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三人目とバーバラ・ガーデン

「……どうも」


「あ、どうも……シナーです」


「ルーシア・ウェイスです……リーナ殿、この少女がもう一人の?」


「ええ、そうよ。お人形さんみたいに可愛いでしょ?」



 先に宿についた俺とルーシアは、苦笑しながらゆっくり歩いてきたリーナさんに連れられ、宿の二階の一室へと入った。


 そこにいたのは小柄で儚い容姿をした美少女。

 無表情のその顔は、リーナさんが言ったみたいに人形のようだ。


 髪型は……おかっぱ?

 いや、たしかボブカットってやつだ。


 茶色のその髪は触れたらサラサラしているであろうことが、見るだけで分かるほどに綺麗だ。



「……名前、バーバラ」


「バーバラ殿か……失礼だが、バーバラ殿は成人しているのか?」


「……17歳」


「わ、私の2歳下か……」



 この国の成人年齢は15歳と決められているから、バーバラは成人して二年ということになる。

 正直、13歳とかそこら辺にしか見えない。



「あら……ルーシアちゃんって19歳だったんだ。私とも2歳しか違わないわねぇ」


「リーナさんは21歳ですか……」


「……シナーくん、17歳って選択肢はなかったの……?」


「いえ……あ、ありました。リーナさん大人っぽいから、上のほうかなと」


「ふーん。……そういうシナーくんはいくつなの?」



 あれ……?

 そういえば俺、いま何歳だろう。


 施設に何年いたのかがハッキリ分からない。

 おそらくリーナさんよりは年上になるだろう。



「……たぶん、リーナさんよりは上かと……?」


「え? シナーくん年上なの……?」


「年下だと思っていたぞ……シナー……」


「……ぼくも年下だと思った」



 いや、バーバラより下はない。

 というかぼくっ娘か、バーバラ……。



「ん? ……バーバラ殿は女性だろう。なぜ一人称がぼく、なんだ?」


「……昔から」


「あー、……バーバラって呼び捨てにしていいか?」


「……シナーは年上。いいよ」


「じゃあ、バーバラの親とかは、なんか言わなかったのか?」


「……お母さんは別に。お父さんは怒ってた」



 この世界はそういうところに厳しかったはずだ。

 男は男らしく、女は女らしくが当たり前って世界だ。


 その点でいえば、ルーシアが男口調だったりするのも家が武闘派貴族ってところからきてるんだろう。



「……お父さんはいつもそのことで怒ってた……陛下に」


「……陛下に?」



 なんでそこでアルフレッドのことが出てくるんだ……?



「……ぼくが、ぼくって言い出したのは陛下が原因だって」


「バーバラの家はガーデン家なの。……つまり、ジェム・ガーデン騎士総長の娘さんね」


「おぉ! バーバラ殿はジェム騎士総長の娘さんだったのか!」



 え……?


 いやいや、嘘だ。

 あのジェムのオッサンからこんな美少女が産まれるはずがない。



「……ほんとにジェムのオッサンの娘?」


「……お父さんと友達?」


「あぁ……まぁ、友達というか10年の腐れ縁というか」


「……お父さんがいつもお世話になってます」


「いや、こっちこそ」



 ほんとにあのジェムのオッサンの娘か……。

 そりゃ、こんだけ可愛い娘がいれば、わざわざ俺のとこに来て自慢してたのも分かる。


 ジェムのオッサン本人はゴツイもんなぁ……。



「……陛下の一人称がぼくにうつったんだって、お父さんは言ってた」


「あー、なるほど……」


「その……さっきから分かっていると思うが、私は口調がこんな感じなんだ」


「……ん。男みたいな口調?」


「そうだ……それで周りから色々と言われることが多くてな。バーバラ殿もその一人称だと、苦労したのではないか?」


「……ぼく、あんまり人と付き合いないから」


「バーバラは特別でね。……訓練とか全てを取っ払って、すぐに現場入りしたのよ」


「それってかなり凄いことですよね? やっぱり、ジェムのオッサンの娘だから?」


「まぁ、そこらへんもあったでしょうけど。……一番はバーバラの頭脳ね」



 頭脳か。

 そういえば引きこもり気味だって言ってたな……。バーバラは騎士の中でも、頭脳的なもの専門ってことか。



「それじゃ、挨拶はここまでにして……。さっそく私たちのこれからについて話し合いましょうか。バーバラ、例の事件については?」


「……ん、ばっちり」


「リーナ殿、例の事件とは?」


「私たちの初仕事にして、この西の三区が合流場所に選ばれた理由よ」



 おぉ! 

 遂に部隊としての初仕事だ!

 ちょっとワクワクするな……。



「ここと四区の方で最近、奇妙な通り魔が多発しているの」


「通り魔、ですか? なんか、普通に騎士が対応できそうな事件っぽいですけど……」


「その殺し方が奇妙なのと、必ず別の場所で二人ずつ殺されているのよ」


「つまり……同じ殺し方をしている犯人が、二人いるということですか……? リーナ殿」


「そうよ。それもおそらく、ほとんど同時刻にね」


「それで、その奇妙な殺し方っていうのは?」


「……死体の心臓欠損。あくまで、それを行ったのが殺した本人だとしたらだけど」


「殺された死体から、心臓だけを抜き取った別の人間がいる可能性ってやつね? でも、バーバラは犯人の仕業だと思ってるんでしょう」


「……ん」


「心臓……欠損……?」



 殺されている死体から、心臓が抜き取られてるってことか?

 なんでそんなことをする必要があるんだ……。



「……発見された死体は必ず二種類。刺し傷が見られる死体と、心臓をえぐり取ったような傷しかない死体」


「バーバラ殿。心臓をえぐり取るような傷、とは?」


「……そのまま、胸ごと心臓がえぐり取られている」


「そのような傷、どうやって……?」


「……なるほど……魔獣、だな?」


「……おそらく」



 犯人の一人は俺と同じ、魔獣の細胞の適合者ってわけか……。

 クソ。なんでそんなことしてんだよ。



「それにしても、なんで心臓が必要なのかしら? わざわざそういうことをしているってことは……なにかに使うということよね?」


「……変な宗教の儀式にでも使う可能性、もしくは食人」


「食人……?」



 カニバリズムってやつか……?

 あんまり詳しくは知らないが、そういったことをする頭のおかしな奴が存在しているってのは聞いたことある。



「もしそうだとしてもバーバラ殿。……なぜ心臓だけを?」


「……誰だって、好物だけを食べたいと思うもの」


「いや、もう一つの宗教の可能性は?」


「……ここらへんで変な宗教についての情報は、あまり聞かない」


「そうね、宗教的組織は北の方を主な活動場所にしているから」


「宗教組織は貴族を相手にしてるってわけか……」


「……そういうこと。だからぼくは、食人の線で考えていいと思ってる」



 にしても、なんでその適合者は食人を?

 実験の副作用にそういったものはなかったはず……。


 元からそういう人間だったか、施設から逃げた後にそうなったか。

 どっちにしろ同じ存在の俺には、とんだ迷惑だ。余計にドラゴンの適合者だと話すことができなくなる……。



「それで……? バーバラのことだから、もう良いところまで絞り込めているんじゃないの?」


「……おそらく二人の犯人は知り合い、それも限りなく近しい関係。たぶん男女の仲」


「男女の仲……? バーバラ殿、どうしてそこまで分かる?」


「……ぼくが犯人なら、時間をずらす。だけどこの犯人たちは、ほとんど同時刻に犯行に及んでいる」


「え? 時間をずらすのは分かるけど。同時刻に及んでいることが、どうして男女の仲にまで?」


「……心臓の回収後、合流してから一緒に食べていると思うから」



 なるほど。

 わざわざ一緒に食べていると考えられるのか……。



「ん……? バーバラ殿、私には一緒に食べることが男女の仲に、どうしても繋がらないのだが……」


「……いわゆる、スリルとロマン」


「す、スリル? ロマン……?」


「……禁忌を犯している、二人で同じ時間に。しかも顔を合わせて」


「そうねぇ……。恋愛関係にある男女がやりそうなことね」


「その……リーナ殿、恋愛関係にあるとスリルとロマンを求めるのか?」


「あら、ルーシアちゃんはそういった経験はないの?」



 おぉ、まったく話の本筋には関係ないが気になる……。

 どうなんだ、ルーシア……?



「わ、私は武闘派貴族の出身なので! 恋愛にかまけている時間は……そう、時間が無かったんです!」


「あら~……」


「……ルーシアは乙女」


「そういうバーバラも、あんまり興味なさそうだけどな?」


「……ぼくは小説で補完してる」



 なるほど。

 バーバラもそういったことはあまり知らない、と。



「……シナーくん。私には聞かないのかしら……?」


「え、だってリーナさん……経験豊富そうだし……」


「あら、意外とそうでもないのよ?」


「へぇ~……」


「……なんだか信じてなさそうね」


「そ、それよりも! どうしてスリルとロマンが関係するんだ! そこを教えてくれ!」



 ルーシア、無理やり話を切ったな。



「……二人で禁忌を犯す、つまり気分が高揚する。これが同性同士だったら、別々でも構わないはず」


「二人でやることで、禁忌に対する抵抗を抑えているとかはないのかしら?」


「……この事件の被害者は、発見しているだけでも二十人近い。単純計算で十回は犯行に及んでいるということ」


「なるほど、抵抗感は既に薄いはずってことか」


「……ん。だから、わざわざ二人で顔を合わせて禁忌を行う。つまり、そういう状況に一緒に浸りたい相手、すなわち男女の仲」


「……二人でそういう状況に浸って、なんの意味があるんだ……? 私にはさっぱりだ」



 なんだろう……。

 あんまり分かりたくもないけど、男女が揃って気分を高めるってのは、それすなわち……。



「……ぼくが思うに、おそらくその後、性交――」


「だぁん‼ 分かった、それ以上は言わなくていい!」


「……シナー、私は教えてほしいんだが……?」


「ルーシアちゃんは分かってないけど……シナーくんは分かったみたいねぇ?」


「分かりました、分かりましたんでもういいです! その線でいきましょう!


「……シナー……?」



 疎外感を感じているのか、ちょっと悲しそうなルーシアだが。

 駄目だ。ルーシアにはまだ早い、その先はお父さん許せない。



「……話を進めると、おそらく二人の合流場所はどちらかの家だと思う。そして、死体のもう一種類には刺し傷が見られることから……犯人は獣人と人間の二人」


「一度、刺し殺す必要があるから、人間ってわけね」


「……ん。犯行は西の三区と四区で起きていることから、この西の三区の外側に、家があると思われる」


「……俺はあんまり四区について知らないんだが、四区に住んでるって可能性はないのか?」


「シナー、四区には家はないんだ」


「え、そうなの?」


「あぁ……冒険者専用の大きな宿はあるが……」


「……人目が多く、夜中に出れば怪しまれる宿で合流するとは思えない。あくまでぼくの考えだけどね」


「とはいっても、俺とルーシアはその事件について今聞いたばっかだし、バーバラの言う線で考えて動くしかないな……」


「そうなるのよねぇ。……それじゃ、今夜はよろしくね?」



 え……?

 なにが今夜はよろしく?



「ほら、私とバーバラは荒事向きじゃないから……後は二人で、ね?」


「……がんばれ」


「そうでしたね……」


「そうなると、シナー。今のうちに睡眠を取っておく必要があるな」


「……ぼくが起こしてあげるから」


「そうだな。バーバラ、よろしく」


「……まかせて」


「それじゃ、私は情報収集にでも行こうかしら……シナーくんの寝顔を見るまで待っておくのもいいわね」


「いや、行ってください! さぁ、早く!」



 なんだかリーナさんに隙をさらすのは怖い気がする……。



「仕方ないわねぇ……。バーバラ、どんな寝顔だったか教えてね?」


「……ん。模写しておく」


「するな!」


「……私はシナーの寝顔をもう見ているからな」



 いや、ルーシア。

 別に誇らしげに言うことじゃないぞ……。


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