表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

花の髪飾り


「すごく綺麗だ」


リューンの心は今にも溢れ出しそうなほどに、高揚している。


「やっと、この日を……」


その先は言葉にならなかった。


ムイが純白のドレスの裾を少し持ち上げて、軽く会釈をした。


結婚式の当日の朝、支度が終わったムイの部屋へとリューンは入った。張り切ってムイを飾りつけしていたストーン夫人も退席し、今は二人きりだ。


(ようやく、この日を迎えることができた……)


国王の元へと連れ去られたことを知り、もう二度とムイには会えないのかと悟った時、リューンは今までにない最悪の絶望感を味わった。


(俺の妻となれば、国王だろうがどこぞの領主だろうが、そうそうは奪い去ることはできないだろう)


リューンは、ほっと胸を撫で下ろす。


あとはムイの心変わりを心配するだけだ。けれど、それももう杞憂のことなのだということは、先日の花騒動でもはっきりと証明されている。


(ムイは、俺を愛してくれている)


そう思うだけで、胸がいっぱいになる。


何という幸福感だろう。


リューンは、少し前のことに思いを馳せた。


今回の結婚式で使うティアラを用意しようと、リューンがムイにどのようなデザインが良いかを訊いたことがあった。


しかし、驚いたことにムイはティアラは不要だと言うのだ。


微かな不安で、リューンの心がゆらと揺れた。


「なぜだ。結婚式だぞ。ティアラは必要だと思うが、」


リューンの問いにムイは慇懃に答えた。


「リューン様、お願いがございます」


「なんだ?」


「リューン様に、いただいた髪飾りを使わせていただきたいのです」


「母上の、か」


ムイの言葉に、胸がぶわと熱くなり、リューンは言葉に詰まるほどだった。その髪飾りが、今。


後ろへと一つにまとめ上げられた髪にひっそりと差されている。


胸が。


どくんと鳴って、愛しさがせり上がってくる。


「……ムイ、お前を妻にできて、幸せだ」


「リューン様、」


そっと、ムイの頬に手をあてがうと、その手に頬を擦り寄せたムイの瞳は潤んでいた。


「お前、を……愛し、ているんだ」


喉が詰まって、声がかすむ。


ムイを好きだと自覚したのは、いつ頃のことだろうか。この髪飾りを贈った頃だろうか。


(きっとあの頃はもう、俺の中へとお前の存在が入り込んできていたのだろうな)


リューンの頭の中を、ムイとの思い出が駆け巡る。思いを馳せていると、ムイの腕が動いて、リューンは意識を戻した。


改めてムイを見る。


ムイはそっと流れている涙を、その細い指で拭っていた。


「リューン様。私のような、名前どころか何も持たない者を妻にと召し上げていただき、」


顔を上げて、リューンを見上げる。その拍子に、長い睫毛に含んでいた涙が、ぽとりと落ちていった。


「ありがとうございます」


リューンが慈愛に満ちた目を向ける。


「お前の名前はムイだ。それにそれは俺が贈った名だ」


「はい、」


「俺はムイ=リンデンバウムの名を一生愛すると誓う」


ムイが泣きながら笑い、はい、と言うと、リューンが腕を伸ばしてムイを抱き締めた。


「一生、離しはしない」


熱い抱擁は、ローウェンが痺れを切らして何度もドアをノックするまで、続いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ