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白き虎との出逢いの日-1

予告していた、『神宿り』番外編です。



 どうして創樹(そうじゅ)はそこにいたのか、よく覚えていない。

 でも、創樹は森を歩いていた。

 どうしてかわからないけれど、一人でただ、森の中にいた。

 何かが居る(・・)、と、そう思ったのだ。

 今まで発揮したこともなかった好奇心が、むくむくと頭をもたげる。

 何故か、行かなければならない気がしたのだ。

 小さな体を一生懸命動かし、奥へ、奥へと。

 不思議と、木々が道を教えてくれるようだ。創樹が通れる幅だけ、そこ(・・)へ続く道がある。

 まだ小さな創樹の身長から下だけが、かのモーゼが割った海のように――そこまで大掛かりではないけれど――草が創樹の邪魔にならないように、よけている。


 創樹がもし頭上を見上げていれば、そこはまるで覆い隠すように植物が重なり合い、振り向けば、そよそよと吹いた風が草を押し戻し、先ほどまであったはずのトンネルを消していることに、気づいたかもしれない。

 だが、創樹は、ただひたすら、進み続けた。

 まるで来るな(・・・)と言うように、ぐいっと何かの力がのしかかってくるが、逆に早く行け(・・・・)と言うように、風が背を押す。

 のしかかる力が強くてたまらなくなり、でも、その向こうが何故か、とても凄い場所(・・・・・・・)なのだと、創樹は思った。怖いけど、怖くなくて、特別な人と、その人に許可をもらった人しか入れない場所。そんな感じだ。

 創樹がたくさんの言葉を知っていたら、『神聖な場所』と言うのが、一番適していると思っただろう。

 何が創樹を突き動かしたのはわからないけれど、最後のその一押しをかいくぐるようにして、その力の向こう側に創樹は飛び出した。

 はぁ、はぁ、と、小さな創樹の肩が上下に動く。

 創樹は、顔をあげ、そっと歩き出した。

 先ほどまでの圧し掛かるような力はなく、この空間は、ひたすら創樹に心地よい。

 すーっと汗が引き、呼吸が整う。

 先ほどまで速足だったが嘘のように、創樹はそっと背の高い茂みを分ける。

 少し先の、少しだけ開けた場所に、白いもの(・・・・)が見え、創樹は茂みを通り過ぎ、その空間へと。

「………虎さん…?」

 のそりと、起き上がった大きな虎。白金(プラチナ)色の美しい毛並み。

「きれい…」

 ゆったりと己の目の前にやって来た虎に、怖がるでもなく、創樹はつぶやいた。

 虎は低く唸る。

「……どうしても、気になったの」

 虎の美しい金の瞳を見つめ、創樹は告げる。再び虎が唸る。

 創樹は首を傾げた。

「…うん、わかるけど。…どうして?」

 不思議そうに創樹は虎を見つめ、やがて少し心配そうな顔をする。

「虎さん、疲れてるの…?」

 じっと見つめられ、虎は目を細める。

「…待ってて」

 創樹は告げると、元来た草むらを分け、「うーっ」と言いながら、場を隔てている壁を抜ける。

 それから、手を宙にさしのべた。

 目を閉じ、じっとしていると、さわさわと植物たちが揺らぐ。

 広い森中から、少しずつ、少しずつ。

 そう内心つぶやきながら、少しずつ集める“元気”。

 あの虎に見合った大きさを集めるとなると、少しずつまんべんなく集めなくては、どこかだけを一気に枯らせてしまうから。

 少しだけ時間をかけて集めた“元気”と共に、創樹は再び、「んーっ」と、透明の壁を抜け、草むらの中に。

 そこにはやはり、虎がいた。寝そべり、怪訝(けげん)そうな瞳を創樹に向けている。

 創樹はふふっと笑うと、虎のそばに膝をつき、さっき集めた“元気”を、ぐうっと掌の上に取り出す。虎の目が、少しだけ見開かれた。

 あっという間に、創樹の掌より、顔より、はるかに大きくなった、眩しく輝く光。

 その光を、ひょいっと、何も考える様子もなく、創樹は虎に押し付ける。すうっと、何の抵抗もなく、光は虎に消えた。

「…虎さん、元気でた?」

 創樹はこてりと首を傾げる。虎が唸った。

「…よかった」

 創樹はほほ笑んだ。

「…触っても、いい?」

 それから瞳をのぞき込んでくる創樹に、虎はピクリと耳を震わせた後、軽く唸る。

「ありがとう」

 創樹は、顔だけで己の半分以上はある大きな虎に、そっと触れた。

「ふかふか…」

 小さな手でその白金色に輝く美しい毛並みを撫で、それからそうっと抱き付く。

「あったかい…」

 すりすりと己の毛並みに頬をすり寄せ、もたれかかってくる小さなヒトに、虎はあきらめたように前脚の上に顎を乗せ、好きにさせた。






幼い頃の創樹が、初めての宿神砕牙(さいが)に出逢った日。

あと2話分くらい続きます。

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