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ルーシアとグレイ・ディックソン

「……どうぞ、紅茶です」


「あ、どうも……」



 アルフレッドと別れた後、軽く談笑しながら別室へと移動してきたのはいいが……。

 俺に紅茶を渡して、向かい側へ座った美貌の女騎士。



「あつっ……すみません、少し熱いかもしれないです」


「あぁ、大丈夫ですよ」



 不安そうな彼女を心配させまいと、一気に飲み干す。



「……あ、熱くないですか?」


「いえいえ、ちょうど、いいぐらいです……」



 熱かった。

 想像の三倍は熱かった。


 ちょっと口の中がヒリヒリしてる……。


 そんなことより、目の前の女騎士。

 名前をルーシア・ウェイス。


 ルーシア。


 正直、既にいない妹とは似ても似つかない。

 あのルーシアは可愛い、このルーシアは綺麗。


 なによりこの国でルーシアなんて名前は珍しくもない。

 街に出れば、5人ぐらいは見つかるだろう。


 それでも意識してしまうのは、これからこのルーシアが俺の監視役になるからだろうか?



「あの、シナー殿。実は私、今回のことについてなにも聞いていなくて……陛下のご様子から、シナー殿が本当に仲の良いご友人だということは分かるのですが……」


「あー……。実は俺も、ウェイスさんが監視に付くってことぐらいしか詳しくは聞いてないんですよね。……さっき俺が説明するって言っといてなんですが」


「そうですか……。あ、そういえば、私などにそういう畏まった言葉は使わなくても結構ですよ?」


「いえ、ウェイスさんは貴族の方でしょう? 俺はただの平民ですから」



 ウェイス家がどれほどの貴族なのかは知らないが、平民の俺にとっては雲の上の存在。


 なにより、大公の元近衛だ。

 大公の位は王族にしか与えられないはずだから、アルフレッドの親族ということになる。


 その大公の近衛を務めていたってことは家柄を抜きにしても、相当に優秀な騎士ってことだ。

 相応の権力と実力を有しているだろう。



「貴族といってもたかが子爵の血筋です。それにウェイス家は武闘派でして、貴族の中でも権力は弱小なんです。……シナーさんは平民かもしれませんが陛下のご友人ですから」


「陛下の友っていうのは、貴族よりも上になるんですか……?」


「この国で王族は唯一無二の尊い血筋……そして現在、王族の男性は陛下ただ一人ですから。王妃さまが5人目を懐妊なされておりますので、男児が産まれる可能性もありますが……」



 そういや4人姉妹だったか、アルフレッドの子供は。

 周りから奥さんが責められてるって怒ってたな……。



「ただ、それはあくまでも私の家のような弱小貴族のみです。上級貴族……つまり伯爵家から上の人間の場合は、陛下のご友人といっても下とみなすでしょう。……表には出さないでしょうが」


「そうですか……。じゃあ、こうしましょう。ウェイスさんも俺に畏まった態度はやめてください」


「……いいのですか?」


「畏まってますよ?」


「じゃあ……遠慮なく、態度を崩させてもらう……」


「うん、じゃあ俺も」


「……その、私はこんな風に男のような口調だ。それでも気にしないか?」


「似合ってると思うぞ。ウェイスさん、凛とした雰囲気だし」


「そうか。……あと、ルーシアで構わない」


「そう? そんじゃ、俺もシナーでいいよ」


「い、いや。男性の名前を呼び捨てにするのは、はしたなくないか?」



 はしたないのだろうか……。


 前世では別に普通だったと記憶してるし、この世界だって平民では変わったことではなかったが。

 貴族のそういうところはよく知らないな。



「それって貴族では、はしたないことなのか?」


「……同期の友達は呼び捨てにしてたな……。今時そんなことを気にしてるのかと笑われた記憶がある」


「ならいいんじゃない? ほら、一応ペット扱いだし俺」


「……そのペットのくだりはなんだったんだ?」


「陛下が仰るには、ルーシアがペット欲しいって言ってたからって」


「……? そういえば、ミーティア大公にそんな話をしたが……。実家で飼っているペットに中々会いに帰れないから、寮でもペットが飼えるようにできたらいいのにって話で……」


「待ってくれ。……ルーシアは寮暮らしなのか?」


「基本的に騎士は寮暮らしだ。結婚していたり、任務で国中を廻っている騎士はその限りではないが」



 待て。

 そうなるとルーシアは、俺を寮内に連れ込むことになるのか?


 アルフレッドの野郎どうでもいい話ばっかで、肝心なところをなにも話していやがらねぇ!



「……それがどうかしたのか?」


「……ルーシア、今からでも陛下に細かく聞きに戻ろう。失礼にあたるだろうが、この先どう動いたらいいのかまったく分からない」


「それは私も思ってはいたが……既に私室にお戻りになっている可能性が高い。使用人を捕まえて、時間をとってもらえるか伝えてもらおう」


 国王だからこっちから気軽に会いに行くこともできないのか。

 いつも暇そうに愚痴りに来てたから、つい忘れてしまうが……。



「その必要はない……」



 え?


 男の声がしたが……いったいどこから?



「詳しい説明は、自分が行おう……」



 そんな台詞と同時に、部屋の扉が開いて大柄の男が入ってきた。


 短く刈り上げられた茶髪。

 顔の造形は整っているが鋭い目つきと額、顎にはしる二本の傷跡のせいで危ない人にしか見えない。


 見た目だけで敵に回したくないと思えるほど厳つい。



「話は聞いていた……自分はグレイ・ディックソンだ」


「ぐ、グレイ・ディックソン殿……⁉」


「……えっと、いつから聞いてたんですか?」


「ルーシア・ウェイスが紅茶を入れ始めたところからだ」



 ほとんど最初じゃねぇか!

 というか、そんな前から部屋の外で聞き耳立ててたの⁉

 廊下通る人とかに絶対怪しまれてただろ!



「あの、ルーシア・ウェイスと申します! お会いできて光栄であります、グレイ・ディックソン殿!」



 ルーシアが立ち上がり、敬礼しながら挨拶をした。

 なるほど。このグレイ・ディックソンって男はルーシアよりも格上か。


 俺も急いで立ち上がり、それに習った動きをする。



「シナーです! お初にお目にかかります!」


「ルーシア・ウェイス、貴嬢の優秀さは耳に入っている。……シナー、貴公のことも詳しく聞いている」



 俺のことを詳しく聞いている、か。


 このグレイ・ディックソンは俺がドラゴンの適合者だということなどを知れる程の位置にいて、それだけアルフレッドから信頼を寄せられているということになるわけか。


 見た目の厳つさも含めて、ただものじゃないな……。



「とりあえず二人とも座るといい。……自分の紅茶を入れようと思うが、二人ともおかわりはいるか? ついでに入れるが」


「まさか! グレイ・ディックソン殿にそのようなことはさせられません! 私がお入れするので、どうぞお座りください!」


「構わなくていい。それと、自分を呼ぶときはグレイと呼び捨てにしてくれて結構だ」


「じゃあ、グレイさんとお呼びします」


「別にさんもいらないのだがな……敬語もやめてくれ」


「……では、お言葉に甘えて、私はグレイ殿とお呼びさせていただきます」


「二人とも堅いな。これから話すことになるが、この先長い付き合いになる。今のうちに気を抜いておけ」


「そんな! ジェム騎士総長の右腕と名高いグレイ殿に気安い態度など、とれる筈がありません!」


「ジェムのオッサン、騎士総長なのか⁉」



 アルフレッドに比べて会いに来る回数は少ないが、それでもジェムのオッサンとも10年の付き合いだ。

 来るたびに一人娘の自慢しかしなかったが、騎士のトップに立ってるとは……。


 というか、そんなジェムのオッサンの右腕ってグレイさんも相当な立場の人間じゃねぇか!



「し、し、しなー? 陛下だけではなく、ジェム騎士総長とも仲が良いのか? オッサンなどと呼べる程に……?」


「ふはははははっ! ジェムさんをそう呼べるのは貴公ぐらいなものだ、シナー。相手はこの国の守護神と名高いのだがな!」



 ジェムのオッサン、守護神とか呼ばれてるのかよ……。

 俺が獄中にいる間にどんな活躍してんだよ。



「さて! 紅茶だ、飲め」


「あ、ありがとうございます」


「恐縮です、グレイ殿……」



 グレイさんが入れてくれた紅茶を一口。



「ん……?」


「むぅ……?」



 なんだろう、めちゃくちゃ甘い……。

 甘いというか甘ったるい。


 ルーシアの方も同じなのか、なんともいえない表情をしている。



「では、これからの二人について説明する。質問がある時はその都度言ってくれ」



 俺とルーシアは揃って頷いた。



「まずシナーの身柄は自分を隊長とした部隊で預かることになっている。ルーシアはその部隊に配属、シナーの監視役を務めてくれ」



 俺の為の部隊を用意しているとは聞いてたが、グレイさんが隊長になるのか。大物を用意したな、アルフレッド。

 そんで、ルーシアはグレイさんの直属の部下に入るってことか。



「次に部隊の目的だが国内を廻り、大小問わずその場所で起きている問題を現地の騎士と協力して解決する遊撃隊のような役割になる」


「つまり、国中を駆け回るお助け部隊ってことですか?」


「その通りだシナー。二人が話していた寮のことだが、ルーシアの部屋は明日までだ。今日中に片付けておけ」


「え⁉ は、はぃ……」



 大変だなルーシア……。

 ちょっと涙目になってるし。

 意外と散らかってるのかな、部屋。



「シナーは自分と一緒に、今日はこの城に泊まる。明日からはさっそく部隊として最初の目的地に向かってもらう。それからはルーシアと同部屋で宿を取ってもらう」


「……あの、グレイさんと同部屋になればいいんじゃ?」


「自分は同行しない。……隊長として指示を出しにきたり、様子を見にきたりはするがそれだけだ」



 え……?

 それ、部隊としてどうなの?



「あの、グレイ殿。他の部隊員はどうなっているのでしょうか?」


「他に三名、女性騎士が明日向かってもらう現地にて待機している。そこで合流だ」


「……グレイさん、俺以外の男は?」


「自分がいるだろう」


「でも、同行しないんですよね?」


「あぁ、だから実質はシナー以外は女性になるな」


「ちなみにグレイさんが同行しない理由を聞いても?」


「妻に会える頻度が減るからだ。ただでさえ今、忙しくて一週間に一日は会えていないんだ……これ以上は困る」



 あ、結婚してたんだ。

 一週間に一日会えないのってどうなんだ?


 前世では結婚してた記憶はないし、この世界では施設からの地下牢だしそこらへんはまったく分からないな。



「今話せることはそれぐらいだな。……では、ルーシア・ウェイスは急いで寮に戻り明日に備えろ」


「はっ!」



 さっきまで落ち込んでたけど、元に戻ったみたいだなルーシア。

 ……片付け頑張ってくれ。



「シナーはこのまま自分と来い。……二人で話さなければならないことがある」


「はい!」



 たぶん、ドラゴンのこととかだよな。

 真剣な話し合いになりそうだ、気を引き締めて着いていこう……。


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