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企画参加作品

トゲ無くて死す

作者: 黒イ卵

伊賀海栗様のインド人とウニ企画参加作品です。


挿絵(By みてみん)


☆秋の桜子様より、FAをいただきました!

ありがとうございます(7/5)☆


 ウニ人の生活は静かなものだった。


 ある日、隣に越してきたインド人の喧騒は、日ごと大きくなる。


 最初はタブラだった。

 小太鼓を二つ並べ、器用に鳴らす彼を見て、退屈で静かな日常に幾ばくかの刺激をもたらし、まあ、良いだろうとしたのが始まりだった。


 続いて、カラリパヤット。

 タブラは北インドの楽器で、カラリパヤットは南インドの武術ではないか。

 そんな事も考えていた気がしたが、日常に埋もれていった。


 とうとうマハラジャの踊りなどと、映画になったらしい動きを、彼()が何十人かで動き回る様は、極彩色の布を身に着け、化粧した人が舞うと言うよりは、絡み合って何か抽象的なーー男と女の恋であったり、インド神話であったりと、それは目まぐるしく変わる絵ーーを見ているようだった。


 喧騒の起こらない日は無い。

 そんな日々が続いたが、ウニ人はこの生活に安堵していた。


 インド人は、ウニ人のトゲの殻で覆われた黄金の(たん)を、狙わない。


 毎日のように漂う香辛料の香りがきつくとも、求めていた静寂からは遠ざかっても、隣人の彼がーー最近は彼等、になったーーがウニ人自身のトゲで覆っている、弱く柔らかな大事なものを、暴こうとしない。


 それこそが静寂よりも尊い、真の安寧なのだ。


 不用意に近づいて来るものには容赦はしないが、彼等は陽気に歌い、踊り、

たまに、カリーを食べないか? と聞いてくる程度である。

 ウニ人は満足していた。


 だがそのような日々は、世間での流行りの食べ物が、ウニのスープカレーとなってから一変した。

 スープカレーに興味の無いインド人は、ウニ人への態度も、これまで通りだった。


 変わったのはウニ人の環境である。


 唐突に刃物を持った者が訪れたり、網を使って捕らえようとしたりと、ウニ人を追いかける。


 インド人らは積極的に追い払ってくれたのだが、それも近々限界が来るであろう、と、思われた矢先。


 インド人らを囮に隣人を捕らえ、隣人を囮に、ウニ人を捕らえに来たのだ。


 捕らわれた彼等のいる崖にて、すでにウニ人の丹はぐつぐつと(うごめ)き、その黄金は輝きを増している。


 すぐさま彼らを釈放しろと迫ると、犯人は口端をくっと上げ、ウニ人を捕縛し、インド人らを崖から落とした。


 その後のウニ人の怒りはとてつもなく、そのトゲは辺り一面を黒い針山に変えたと言う。


 残った丸くてツルツルとした、タマゴウニ人めいたウニ人だったものは、ウニ人生で初めて泣いた。


 と、崖から何か音がする。


 タブラの音、手拍子、何十人かで舞う姿。人々は黒い剣をーーよく見るとウニ人のトゲであるーーを手にし、剣舞を踊る。


 踊りながら浮き上がり、ついには崖の上に登った。


 涙は乾き塩となり、トゲ無くて死す前の幻か、それとも奇跡かと考えながら、インド人の隣人のことを思って眠りについた。





(了)









挿絵(By みてみん)

☆雨音AKIRA様より、FAを頂きました!

ありがとうございます☆ (6/29)






他の方の作品を読み、参加したくなりました。



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― 新着の感想 ―
[良い点] お上手です (`・ω・´)ゞ ☆彡 伝わってくる空間が素敵ですね~♪ [一言] >ウニ人のトゲの殻で覆われた黄金の丹を、狙わない。 そこはねらっちゃだめです (xωx`)
[一言] インド人とウニ人と隣人と犯人。 それらが何を表しているのかなあと考えながら、拝読いたしました。(無粋な読み方で申し訳ありませんが、お付き合いいただければ幸いです) 私はこの世界をひとつの学…
[良い点] インド系の群舞が出てくる映画をハリウッドとかけて「ボリウッド」と呼んでますけど、確かにみんな浮き上がって来そうな迫力があります。ウニさんの棘持った剣舞だったら絶対大丈夫。みんな助かるね。 …
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