飼い主と女騎士
「はい、じゃあそういうことで今日から、このシナーが君のペットになります。……以上、解散!」
「あ……はぁ……? 了解しました……?」
俺の隣で、アルフレッドに跪いて首を傾げている女騎士。
今日からこいつが俺の監視者になる。
肩にかかる程度の長さで揃えられた、鮮やかな金髪。
身長は女にしては少し高めで凛々しい印象を感じる。
前世含めて断トツで一番の美女だ……。
顔の造形はもちろん綺麗だが、なにより桜色の艶々した唇が印象的すぎる。もう二度と忘れられないような美女だ……。
「あの……陛下。……任務であればもちろん謹んでお受けするのですが、できれば、その……もう少し説明を……」
「あー、つまりね。そこのシナーは重要人物なの。四六時中も監視付けなきゃいけないくらいに」
「……つまり、私はこの男を監視すれば良いのですね」
「うん、四六時中ね」
「……四六時中、ですか?」
「四六時中だよ?」
「あの……私は女なのですが。さすがに四六時中となると問題があるのですが……」
「うん、だからペット」
「は、はぁ……?」
駄目だな、こりゃ。
アルフレッドがなにを言ってるのか、この女騎士はまったく理解できてない。当たり前だが。
「ペットなら、四六時中でも一緒でしょ?」
「でも、この男は人間です……」
「人間がドラゴンになる時代だよ、今は。ペットにだってなれるさ!」
「はぁ……?」
さっきから女騎士の反応がずっと変わらない。
途中から、助けてって目でこっちを見だしている。
「はぁ……俺が説明していいか?」
「いいよー」
「だそうだ。とにかく立てよ」
そう促すと女騎士は無言で立ち上がり、こちらを少し睨むように見てくる。
なんで?
助けたじゃん。
「さっきから思っていたのだが、貴様。陛下に対してあまりに無礼だ」
「そーだそーだ!」
アルフレッドの馬鹿が乗っかったが、無視。
……しかしそうか。
俺にとってアルフレッドは10年の付き合いだし、たまに顔見せに来る友達感覚だったがこの女騎士にとっては主君にあたる。
跪づきもせず、言葉も荒い。
目の前で主君に対してそんな態度をしている俺を騎士として許せないのは当然だ。
「失礼しました。言い訳にしかなりませんが、事情によりきちんとした礼儀作法を知らぬままこの場に立っております。それでも、国王陛下に対する態度ではまったくありませんでした。申し訳ありません」
女騎士とアルフレッドに向かって頭を下げる。
本当なら跪いた方が良いんだろうが、俺は正しい跪き方の一つも知らない。誤ったやり方は逆に無礼だろう。
だから、できるだけきちんと頭を下げる。角度を意識して。
「いや、あの、シナー? いいよいいよ、そういうの! 僕たちの仲だろ? まったく気にしてないから!」
珍しくアルフレッドがうろたえている。
思えば、出逢った時からこれまで畏まった対応をしなかったな。
アルフレッドは王だ。
少し考えれば、俺の態度はよろしくないと分かったはずだ。
それに気づかないくらいにあの時は精一杯で、その後は思考を放棄していた。
「……分かってもらえたなら、私からはもうなにも言うことはない。……こちらこそ陛下のご友人に失礼な発言をしてしまい、申し訳ありませんでした」
この場で正しかったのは、この女騎士だ。
それなのに俺に頭を下げた。
なんて器の広い奴だ……。
「よ、よし! 二人とも相性は悪くなさそうだね! じゃあ、後は若い二人でゆっくりとどうぞ! 別室を用意してあるからさ! ……さ、さーて僕は政務でもしちゃおっかなー。あ、あは、あはは」
あのアルフレッドがめちゃくちゃ動揺してる。
よし、次からうざい時はこの手を使おう。
「……陛下自ら別室を用意していただき、お手数をおかけいたしました。ご厚意に甘え、使用させていただきます」
「う、うん……シナーと仲良くね」
「それでは失礼いたします。……シナー殿、参りましょう」
「はい。……それでは陛下、失礼いたします」
「シナー……もうそれいいからやめて。気持ち悪い……」
身体を抱いてブルブルと震えるアルフレッド。
普段から人を振り回してるから、急に真面目になられると不安なんだろう。いい気味だ。
「あ……ところで、貴女のお名前をお聞きしてもいいでしょうか?」
女騎士に話しかけようとして、まだ名前を知らないことを思い出した。
今頃だが、聞いておかないと今後困る。
「あ……これは失礼しました! 今日までミーティア大公の近衛を務めておりました。ルーシア・ウェイスと申します!」




