Changing
7月1日。侑李はいつものように時間に余裕を持って学校へ行く。遅刻ギリギリ、なんてことは生まれて一度もないのだから優秀だ。
「あ、飯沼くんおはよう」
声をかけてきたのは隣のクラスの椎名美琴だ。顔のレベルは割と高めで、性格も悪くはなく友達も多い。
「おはよう、行くの早いね」
「まぁね!今日は寄って行くとこがあるから」
「そうなんだ、じゃあついていこうかな」
普通の健全な男子高校生だったらここで恥じらいを持つはずなのに、侑李は一切そんなことがない。
「いいよ〜」
美琴は思惑通りに物事が進んだと、達成感に満ち溢れていた。
「…寄って行くところってコンビニだったんだね」
「うん、すみません」
登校時間にしか行けないお店かと思えば、ただのコンビニ。よく考えたらこの時間に開いてる店なんてあんまりないかと、侑李は悟った。
「ごめんね、待ったよね」
美琴が焼きそばパンと500mlの麦茶を買って戻ってきた。
「今日さ、水筒忘れちゃったんだよね」
不自然な量の麦茶はそういう理由からだったのだ。
「遅刻しちゃうよ、急がないと」
「そうだね、でももし遅刻したら私のせいにしていいから」
言い忘れていたように、美琴は付け加えた。
「あっあとさ、今日の放課後私の教室来てくれない?言いたいことがあるの」
結局のところ、全然余裕で間に合った。校門付近では侑李と美琴が2人で登校しているところを多くの生徒が目撃し、軽いニュースとなりかけた。
それほどまでに、侑李のことを好いている女子は多いということだ。
「お前まじか!?椎名と付き合ってるってまじか!?」
「違うから…」
こういう時の親友の絡みというのはだるいものだが、侑李はイラつくこともなく微笑みながら関係を否定する。
『現代』の人たちは秘密をバラされそうになると必死になって食い止めようとするが、逆に侑李のような対応をした方が安全であることを知らないようだ。
「まあそうだよな、侑李の好みじゃなさそーだし」
放課後。侑李はお呼ばれした教室へ向かう。そこには、窓にもたれて外を眺める少女の姿があった。
彼女は、緊張していた。今にも倒れそうなくらい、緊張しているようだった。
「椎名」
侑李はつられて少し緊張しながら、彼女の名前を呼んだ。
気づいてはっとしたように、美琴は振り向いた。
その顔は背後に見える夕焼けのように、赤く染まっていた。
「飯沼くん…言いたいことっていうのはね」
ガクガクと唇を震わせながら、美琴は決心したように話を続けた。
「私、あなたのことがずっと前から好きだったの、だから…あなたが嫌じゃなければ付き合ってほしいの、少しでもいいから」
それは、重い告白だった。彼女は顔を下に向けた。侑李を真正面から見られないようだった。
「俺は…」
侑李は悩んだ。結論を出すのは、まだ早いとも思った。
どうすればいいのか、わからなかった。