首輪と剣
「やっと……二人きりになれたな……」
「そ、そっすね……」
「なんだか、こうやって向かい合うと緊張してしまうな……」
真面目な話するからだよね……?
ここから実は、とかないよね?
紛らわしい言い方してるだけだよね?
王城の一室。
少し薄暗い部屋の中で、ベッドに腰掛けてグレイさんと対面する形で会話している。
「どこから話をしたものか……これまで魔獣とも、魔獣細胞の適合者とも戦ってきたが比べようもない程に緊張している……」
「……俺がドラゴンの適合者だからですか?」
「あぁ……。シナーはまだ戦闘経験が無かったな?」
「はい」
「何度も生死のかかった戦場を生き抜くと、一目で自分より格上かどうかが分かる……。これは国の外、魔獣たちの縄張りを歩く上で必須の技能なんだが……」
「……俺は、グレイさんの目にはどう映りますか?」
「身体の動かし方や重心の置き場所はどう見ても素人なんだが、どこから攻撃しても反応されてしまうような隙の無さ……いや、単純な力の差をはっきりと感じる」
そりゃそうだ……。
人間とドラゴンでは、元が違い過ぎる。
だが、グレイさんはおそらくドラゴンになった俺とでも対等に戦えるのではないかと思う。
色々な要因が考えられるが、一番の根拠はこうやって武装をしていない状態で俺と対面していることだ。
俺の知らない隠し玉を持っていると考えていいだろう。
「では、まず気になっているだろう貴公の扱いだが端的に言ってしまうのなら戦略兵器だな……」
「ドラゴンをぶつけなきゃいけない相手がいるってことですか?」
「そうだ。……貴公が地下牢に入ってから4年後、厄介な組織が現れた。……正確には3年後の辺りから活動を確認されているが、その組織が名を一気に広めたのが4年後のとある事件なんだ」
「……」
「この国にはいくつかの監獄がある。その組織は監獄を次々に襲っていき、多くの囚人を捕らえて連れていきながらも一人の男をずっと探していた。……そういう事件だ」
「……たった一人の男を探すために、国の施設を襲撃し続けたんですか⁉」
「そうみたいだな……」
どんだけ頭のおかしい集団なんだよ、その組織。
「その組織は魔獣細胞の適合者で構成されており、ボスの名をクイーン。……一度だけ戦ったが、その時は足止めが精一杯だった」
「魔獣細胞の適合者……」
「10年前に逃げられた子供たちだと、陛下は考えているようだ」
十中八九そうだろうな……。
その中には40番もいるのだろうか?
「クイーンは自らを新たな人類……獣人だと自称し、探している男を獣人を統べる存在……皇帝だと呼んでいた」
「獣人ですか……それに皇帝。何者なんですか? その男は」
「……クイーンは率いる組織をその男の名と合わせて帝国と呼んだ」
「例えばルーシア帝国、みたいな感じですか?」
「そうだ……」
「それじゃ、その男の名前まで分かっているということですよね?」
「……シナー。誤魔化しているわけではないのなら、そろそろ答えに辿り着くのではないか……?」
……え?
その男は俺も知っている人物だってことか?
あの施設に皇帝と呼ばれそうな男などいただろうか……。
「その組織の名を……アーサー帝国」
「は……?」
「クイーンはシナー。……いや、アーサー。お前を皇帝と呼んでいる」
「いや……そんなこと、知らない……」
俺を皇帝なんて呼ぶ奴は知らない。
まさか、今の俺はかなり危うい状態なのか?
その組織と関係していると思われてる?
「まだ分からないか、アーサー。……アルフレッド陛下は不安だそうだ。貴公が人間なのか。それとも獣人なのか……それを見極める為に自分を貴公に付けるほど」
「グレイさんが……俺を見極める……?」
「ルーシアが貴公を人間に繋ぎ止める首輪なのだとしたら……自分は貴公が獣人になった時に殺す剣ということだ……よく覚えておくといい」