表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼の生贄 -伊豆高原殺人事件-  作者: 青木 地平
16/32

東京地検特捜部

 日比谷公園横の無機質なビルにある東京地方検察庁、その中に特別捜査部がある。言わずと知れた『東京地検特捜部』である。その特捜部内では村田孝一への内偵が実は今回の談合事件に限らずここ数年ずっと続いていた。裏献金、収賄、談合、インサイダー取引…等々。しかし、数々の疑惑がありながら政権の意向を受けた法務省上層部、通称赤レンガ組からの圧力・妨害に遭って、遅々として捜査は進まず、どれも未だ立件に至らずにいた。その中には検察の力及ばず空しく時効となったものも少なくない…。


 そんな状況下にあって約2年前にこの特捜部に配属され、表向きは密かに村田の内偵に当たっている若手検事の上川敦かみかわあつしは苦り切った表情で叫ぶ。

「あー、いつになったら村田をやれるんだ!?」

「そう、いきがるなよ。若いの」と即座に先輩検事が上川をたしなめる。

「こういうのはな、焦っちゃダメなんだ。政界捜査は一に辛抱、二に我慢、三四がなくて五に度胸ってな。時が来るまでじっと待つ」

「えー⁉︎、じゃ、いつまで待つんですか?。ここに来てもう2年になりますが、もうずっと待ってますよ。今回の談合事件じゃ捜査の相棒である公取(公正取引委員会)もだいぶれているんじゃないんですか?」

「そうかもしれんが、まあ、今の民友党磐石の時代には捜査を進めるのはちょっと難しいかもしれんな。内閣支持率も50%を超えているし、この安定政権に逆らうとなるとなかなか…。まっ、あとは何か村田がポカでもしてくれるのを待つしかないな」

「ポカならしてるじゃないですか。小林園の乗っ取りは失敗しましたよ。殺人事件も起きているし」

「そ、そうだな…、まあ、静岡県警がうまいこと村田を追い詰めてくれるといいんだがな」

「静岡県警…」と言うなり上川はガクッと首をうなだれた。

「絶望的ですね。彼らは水谷らを殺した犯人がまだダイヤスタイル関係者だと見ているんですよね?。まったく何やってんだか。被害者の女が依然として一条幸恵とかいう水谷の元愛人だと思っているんだからどうしようもない。これじゃ小林園への捜査なんて100年経ったって始まりませんよ。もうこうなったらこっちから教えてやりましょうか」

「まあ、結局そこにも圧力がかかってるんじゃないのか?。ここと同じように…な。だったら教えたって無駄だ。逆にこっちの動きが村田側に知られちまう…」

「そこは匿名でやればいいんじゃないですか?」

「匿名でやれば、恐らく信用はされんだろう。それに圧力がかかっていれば、どうしたって握り潰される…」

「くそ!、何とかならんのか」


 ただ…、現状確かに特捜部への上からの圧力はあったが、それも最近では日常の漫然としたものになっていた。その虚を衝く形で特捜部員らは徐々にではあったが着実に村田本陣に迫りつつあった。それは特捜部員全員が歯を食いしばり匍匐ほふく前進をする…。そんな地道な作業の連続だった。証拠を少しずつ集め村田孝一という本丸に肉迫する。


 そして…、ついに『その時』は来ようとしていた。道東プロジェクトにおける村田を頂点とする談合の実態がほぼ明らかになったのだ。『外堀は埋まった』と誰彼なくそう言う。そして同時に大きな高揚感が特捜部全体を覆ていく。

 あとは関係先のガサ入れを待つばかりとなった。だが以前からそうだが往々にしてこの『ガサ入れ』、その許可状である『ガサ状』こと『捜索差押許可状』がなかなか下りないで…、というか裁判所へ請求することの許可がなかなか下りないでいた。政権に媚を売る赤レンガ組の差し金であることは言うまでもない…。


「部長、もうネタは挙がっているんです。強制捜査に踏み切りましょう!」と上川は待ちきれない気持ちを特捜部長である笹田清ささだきよしにぶちまけた。

だが笹田は「そう、無茶言うなよ上川。うちらは組織で動いてるんだぜ」と困った顔で答えるだけだ。

「なに言ってるんですか部長。我々検事個々人には、被疑者を捜査・起訴する権限と義務があるんですよ。刑事事件では唯一の起訴できる…」

「ああ、分かった。分かった。そう学生みたいに建前論を言うなよ。俺だってなぁ生活があんだよ。上の意向に逆らったら何をされるか…あぁ恐ろしい。それに村田のバックにいる財務省からなぁ『江戸の敵を長崎でとられて』も困んだよ!。法務・検察の予算が大幅に減らされでもしたらどうすんだ!。検察の盟友である国税庁との関係もあるし…。だいたい上に逆らって捜査してその責任者がどういう目に遭っているかおまえだって分かってんだろうが。良くて左遷のうえ退官、悪けりゃ逮捕だよ逮捕。この検察庁で上から睨まれて生き残れた者は…、いない」

「じゃ、今までの苦労はどうなるんですか?」

「待つしかない。その時が来るのをな。だいたい現実には、捜査してネタ揃えて立件できるなんて10回のうち1回あればいい方だぞ」

「そんなんだから、世間から『眠れる検察』なんて言われるんですよ‼︎」

「うん…。まあ、そうかもしれんな…。だがなここで出世したいと思うんだったら上に気に入られるようにした方がいいぞ。政権も含めた上にな」

「ああそうですか、部長のご意見はあくまで一つの御意見として聞かせていただきますよ」

「なぁ上川、悪いことは言わん。とにかく今は待て。タイミングが悪い。まぁだけど、俺だって検事の端くれだ。村田をパクリたい気持ちは当然ある。おまえらの苦労も見てきたしな。だから時機が来たらその時は俺だって決断する。今はそれを信じろ!」

「そうですか…まあ他ならぬ笹田部長がそうおっしゃるのなら信じないわけにはいきませんね。ではそのことを大いに期待して、その時というのが来るのを待たせていただきますよ。静岡県警にも期待してね」

「ああ、ぜひそうしてくれ。特捜部の幸運を祈っている」と笹田は、最後には他人事のようにそう言ってそそくさとその場を立ち去った。


「チッ、部長もどこまで本気なんだか…。それにしてもこの体たらく、まったく天下の東京地検特捜部が聞いてあきれるぜ。本当に静岡県警に先越されたらどうすんだよ。まあ静岡県警と言わないまでも警視庁だって村田のことは調べてるっていうし、このままじゃ警視庁に先越されるってことも十分あり得るぞ」と上川はふて腐れて一人ごちる。そう言うと、上川は無性に警視庁の動きが気になってきた。

「そうだ、真理子にそれとなく訊いてみるか」と上川はふと思いつく。

 真理子こと倉橋真理子くらはしまりこは学生時代から付き合っている上川の恋人で、現在、全国紙である東報とうほう新聞の記者として勤務していた。お互いもう30歳を超えていたが、仕事が忙しかったのと何より自分の仕事にやりがいを感じていたこともあって、今まで結婚の話が出なかった。

しかし…、真理子のほうはいい加減、上川との結婚を意識し始め、将来のことを考え始めていた。学生時代の恋人気分とは違う現実感が近頃の真理子を急速に支配していったのであった。


 上川と真理子はお互い私学の名門で法曹界にも数多くの人材を輩出していた『新央しんおう大学』の出身で上川が法学部、真理子が文学部の出であった。同じサークルで知り合い、付き合うようになったが、そこに至るまでにはいろいろと紆余曲折があった。元々上川はいわゆるKY(空気が読めない)の気があり、少し周囲からは奇特な人間と思われていた。しかし真理子は周囲の目を気にせず、自分の意見をはっきり言って己の信念に基づいて行動する上川の姿に一種の男らしさを感じ魅かれていった。法学部で検事志望ということもあり、当時の学生には珍しく時事問題も語れる人物だった。真理子自身もマスコミ・ジャーナリスト志望であったため時事問題についても自分の意見を持っていて議論好きなところがあった。二人はとにかく、当時のトレンドではなかったかもしれないが、どこか反権威・反権力的な気風をたたえ、自由闊達を旨とし政治経済を含めあらゆることを議論できるいわゆる昔ながらの学生らしい学生ではあった。そんな彼らは摩擦やすれ違いもあったが徐々に気持ちを通い合わせ、やがてお互いを深く愛しあう恋人になっていった。


 上川と真理子は学生自治会による学費値上げ反対運動や学生自治を脅かす大学当局による様々な干渉・管理強化に反対する運動等でも積極的に発言・行動していった。やがて、そんな二人は学内の活動だけでは飽き足らず、国際的な支援をするNGOにも参加していく。また、政府がきな臭い国際紛争に介入するような法案を通そうとしたりする際には反対の意思を鮮明にし当時の学生には珍しく果敢に街頭デモにも参加した。

その頃の二人は不思議と怖いものは何もなかった…。それぞれの存在が相手を励まし、自然と前へと踏み出していける。一緒にいるだけで何でもできるそんな錯覚じみたパワーが漲ってくる。そしてお互いがお互いをこの上なく尊い存在だと強く感じることができた。そんな二人は夜を徹し日本を憂いて世界を語ることも厭わない。そして、この世知辛い地上で人間としてのロマンを求め合った…。

 その頃の上川と真理子は、自分たちの理想と信じるところに従い自らの『義』と『信念』を貫いていった。彼らにとってそういう生き方ができた学生時代は毎日が痛快だった。この地上でヒューマニズム・人道主義を全力で達成させている気がして人間として生きることの素晴らしさ、美しさを全身で体感することができた。そして、そんな満たされた生き方ができた二人は自然とこの純粋な気持ちをいつまでも持ち続けたいと願うようになる。上川と真理子は、自分たちがそう願うのはごく自然な成り行きであり、また人として持たなければならない必須の感情であると信じた。


 上川は真理子に電話をかける。

「あ、真理子?。あの、今夜会えないかな?」と上川が尋ねた。

「ええ!?、今夜?。ちょっと無理だな~。仕事終わんなくてさ~、今夜は徹夜かも」と上川の想定内の答えが返ってくる。

「じゃあ、いつなら会える?」と上川はめげずに食い下がる。

「明日の夜10時位ならなんとか…」

「じゃあ、明日の夜10時いつもの場所でいいか?」

「うん、分かった。ところでもう仕事終わったの?。いいな~」

「俺たちはな、なかなか仕事させてもらえないんだ。むしろ仕事ができるおまえの方が羨ましいよ」

「はあ?。何言ってるの?。意味分かんないんだけど」

「ま、とにかく明日な」

「は~い。了解しました~」

 真理子は、今、本社社会部に在籍している。新聞記者としての実質的な新人研修であるサツ回り(主に地方にある警察本部の記者クラブ勤務)を終えて、東京本社の社会部に配属された。本人の希望はあっさり無視された。元々は政治部希望だったが、サツ回りでの取材度胸が買われたらしくそのまま社会部に配属され、現在そこの遊軍記者として勤務していた。


 翌日、二人はいつも使っている赤坂のレストランで待ち合わせた。先に上川が席に着いて待っていると、やがて真理子がやってきた。仕事帰りらしく、特におめかしはしていない。それでも久しぶりに会った真理子は美しかった…。二人は暫し雑談する。そしてタイミングを見計らって上川が本題を切り出した。

「なあ、真理子、今おまえ、社会部にいるんだろ?」

「ええ、そうよ。だから何?」

「ズバリ、村田捜査の警視庁の動きが知りたいんだけど」

「村田って経産大臣の村田孝一?」

「そう」

「そんなの分かりっこないわよ。動きが分かればすぐに記事になるもの。何で警視庁の動きが気になるの?。いま村田孝一を捜査しているの?」

「うん…。ここからは絶対内緒だぞ!」と上川は語気を強め口に手を添えて身を乗り出す。

「う、うん」と戸惑いながらも真理子は頷き、上川の動きに合わせて頭を屈め耳を上川の口元にもっていった。

「いま村田孝一を頂点とする談合事件を捜査しているんだ。公取とも協力してな。それでそれにまつわる数々の犯罪の証拠はほぼ集めて、あとはガサ入れって段階なんだけど、でも今、上からの圧力で捜査がストップしているんだ。まあ、圧力がかかっていると言っても特捜部長が腹をくくればコトは進むんだけどな…」

「ふ~ん。で?」と真理子は言って、浮かせた腰を元に戻して座り直す。

 上川も口元の手をほどいて座り直し、「うん…、で、その隙に警視庁の捜査が進んで村田をパクられたら、うちらのこれまでの努力が全部水の泡だ。それで警視庁の捜査は進んでいるのかな~なんてちょっと気になったりして…」

「ふ~ん、そうなんだ。検察のいつものパターンよね。ライバルの警視庁二課の動きが気になるってわけだ」と真理子は少し呆れ顔で『何だそんなことか』と言いたげなつまらなそうな顔をして言った。

 上川は一瞬むっとして、「でもさ、もし警視庁の捜査が進んでたら、逆にそれを利用できるんじゃないかとも思ってさ」と必死に反撃を試みる。

「どういうこと?」と言って真理子は少し身を乗り出す。

「つまりさ、警視庁の捜査が進んでいればうちの特捜部長だってこれまでの努力を無駄にしたくないからいろいろ考えるでしょ?」

「まあね。みすみす警視庁に手柄をもっていかれたくはないわよね。それに政界捜査だったら何と言っても特捜部のほうが格上でしょ?。ここでやらなきゃ特捜部の名折れだって思うでしょうね」と真理子は言い、少し自分の彼氏をもち上げてみせる。

「まあな」と上川もまんざらでもないといった顔で応じる。

「その特捜部がだよ、警視庁に先越されたなんてことになったら、特捜部は何やってるって世論だって大変なことになるでしょ?。それこそ特捜部の存立危機にまで発展するかもしれない。少なくとも今の特捜部長はクビだな。そこの捜査員だって能なしのレッテルを貼られちまう」

「まあ、そうよね」と真理子は言い横目で上川をチラッと見る。

「う、うん、だからさ、警視庁の動きを掴んで、『警視庁が今にも動きそうだ』ってうちの部長に伝えて、警視庁が村田をやる前に特捜部がやるように仕向けたいんだよ」

「なるほど、警視庁をダシに使うってわけだ?」

「ま、まあ、そういうことかもな。でも、こ、これも巨悪を眠らせないためのやむを得ない手段だよ」

「はい、はい、分かっておりますとも」

「うん…。で、とにかく、もし警視庁に先越されたら一大事だからな、その時はうちの部長も腹くくるだろ」と上川は少しバツが悪そうにしながらも必死に威厳を保ちながら言った。

「うん、そうね。特捜部長ならまずそうするでしょうね。でも…敦、なんでそこまで村田孝一にこだわるの?」と真理子は言って一転真顔に変わる。

「それはな…、君も分かっていると思うけど、あいつは悪い奴なんだ。自分の野心のためなら手段を選ばない。国会議員であるにも拘らず平気な顔をして法を犯す。今回だって談合で便宜を図り業者から多額の賄賂を受け取って私服を肥やし、それをまた自分の栄達のための買収資金等の『実弾』として使っている。今度はいよいよ総理になろうっていうんだから聞いて呆れる。それこそ日本の危機だ。村田は国を過つ大悪人さ!。

 それから最近は新たな資金獲得の手段として、日頃から付き合っている暴力団から紹介された中国から不法入国してきたネットトレーダーを使って違法なインサイダー取引や仕手戦等を仕掛けて巨利を貪っているらしい。

 あとな…、この前起きた伊豆高原殺人事件だけど、これも村田が絡んでいそうなんだ。事件の被害者である村田と旧知の仲だった大手飲料メーカー、小林園の東京支店長、水谷一郎を次期社長にと画策していたという情報がある。村田は小林園を新たな資金源にしようと企んだんだな。それを快く思わない現社長らがその東京支店長を殺害したというのがうちら特捜部のもっぱらの見立てだ。

 そして、これらのことで村田周辺に捜査の手が及びそうになるとスキャンダルになることを恐れた村田は政権の威を借りて捜査機関に圧力をかけてきた。うん…、とまあだいたい村田孝一っていうのはこんな人間だ。こんな人間を、こんな奴を検察官として、いや一人の人間として許しておくわけにはいかないんだ‼︎」

「そうよね!。伊豆高原の件は初耳だけど私も村田の汚いところはいろいろ聞いているわ。うちとしても何度か彼の悪事を報じようとしたけれど、その度に政権や政権に媚びる勢力の圧力で握り潰されてきた…。それに村田が表向きやっていることも一般に地元と言われる自身の選挙区への利益誘導と彼を支持する団体や業界への便宜ばかりだし…」

「そうなんだ。あいつは国家・国民全体の利益は全く考えず、自身の利益ばかり追求して決して国民多数の負託に応えようとしない!」

「そうね。でも敦、村田は強力よ。そこから圧力がかかっていて…、それでもやるの?」

「ああ、やるさ!。やらなきゃならんのさ。だって俺は悪を許してはならない検察官だからな」と上川はこともなくそして力を込めて言い放った。それを見た真理子は上川の意を決した精悍な横顔に思わず心ドキッとなる。

「ふ~んいいね」と真理子は上川に聞こえないくらいの小声で思わず呟き、「それで、私に警視庁の村田捜査の進捗状況を調べて欲しいと?」と今度は務めて平静を装って上川に尋ねた。

「そうなんだ。ぜひ協力してもらいたいんだ」と上川は言い真剣な眼差しで真理子を見つめる。

「う~ん。協力しなくもないけどね…」とそれでも真理子は敢えて曖昧な答えを上川に寄越す。

「頼むよ」と上川は言い、拝むような表情になった。

「でもちょっと待って。その前に私達の将来のこと考えてくれる?」と突然、真理子は話題を変えた。

「うん?。俺達の将来?」と上川はあっけにとられて訊き返す。

「だって、私ただの都合のいい女じゃいやだもん。あなた、私のことどう思ってるの?」

「あ、ああ、そうだね真理子のこと思ってないわけじゃないけど…」

「だから、どう思ってるのよ⁉︎」

「う、うん、とにかく今は、今はこれだけは言えるよ。君なしの人生はこれまでもこれからも考えられないってこと」と上川はこれまでにない真剣な眼差しで真理子を見つめて言った。

「そ、それってプロポーズって捉えていいの?」と真理子は一転、恐る恐る上川を覗き込むように尋ねる。

「ああ、そう思ってもらっていい‼︎」と上川はまっすぐに真理子を見つめ、力強く言った。

「ふ〜ん、ありがとう。じゃ婚約指輪、期待しているから」と真理子は敢えて上から目線で落ち着いた振りをして言った。だが…、心中は涙が出るほどの嬉しさで満ち溢れている…。

「でもさ、君に前にもこんな風なことを言ったら、今は仕事が忙しくて結婚なんて考えられないって言ってたんだぜ」

「ええ!?。私そんなこと言ったかしら?」

「言ったよ。言った」

「そう?。まあ、いいわ。言ったってことで」

「で、協力してくれる?」

「うん…。ええ、いいわ、協力してあげる!」と真理子は明るく笑って承諾した。

「そうか、ありがとう。これで日本は救われるよ」と上川もこれ以上ない笑顔で礼を言う。

「オーバーね。そんなこと言ったって何にも出やしないわよ」

「そうか、それは残念。でも君のおかげで日本が救われるっていうのは本当だよ。でさぁ、とりあえず今何か知ってることってない?」

「う~ん、そういえば警視庁の捜査二課に村田を追っている執念の刑事がいるっていうのを聞いたことがあるわ。捜査しているとすればたぶんその人ね」

「その人何て名前なんだ?」

「確か、青田さんって言ったかな」

「青田さんか…、なんとかその人と会えないかな?」

「会えなくもないとは思うけど…、そうね、明日出勤していろいろ考えてみるわ。ねー、それで、うちのデスクにはこのこと話していい?。絶対に外には出ないようにするから、ね。でないと取材できないかも…」

「う、うん、分かった!。フィアンセである君を信じるよ」

「うん、ありがとう。それで、警視庁のこと調べるというか取材すれば当然それを記事にしなきゃいけなくなると思うんだけど…、それは大丈夫?」

「ああ、うん。あっ、ただどこの捜査機関であろうと村田を内偵していることは絶対に書かないでくれよ。それをやられたらこれまでのうちらの努力が全て無駄になる」

「うん。勿論それは分かってる」

「ま、でも村田を追いつめ捜査を促し、うちの部長がもっとやる気になるような記事なら大歓迎さ。とにかく巨悪を追いつめるいい記事を期待してる」

「うん…。分かった。そううまくいくかは分からないけど最大限努力はしてみるわ。私もスクープを打ちたいっていうブン屋としての血が騒ぐし」

「ああ、よろしく頼むよ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ