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二人目とリーナ・ケーテル

「シナー! 私は聞いてないぞ!」


「……う、うん?」



 あの後、駆けつけてきた騎士によって、オッサンたちは大人しく連行されていった。

 大人しくというか早く連行してほしそうだった。


 まぁ、ナイフを素手で砕く奴からは早く逃げたいよな……。


 そして今、ルーシアに詰め寄られている。


 もうめちゃくちゃに近い。

 このまま抱きしめられるんじゃないか、というほど近い。



「ジェム騎士総長やグレイ隊長は、鉄をも拳で砕くという。……まさかシナーもそういった領域の達人だったとは……」



 いや、俺はドラゴンの力があるからだから。

 逆になんでジェムのオッサンとグレイさんは、普通の人間なのにそんなことができるんだよ……。



「なるほど……。あの二人と同じ領域の達人で、騎士ではない。だから私という監視役が必要だったのか……」


「あー、たぶん?」


「……なぜ騎士にならなかったんだ? それほどの実力なら騎士に推薦されただろう?」


「まぁ、色々とね……」


「ふむ……」


「それより、早く目的の宿に行こうぜ! ただでさえ余計に時間が過ぎてるし!」



 そう言ってルーシアを促し、歩き出す。

 


「……そうだな。とはいっても、ここから歩いて数分の距離だ」


「けっこう近くなんだな。……それにしても宿で待機してる他の三人は、女なんだよなぁ~」


「憂鬱そうだな。……男なら嬉しいんじゃないのか?」


「半々かなぁ……?」


「半々なのか……」


「俺、人がたくさんいたら黙っちゃう癖があってさ。それが自分以外は女ってなったら、余計に会話に入っていけない気がする……」


「シナーは意外と奥手なんだな」


「そうなんだよ……。それにルーシアは俺の監視役としてだけど、他の三人はグレイさんの部隊に選ばれるほどの実力者ってことだろ?」


「……まるで私にはその実力がない、と言ってるように聞こえるのだが?」



 隣を歩くルーシアが半目で見てくる。

 これは俺の言い方が悪かったな……。



「いやいや、そういうことじゃなくて! ルーシアは綺麗だけど、他の三人はもしかしたら、グレイさんみたいに厳つい女かもって言いたかったんだ!」


「……そ、そうか」


「う、うん……」


「うーん、そんなこと言われたことないかな?」


「え……」


「なに……っ!」



 突然、真後ろから女の声が聞こえて振り返る。



「な、何者だ⁉」



 ルーシアはこの一瞬の間に、距離をとって剣に手をかけている。


 その判断力と動きはさすがだがそんなルーシアでも、真後ろにいることに気づけないほどの実力者ってことか、この女は。


 もちろん俺はまったく気づいてなかった上に、今もこうやって立ち尽くしている。


 あらためて目の前の女を見ると、腰あたりまである明るめの茶髪に、とても優しそうな雰囲気を纏った美女だった。


 後、胸が大きい。

 衣服の上からでも分かるほどに大きい……。



「シナーくんに、ルーシアちゃんよね? 初めまして、二人と同じ部隊に配属されたリーナ・ケーテルっていいます。……今日からよろしくね?」


「は、はぁ……。シナーです、よろしくお願いします」


「ルーシア・ウェイスです。……あの、いつから真後ろに?」


「んーとね、シナーくんが奥手ってあたり」


「……ま、まったく気づきませんでした……。リーナ・ケーテル殿はそういった技術をお持ちなのですか?」


「リーナでいいわよ? 私は潜入とか尾行とかそっち専門の騎士なの」



 そういった分野専門の騎士までいるのか……。



「なんか騒ぎがあるなーって見に行ったら、二人がその中心にいたからびっくりしちゃった」


「リーナさん、あの場を見てたんですか……」


「ごめんねぇ、シナーくん。私、荒事は苦手なの」



 胸の下で、腕を組んでため息をつくリーナさん。

 大きな胸が強調されている。けしからん。でもすごくいい。



「それで、リーナ殿。他の方はこの近くに? それとも宿で待っているのでしょうか?」


「それがね~。一人、四区の方に行っちゃったのよぉ」


「……あの、そのことグレイ隊長は?」


「知らないわ。勝手に行ってしまったから。……報告は頼んでいるけど、まだ伝わってないはず」


「……それ、大丈夫なんですか?」


「独断専行だからねぇ。良くはないんだけど、仕方ないかなぁ……」


「仕方ない、で済むのですか?」


「色々と事情があるのよ。そのことはグレイ隊長も知っているし」


「そうなのですか……」



 ルーシアはその答えに納得がいっていないようだ。

 基本的に真面目なルーシアだから、独断専行とかはあんまり好きじゃないんだろうな。



「そこらへんも含めてゆっくりとお話しましょうか……宿はもうすぐそこだし」



 そういってリーナさんが指差したのは、少し先に見える他の建物よりも少し大きな宿。



「そうですね。……あのリーナさん、もう一人は宿にいるんですよね?」


「ええ、そうよ。外に出るのがあんまり好きな子じゃないから、基本的には宿にこもりっきりね」



 え……?

 一人は独断専行、もう一人は引きこもり気味。


 グレイさんもなんだかんだ変わった人だし、リーナさんも初対面で驚かせてくるお茶目さんだし。

 この部隊、俺とルーシアぐらいしかまともな人間がいないのでは……?



「リーナ殿……。その方は騎士なのに引きこもりなのですか……?」


「私と一緒で専門特化した騎士なの」


「引きこもってできる専門の分野……?」


「そういうことで、戦闘ができるのはこの部隊で今は二人だけだから、よろしくね!」


「二人って、俺も入ってます……?」


「もちろん! でも不思議よねぇ……。シナーくんの動きはどう見ても素人なのに、あっさりとナイフを砕いちゃうんだもの……」


「それについて……私はもう思い当っています。シナーは、わざと素人のような動きをしているんだと!」



 すいません、完全に素人です。



「あー、そういうことだったのねぇ。……私はてっきり、アーサー帝国の獣人と同じ存在かと思っちゃった……」


「……ど、どうでしょうねー。あ、あは、あはは」


「陛下はそのようなこと仰っていませんでしたし、グレイ隊長からも聞いていないので除外していましたが……どうなんだ、シナー?」


「そ、そんなわけないだろ……? ほら、宿はもう目の前だ。はやく行こうぜ!」


「あ、こらシナー! 勝手に先へ行くな!」



 振り返らないようにして、小走りで宿へ逃げる。

 ルーシアはいい。なんとか誤魔化せそうだから。


 しかし、リーナさんは危険だ……。

 俺を見る目が完全に警戒していた。


 というか、リーナさんも俺がドラゴンの適合者だって知らないってことは、他の隊員も知らないと考えていいかもしれない。


 どういう意図で教えてないのかが気になるが、自分で言ってどういう反応が返ってくるのか想像もつかない。


 会ってまだ二日目だっていうのに特にルーシアには知られたくない、なんて思っている自分がいる……。


 どうしてこんなにルーシアに心を開けているのかも、よく分かってない。強いて言うなら膝枕?


 違う。

 なにをされたから、とかそういうことじゃなくて単純にルーシア自身に惹かれている……?


 もしかしたらその理由が、ルーシアが俺の監視役に選ばれた理由なのかもしれない。


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