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準備の中で


「町中に人が押し寄せていて、どうやら宿なんかもたくさんの人で、すでに満員だそうです」


「ローウェン、一体どんな手を使ったんだ?」


リューンが呆れたように言った。


「特に何も。これはまあ、ほぼムイの力ですよ」


「そんなに、ムイは有名なのか?」


「国中に名前はとどろいていると言ってもいいでしょう」


「俺の耳には届かなかったぞ」


リューンは不満そうな顔を浮かべた。足で、廊下をコツコツと打つ。


「それはもちろんですが、耳に入らないように努力していましたから」


「……なるほどな」


「あの頃のリューン様はもう、見てられませんでした」


「うるさい」


「ムイから貰った手紙をいつも、」


「うるさいぞ」


二人のやり取りを横で聞いていたアランが、苦く笑いながら慌てて話題を変えた。


「ミリアなんかはもう、商売っ気を出していて、商品をたくさん揃えていますよ」


「またムイに押し花を頼んでいるのでは?」


リューンも呆れ顔を浮かべた。ローウェンがさらりと答える。


「いいえ、さすがにそれは。何と言ってもリンデンバウムの領主の結婚式ですから。とにかく、準備が大変なんです。押し花なんてやってられませんよ。とんでもないことです」


無表情が、彼の冷静さを如実に表している。このリンデンバウムの城の使用人の中でも、ローウェンの鉄面皮を苦手としている者も多い。


「ムイのドレスに関してはストーン夫人にお任せしてあります。夫人が張り切っていらっしゃいますね」


「ああ、とても綺麗だった」


リューンはムイのドレス姿を思い出した。


純白にムイの月の光のように柔らかい肌が包まれていて、それはそれは言葉も失う美しさだ。


(ムイは自分のことをみすぼらしいなどと思い込んでいる節がある。過小評価も良いところだ)


黒髪も気に入っていないのか、いつもリューン様の髪は太陽でございます、羨ましいお美しさです、と言う。


(俺にとっては、ムイの黒髪は女神のような美しさなのに)


控えめに笑う顔、ふっくらとした唇。その口から、発せられるこの世のものとは思えない、美しい声。


確かに身体は細いが、ムイの小柄な身体にはちょうどいい厚みのようにも思う。


(ローウェンなんかは、もう少しふっくらとした女が好みだと言っていたな)


ローウェンを見ていると、訝しげに見返してくる。


(それも人それぞれ、好みというやつだ)


「なんですか、リューン様」


「いや、何でもない」


次には、アランを見る。この庭師とはムイを取り合った経緯がある。


(……あの木こりの男もまだ諦めていないかも知れない。気を引き締めなければ、)


ちらちらとローウェンとアランの二人を見やりながら、そのまま黙り込んだリューンを、二人は怪訝な目で見ながらも話し込んでいる。


(ムイの気持ちを永遠に俺に向けさせておくことはできないだろうか……そうするには、どうすればいいのだろう)


「リューン様、ご安心ください。そうそうムイが心変わりをするとは思えません」


「なっ、何を言っているっ。お、俺は別にっ」


「そうですか、それではリューン様も、とっとと衣装合わせに行ってください。ストーン夫人が首を長くしてお待ちですよ」


「わ、わかったよ」


廊下をがっと勢いよく歩き出す。


背後で、「すごいですね、さすがです」というアランのローウェンへの賞賛の声を背後で聞いて、リューンの機嫌は最高潮に悪くなった。

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