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獣人と隣の

「こわ……」



 夜中の一本道。

 歩いている人はもちろん一人もいない。


 冷たい夜風に吹かれながら、俺はそんな中を一人で歩いていた。



「……」



 チラっと後ろを見る。

 だいぶ離れたところでルーシアが隠れながら、こちらを伺っている。


 二人一緒だと犯人も襲ってこないだろうからと俺が囮になったわけだが。



「こわいよ……」



 尋常じゃないくらい怖い。


 相手は食人をしている可能性の高い犯人だ。

 どんな容姿をしているのかすら分からない。

 

 負けるとは思えないし、犯行を止めなければという思いもあるが、できれば出会いたくない……。



「あの……」


「はぃい⁉」


「あ、すみません……驚かせてしまって」



 突然、話しかけられて驚いてしまったが、話しかけてきた人を見ると綺麗な赤髪の大人しそうな女だった。



「い、いえ。……こんな時間にどうして女性がお一人で?」



 そうだ。


 いくら大人しそうな女でも、警戒を緩めては駄目だ。こんな時間に一人で外にいるなんておかしい。



「あの、彼が……彼が帰ってこなくて」


「か、彼?」


「あ、すみません。……わたし、お付き合いしている彼がいるんです」


「あー。その彼が帰ってこないと?」


「はい。……もしかしたら、最近この辺りで起きている殺人事件に巻き込まれたんじゃないかって……」


「なるほど……」



 それは心配になるな。

 だからと言って、こんな時間に出歩いていたらこの女性も危ない。



「あの、騎士の詰所には行かれたのでしょうか? 後は騎士に頼んでお帰りになった方がいいかと……」


「いやです! 彼が、彼が心配なんです! お願いします、一緒に探してください!」



 どうしよう。困ったな……。

 ルーシアに聞いてみるしかないか……。


 そう思ってるルーシアの方を見る。



「……あれ?」



 ルーシアがさっきまで居た場所にいない……。

 どこか別の場所に移動したのか?



「わたし、心配なんです……彼が上手く逃げているか……」


「え……?」


「だから早く、あなたの心臓をください」



 その言葉と同時に、女の両手が俺に向かって突き出される。



「うぉっ!」



 少しかすったが、なんとか直撃は避けられた。



「……避けられた?」



 その女の姿を見ると、両腕が毛に覆われて、手の部分がウルフの顔に変わっている。


 俺と同じ適合者だってことは分かったが、いったいなんの魔獣が細胞元だ……?



「なんで? いつもなら簡単に心臓をくれるのに……」



 いや、とにかく今はこの適合者をなんとかしなければ。


 それにルーシアの安否も気になる。さっきのこの適合者の言葉から考えるに、ルーシアはもう一人の犯人に釣られた可能性が高い。


 だが、一つ聞きたいことがある。



「あんた、なんで心臓を必要としてるんだ……?」


「美味しいから……? ううん、彼が美味しいって喜んでくれるから」



 あ、やっぱり食人なのね……。



「……大当たりだぜ、バーバラ」


「だから、あなたの心臓もください……」


「嫌だわ!」


「お願いします! はやく、はやく死んで!」



 そう言ってウルフの顔に変わった両手を振り回し、俺に迫ってくる。


 こ、怖いよ!

 完全に目の焦点が定まってないし!



「彼の! 彼の為に心臓を……あ……」



 両手を振り回していた適合者が、急にピタリと止まった。



「……な、なんだ?」


「呼んでる……。彼が危ない、行かなきゃ!」



 そう言って駆けだす適合者。

 その速度は明らかに人間のものじゃない。



「くそっ! 追いかけるしかねぇ!」



 たぶんルーシアが、もう一人の犯人を捕らえたかなんかしたんだ。


 なにをしたのかは分からないが、そのもう一人の犯人が緊急の合図を送って、それに反応したって感じか。


 にしても速い。

 よく見てみれば、両足を魔獣のそれに変えている。



「俺も変化させれば……いや、まだ追える!」



 すごい速度で駆け抜けていく適合者をなんとか追いかける。


 そして、しばらく追っていると剣を抜いたルーシアの姿が見えた。


 ルーシアもこっちを捉えたみたいだが、適合者もルーシアの方を認識している。


 そして、ルーシアを捉えた適合者は、ウルフの顔に変化させた両腕で襲い掛かる。



「ルーシア! その女、獣人だ!」


「見れば分かる!」



 適合者の攻撃を避けたルーシアは、そのまま俺の近くまで下がってくる。



「……シナー、さっきあの男が変な笛を吹いていた」



 そう言ってルーシアが視線を向けた先には、肩から血を流している、そこら辺にいそうな男の姿があった。

 その右手にはたしかに笛が握られている。



「なるほど……俺は聞こえなかったけど、あの獣人には聞こえたってわけか」



 適合者はその男を庇うように、俺たちと対峙している。


 どうする?


 ルーシアがどこまで戦えるのか分からないが、相手は適合者。

 一筋縄ではいかないよな……。



「ここは逃げよう……」



 笛を持っている男が、適合者にそう告げる。



「わかった……アーサーくん……」


「え……?」



 アーサー。

 俺の名前ではあるが、ルーシアと一緒で別に珍しくもない名前。街を歩けばそこら辺にいるだろう。


 だけど、この独特のイントネーションで呼ぶ「アーサーくん」という声を俺は聞いたことがある。


 もう一度、適合者の容姿をよく見る。


 顔はあまり覚えがない。

 でも、その独特のイントネーションにその声。


 そして、綺麗な赤髪……。



「シナー、逃がすわけにはいかない。悪いがあの獣人の速度は、私では反応するのに精一杯で……シナー?」



 もしかして、もしかしてだけど。


 隣のお姉さん……?



「シナー? おい、シナー! 逃げられるぞ、しっかりしろ! シナー!」

 



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