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魔法とオークの獣人

「大丈夫か、シナー……?」


「うん……ほんとにごめん」



 あれから少しの間、呆然としていた俺はルーシアの呼びかけで我に帰った。既に犯人の二人は逃げてる。



「心配するな、男の方に傷を負わせているんだ。そう遠くへはいけない」



 そう言ってルーシアは気遣ってくれる。



「うん……もう平気。追いかけようか」


「そうだな。すまないが、シナーと獣人の速度に私はついていくことが難しい……情けない限りだが」


「うん……あの人は俺が受け持つから」



 ルーシアは深く聞いてくることはない。

 その優しさにすごく救われる。



「ルーシア、遠くへはいけないって言っても探すのは難しいと思うけど」


「大丈夫だ! 私にいい魔法がある」



 そう言うと、腰につけていた水筒を取り出すルーシア。



「……あむ」



そして中指を咥え、噛んだ。もちろん中指からは血が出る。

ルーシアはその血を水筒へと垂らした。



「……法の下、この血を通いて従え水よ、形水」



 ルーシアがそう詠唱すると、水筒の水が空中へと飛び出しウネウネと動きだした。


 おぉ、ああやって魔法を発動させてるのか。何気に初めてみる。



「捉え捕らえる水糸の巣、「網遊(アユ)」」



 その詠唱で空中の水は細長い糸のようになり、四方八方へと飛んでいった。


 アユか、なんかそういう魔法名とかあるのいいな……。



「アユはどういう魔法なんだ?」


「あぁ、網遊は感知系と妨害系の合わせ魔法だ。この暗闇で、糸のように細い水を認識することは難しい。そしてその水が少しでも触れれば、私に伝わる」



 おぉ……すごい魔法なんだと思う……。俺が知っているのは水の球を放射するぐらいのものなんだけど。



「でもそれって、対象以外にも当たらないか?」


「当たりはするが、そこからが重要だ」


「……?」


「建物に当たっても、建物はそのまま動かないから違うと判断できる。逆に生物に当たれば水へ、生物が動いている反応が伝わってくる」


「じゃあ、対象に当たってから判断するわけか」


「そうなるな……風ならばもう少し感知に優れた魔法があるらしいが」


「風魔法が使える人間は少ないって聞くけど」


「そうだな、私もグレイ隊長ぐらいしか知らない」



 グレイ隊長は風魔法が使えるのか……。やっぱり優秀だなあの人。



「……シナー、反応あり。こっちだ」


「分かった」



 そう言って駆けだしたルーシアの後を追う。


 それにしても平気とは言ったけど、正直もう一度見ればまた動揺するかもしれない。不安はある。


 それでも行くしかない。

 今の俺の居場所はルーシアの隣なんだから……。



「……シナー、待て」


「……どうした?」



 走ること少し。ルーシアが急に立ち止まる。



「別の人間がいる……二人だ」


「あの二人以外にってことか?」


「そうだ……様子もおかしい」


「単純に居合わせた一般人じゃないってこと?」


「水に返ってくる動きが少ない、おそらく会話していると思う」


「仲間かな……?」



 食人の犯人が他にもいたとか……?



「……っ! 動いたっ……」



 ルーシアは右手で水の感覚を探っている。どうやら動きがあったらしい。見ているぶんにはさっぱり分からないが。



「一人の動きが完全になくなった……」


「死んだってこと……!?」


「分からない、行こう!」



 駆けだしたルーシアの後を急いで追う。


 そして、角を曲がり、その場へと飛び出す。



「……なに……?」


「……そんな」



 その場に立っていたのは二人の男。


 お姉さんは血を流しながら倒れており、もう一人の犯人の男はお姉さんに泣きながらしがみついている。



「シナー、あの男たち。ただものではないぞ」


「……分かってる」



 適合者のお姉さんがやられている。その時点であの二人は一般人でないことは確かだ。


 それにしても片方はそこらへんに居そうな男だが、もう一人の男はなんとも奇抜な格好だ。


 背は低いが、横幅がすごい。そして紳士の格好にステッキを持っている。一度見たらしばらくは覚えていそうな見た目だ。



「んー? 腰に剣ですか。まさか騎士と鉢合わせしてしまうとは。わたくしたちも運がない……」


「ペンポットさん、ただの騎士がなんだっていうんですか! おれ達なら簡単に殺せますよ!」


「いけませんよ、バクター。騎士はしつこいのです。一匹殺せば十匹で追ってくるようなヤツらですからねぇー」



 あの紳士がペンポットで、もう一人のそこらへんに居そうな男がバクターか……。



「わたくしたち、そこの女を回収しにきただけなのです。騎士さん、見逃してはくれませんか?」


「……まずお前らは何者だ?」


「おおっとこれは失礼。わたくしたち、アーサー帝国の獣人でペンポット。こっちはバクターと申します」


「ハッ! ペンポットさんが見逃してやるって言ってんだ、さっさと消えな!」



 いや、ペンポットは見逃してくれって言ったが……。



「悪いが見逃すわけにはいかない、アーサー帝国の者なら、尚更な!」



 ルーシアは一瞬で剣を抜き、ペンポットへと向かっていく。

 相手は適合者だ、大丈夫かルーシア……!



「はぁっ!」


「ぐおぉっ!」



 ペンポット、案外あっさりと斬られたな……。



「……なっ!」


「っ! ルーシアっ!」



 斬られたはずのペンポットはすぐにステッキでルーシアに殴りかかってきた。ルーシアはそれを剣で受け止めたが、力負けして吹き飛ばされてしまう。



「痛いですねー。わたくし、痛いのはあまり好きではありません」



 ペンポットは確かに斬られたはずなのに、どうということはなさそうにしている。


 しかしきちんと血は出ているし、傷も……塞がってる?



「……あんた、適合者か? なんの魔獣が細胞元だ?」


「あぁ、気になりますかお兄さん? わたくし、オークと適合した獣人でございます」


「オークに再生能力なんて無かったはずだが……?」


「いいえ、それは間違いですよお兄さん。魔獣には、いえ、全ての生物には再生能力が備わっているのですから……」



 全ての生物に再生能力……?


 たしかに人間は自然治癒というものがある。魔獣もあると考えていいだろうが、ペンポットのそれは自然治癒というより再生だ。



「これ以上先は、クイーンに怒られてしまうので言えませんがね。フォッフォッフォッフォ」



 フォッフォッフォッフォって。いや、どんな笑い方だよ……。



「シナー……あいつは倒せそうか……?」


「ルーシア、ケガは?」



 吹き飛ばされたルーシアが、あっさりと立ち上がる。ダメージはそんなになさそうだ。やっぱり騎士だな……。



「かすり傷ぐらいだ、しかしあいつは私には厳しそうだな……」


「じゃあ、バクターって奴を頼む」


「すまないが任せる」


「おいおい! 騎士風情がこのバクター様に勝てると思ったのかよ!」



 そう言うとバクターの身体が筋肉で盛り上がっていき、皮膚が緑へと変化していく。あれはゴブリンの適合者か……。



「おや、よそ見していてよろしいのですか……?」


「うぉっ!」



 いつの間にか間近に迫っていたペンポットのステッキ攻撃を間一髪で躱す。今のは危なかった……。



「おや……? 今のに反応できるとは、ただものではありませんねぇ?」



 いえ、ただものです。ドラゴンの適合者ってだけで。



「仕方ありませんねぇ……。少しだけ本気で戦うとしましょう」



 そう言うとペンポットの体色が少しづつ変わっていく。そして、その腹が大きく膨れだす。

 筋肉も盛り上がって、顔も少しづつオークに近いものへと変化していく。



「さぁ……獣人の恐ろしさ、見せてあげましょう」



 最終的にはほとんどペンポットの顔に似ているオークへと変わった。



 完全適合者、高ランク……。



 正直、お姉さんの時から疑問だった。


 もし俺が施設に連れていかれた時に、隣のお姉さんも連れていかれたのだったら会っていたはずなんだ。だけど見たこともない。


 そして、この男。


 完全適合者の高ランクは俺を含めて人数が少なかった。数人程度だ。

 だけど、俺はこんな男知らない……。


 つまりはこの男は俺のいた施設とは関係ない場所で、適合者になった。

 きっと、お姉さんも……。



「教えてくれ、あんたらはどうやって適合者になった……?」


「……なぜそれが気になるのですか?」


「別に、気になってもおかしくはないだろ?」


「ふむ……。クイーンですよ、わたくしを選ばれし獣人に変えてくれたのは」



 クイーン……。 

 どうしても頭をよぎるのは40番だが、やっぱりこんなことをするとは思えない。



「お兄さんもどうです? まぁ、選ばれし者でないと死んでしまうのですが! フォッフォッフォッフォ!」


「絶対にごめんだな……」


「そうですか、では死になさい!」



 そう言うとペンポットは身体に力を込めだす、すると膨れ上がっていた腹がしぼんでいき、変わりに脚の筋肉が膨れ上がっていく。



「行きますよ……「豚足」」



 そして、俺へ向かって高速で突進してくる。



「そして、「豚肉玉」」



 ペンポットは身体丸くし、転がりながら突進してきた。

 どうする……避けたら後ろの被害がすごそうだ。


 止めるしかない……!



「ぬぉぉおおおっ!」



 かなり気合を入れてペンポットを受け止めにかかった俺だが……。



「おおおお……お?」



 かなりあっさりと止まってしまった……。



「……なんですと……?」



 自分の技をあっさりと止められたペンポットは呆然としている。そして、これは好機だ……!



「くらえっ! 必殺……殴るっ!」



 ルーシアの網遊とかペンポットの技名にちょっと良いなと思って、俺もなにか言おうと思ったがなにも浮かばなかった……。



「おらっ!」



 気合の声と共に、呆然としているペンポットの腹へ一撃……!



「ぐぉばっ……!」


「うぇっ……!」



 拳での一撃は、そのままペンポットの腹を突き破ってしまった。すごく気持ち悪い……。


 急いで突き刺さる腕を抜く。



「おえっ……最悪だ……」



 右腕は血で真っ赤に染まり、肉片までついている……。

 仕方ないので服になすりつける。



「……そんな……ばか……な」



 ペンポットはそう言うと仰向けに倒れてしまった。


 まさかの一撃ノックダウン……。すごく強者感があったのに……。



「シナー、終わったか?」



 後ろから声がかかる。

 振り返ると、既にルーシアはバクターを沈めていた。



「うん、終わったけど……」


「どうした……? シナー、お前その腕……」


「貫いちゃった……」


「そ、そうか……」


「それで、どうしようか……?」



 倒れているペンポットとバクターに、同じく倒れているお姉さん。そしてお姉さんにしがみついて泣いてる男。



「応援の騎士を呼ぼう、こいつらは連行してもらって……」



「わりぃけど、ペンポットは回収させてもらうぜ」



 唐突に聞こえた男の声。

 しかし周りを見ても、誰かの姿はない。



「シナー! 上だ!」



 ルーシアに言われて見上げると、両腕が翼になっており空中に飛んでいる男女が二人。


 男の方は無精ひげを生やしたオッサン。

 女の方は口元を布で隠したまだ若い女性。



「ペンポットのやつは一応、幹部候補でね。漏れたら困る情報も持ってんだ」


「……デッド、私、回収……」


「んじゃ、頼むわキラー。バクターのやつはいらないからな」


「……了解、バクター、いらない……」



 キラーと呼ばれた女性はペンポットの方へと向かっていく。

 それを遮るように、デッドと呼ばれたオッサンが俺たちの前に立ちはだかる。



「さって、俺がお相手だ。騎士に怪物の兄ちゃん」





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