議員さんです。
「難しい注文ですね。 確かにウェース聖教国の件が片付いて、魔物の発生も無ければオダ帝国に潜入してみるつもりでしたけど、マスコミと接触した日本人の発見と接触の阻止は出来るかどうか?」
「なぜだ?同じ日本人だろ? 会って話をすればいいじゃないか」
「まあ日本ならそうなんですが、どの国も日本人を囲い込んでるんで早々接触は難しいんですよ。 なんせ異世界人からしたら日本人は異世界に無い知識を持っていますから」
「異世界人からしたら日本人は金の卵を産むニワトリか?」
「そう考えて貰っていいと思います。 なので潜入して調査はしますが何処まで調べられるか…」
「そうか、出来ればマスコミとの接触を辞めさせて欲しいんだけどな」
「反対に疑問なんですが、マスコミの持ってる情報って、動画と3万人が異世界に転移させられた、それ以外に何かあるんですか?」
「その辺は調査中だから詳細は報告されていないが、マスコミは我々が持っている情報程の詳細情報はなさそうだ。 それがどうかしたのか?」
「そうですね、自分と同じ方法で接触をしたのなら政府と同等の情報などを持ってるはずですよね? そうではないって事は自分達とは違う方法で接触を持っているって事じゃないですか?」
「ならどうやって接触をしてると言うんだ?」
「それは分かりません。 その辺はオダ帝国に潜入して調べるしかないでしょうね。 結果は期待できませんが」
「うむぅ~。 なんの解決にもならないな。 時間の無駄だったようだ」
そう言って内閣官房副長官の田川さんは深いため息をつきます。
「無駄…。確かに政府からしたら無駄かもしれませんが、こちらは政府から何の支援も受けていないですし、むしろ異世界の情報やサンプルを提供してるんですから無駄ではないでしょう? むしろ政府が隠蔽しようとするから問題になってるんじゃないですか?」
「君には分からんだろうけど、国を運営する政治と言う物はそんな単純な物では無いんだよ」
「そうですか、自分には政治家たちの保身にしか聞こえませんけどね」
「まあ何も分からん人間はそうとしか見えんのだろうな。 こちらは君達、異世界に転移した人間の事を思って色々と骨を折っているのすら分からんとは」
「サンプルを無償で提供させるだけさせて、異世界転移を認めず失踪者として処理をして、帰還した際は隔離施設に収容することがですか? だとしたら相当都合のいいお骨折りですね? 自分としてはとっとと異世界転移と現状を政府が公表して帰還の為の手を尽くすのが誠実な対応だと思いますけどね?」
「それで政府が公表したとして誰が信じる? どうやって信じさせる? サンプルとして譲り受けた魔物の死骸を一般公開でもすればいいのか?」
「う~ん、そうですね、テレビ中継中の国会かなんかで野党が異世界転移についてなんか文句を言っている際にゲートを開いて証明したら面白そうですが?」
「わっはははは、野党が異世界を証明しろと息巻いている最中にゲートを開いて証明すると? 面白い考えだな。 野党の奴らの間抜け面が目に浮かぶようだな」
「だったらそうすればいいじゃないですか。 そのぐらいなら協力しますよ」
「その際は頼むとするが、政府としてまだ公表するか、異世界なんて存在しないと言って押し通すか決まって居ない以上は何とも言えんな」
そう言ってこれ以上話すことは無いと言わんばかりで田川さんは口を閉ざします。
「じゃあもう今日はこれ以上ゲートを開いていても進展はなさそうなのでお暇しますね。 次回はウェース聖教国への進攻がひと段落したらまたゲートを開きますんで」
「そのひと段落と言うのはいつになるんですか? 一月後とかそれ以上とか言いませよね?」
そう鈴木さんが声をかけてきます。
「どうでしょう? まあ1~2週間ぐらいでかたは付くと思いますんで」
「とりあえず、1週間後には一旦顔を出してください。 現状1週間後には状況が変わっている可能性があります。 長期間連絡が取れないと、何かあった際に後手に回ってしまいますので」
そう言って慌てる鈴木さんですが、とりあえず、一応余裕がある時に小まめにゲートを開くという事を伝えて政府との接触を終了します。
なんでこう政府、いやお役所ってやることが遅いんだろう。
とっとと公表でもなんでもしてしまえばいいだろうに…。
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