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旧校舎の悲劇  作者: コロコロ
2/4

旧校舎で過激

※絶対に真似してはいけません。作中の登場人物たちは特殊な訓練を積んでおります。

 


 その日、俺は友人たちと一緒に肝試しをするために、都内から車で2時間走ったところにある古い建物へとやってきていた。


 きっかけは、本当にありきたりな物だった。俺達は大学の同期で、ネットのアングラサイトの掲示板に書かれた噂に踊らされた結果、友人の一人が肝試しを企画し、それに乗っかった形だ。もうすぐ夏期講習が始まる。それまでに思い出の一つも作っておこうと、俺は単純にそう思った。まぁ、最近は温暖化の影響か、暑い日が続いているからな。涼しくなりたいというのも理由の一つだった。


 そんなわけで、俺は自分の車を使い、友人たちを乗せて都会を抜け、延々と人気のない山道を走り続けて……ここに辿り着いたのだった。


「うおぉ、すっげぇ雰囲気あるなぁ……」


 車から降りた俺が開口一番にそう言った。目の前に聳え立つ、木々に囲まれた三階建ての古い木造建築。入り口は錆と汚れが目立つフェンスに阻まれていて、誰から見ても立ち入り禁止だということがはっきりとわかった。同時に、足元の草やボロボロのフェンスから見て、長らく誰も訪れたことがないことがはっきりとわかる。


「うわぁ……見た目だけで震えてきちゃうなぁ」


 助手席からは、俺達三人の友人の紅一点、同時にこの肝試しの企画者である佐山香織さやまかおりが降りて俺の隣に並ぶ。震えてくるとか言っておきながら、顔からは好奇心が溢れているのが見て取れた。この企画を立案するくらいだし、オカルト系の話が大好きだと公言している時点で、もしかしたら三人の中で一番肝が据わっているんじゃないかと思う。


「…………」


 そして三人目の友人、木下卓きのしたたくが後部座席から降りてくる。物静かな見た目とは裏腹に、その性格は過激そのもの。何せこいつは、巷で有名な過激組織『激辛狩威げきからかりい』を率いている男だ。趣味は読書(愛読書『過激なる一族 ~過激な俺の過激なる過激なストライキ~』らしい。内容は過激の一言に尽きた)で、スポーツは火炎球ドッヂボール(油のしみ込んだ布を球状にして投げ合うスポーツ。裏社会では人気が高く、裏オリンピックではポピュラーな種目競技らしい。裏オリンピックって何だよ)が得意。過去に何回も補導されて警察から危険人物扱いでマークされているのは周知の事実だ。ぶっちゃけ俺と香織は何回も巻き込まれていたりする。


 そんな奴だけど、それよりもこいつはある物を持っているという。


 霊感体質。曰く付きのある場所に行くと、すごい鳥肌が立つと言う……らしい。まぁ、俺はそんなの見たこと無いし、そもそも俺自体、幽霊を信じている訳でもない。そんなわけだから、俺は卓のことを影で『自称霊感体質』と呼んでいたりする。本人の前で言うと燃やされかねないから絶対言わない。


 けど、そう言っていながら俺自身、こいつのことは嫌いじゃない。過激組織と言っても、反政府的組織というわけじゃなく、やっていることはどちらかというと善行と言ってもいい。


 火事で逃げ遅れた人たちがいれば、過激のプロフェッショナルな彼らが消防隊よりも早く鎮火させたり、性質の悪いチンピラが女性に絡んでいたら集団で取り囲んで正座させて過激に説教したり、大学の田中教授に走り寄って行ったかと思うと「教授危ない!!」と叫んで教授のカツラを過激なまでに床に叩きつけてライターオイルで焼き尽くしたりと、世間に貢献しているのがほとんどだ。


 余談だけど、教授のカツラが燃えた時に『うぎゃあああああああ!!』という叫び声が聞こえた気がしたが多分気のせいだ。後その日から教授の頭の無法地帯に命が芽生え始めたのも大学では有名な話。本人は狂喜乱舞していた。


 それから、俺達に何だかんだで付き合ってくれているし、俺と香織の仲裁役(過激)にもなってくれる。今回の肝試しだって、俺と香織が危ない目に合って欲しくないと言ってついてきてくれた。お前の方が怖いという言葉は飲み込んだ。


 卓から見ればどうかわからないけど、俺にとってはいい友人だと思っているよ。


「……見た目からして間違い様はないだろうけど、ここで合ってるんだよな?」


「うん、間違いなし。ちゃんとひろしの車のナビにも目的地登録しておいたし」


 寛、というのは俺の名だ。高山寛たかやまひろし。三人でいつも俺が前に出て行動することが多い。


 まぁ、そんなことはどうでもいいか。何にせよ、ここが肝試しの舞台で間違いない。


「で? 何か感じるか、霊感体質さん?」


 言って、俺は少し笑いながら卓へと振り返った。


 そんな卓はというと……。




「みんな! ライターと灯油は持ったな!? いくぞーーーーー!!」


「「「うおおおおおおおおおおおお!!!」」」




 いつの間にか現れた黒づくめの男たちを率いていた。




「……は?」


「は?」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「皆燃やしじゃあああああああ!!」


「討ち入りじゃあああああああ!!」


「汚物は消毒よおおおおおおおおお!!」


「ヒャッハーーーーーーーー!!」


 突然の事に唖然とする俺と香織を放置して、卓と男たち(一部モヒカン)が旧校舎目掛けて全力疾走。手には全員、赤いポリタンクと100円ライターが握られている。あ、火炎放射器持ってる人もいた。


 っていうか、アンタらどっから出てきたんだよ。っていうかそのポリタンクとかどうやって持ってきたんだよ。ってか俺らの周りに大型トラック三台停まってんじゃねぇかよいつの間に停めたんだよオイ。


 俺はそう言いたかったが言えなかった。だって事態が急展開というか急発進して音速の勢いで爆走してんだもん。


 そうして俺達が事の成り行きを見守っていること数分後、旧校舎からテンションMAXな雄叫びが響き渡っていたかと思うと、徐々に火の手が上がり始めた。え、マジで放火しやがったんかあいつら?


「ミッションコンプリート!! 地元の連中にバレる前に総員撤退!!」


「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 徐々にでかくなる火を後ろに、卓と男達が全力疾走で戻って来た。男達はトラックに乗り込んで急発進、卓も後部座席に乗り込んだ。


「おらぁ! 早く車出さんかい!!」


「「は、はいぃ!!」」


 ヤクザ顔負けの怒声に俺と香織は即座に返事。車に乗り込んでエンジンキーを回してアクセルを踏み込んだ。


 車のタイヤが回り出し、全速力で前へ走り出す。俺は、ライトに照らされた前方の山道から、ふとルームミラーへ目を向けた。


 俺達が肝試しをする予定だった旧校舎は、勢いよく燃えていた。後なんか聞こえないはずなのに悲鳴が聞こえた……気がした。








 後日、卓は放火の罪で普通に捕まった。当たり前だと思う。





 完

放火、ダメ! 絶対!! いやマジで!!!

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