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夢冒険  作者: マンチカン
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第9章~死者と迷宮~

船の移動は順調に進み一行は東大陸にたどり着き船を止めた。ヴラドの住むトルゴビシテ城はそれほど遠くなく、丸一日歩けばつく距離だとクラークは説明した。やがて日が沈み星空が顔を出した。一行はその日はそこで一晩を過ごした。あくる日一行は再び城に向かって歩き始めた。しばらく歩いているとアイラが

「ねーねー、なんか変なにおいしない?」

と言った。皆は鼻を嗅いだが匂いはしてこなかった。しかし空には何百というカラスがガアガア鳴きながらバタバタと無気味な音をたてて群がっていた。

「なんかやばくないっすか?」

平山がその様子を見て少しビビったように言う。

「確かにこれは異常ですな。奴がまた何かしたのかもしれませんぞ。慎重に進むとしよう」

とクラークは言った。城に近づくにつれて枯れ木の集まりのようなものが見えてくるとともにアイラが感じた臭いも誰もが感じるようになっていた。

「これは何かが腐っている臭いだわ。ああ、気分が悪くなる。」

エリーゼがつぶやく。近づくにつれてその枯れ木の正体が明らかになったとき一行はあまりの凄惨な場面にその場に立ち尽くした。それは大きな杭とその杭に串刺しにされた死体だった。無数の串刺し死体がまるで枯れ木の林のようになっていたのである。その強烈な光景とあたりに立ち込める腐臭に耐え切れずエリーゼはその場を離れ激しく嘔吐した。高橋はエリーゼの方に向かって彼女の背中をさすった。

「あれを見てケイイチは平気なのかい?」

「平気なわけない。平気だったらそいつの頭の方がどうかしているさ。俺は元の世界では自衛隊という、こちらでいう兵士の職業をしている。見たくない現場もいくつも見てきた。でもこれはひどすぎる。人間のやることじゃない。」

一方アイラはその光景を目の前にショックで気を失い、慌てて平山がアイラを抱きかかえた。

「お嬢ちゃん達には刺激が強すぎる光景だったか。」

アイラをおんぶしている平山にクラークが話しかける。

「クラークさん、どうして平気なんすか。俺はアイラを何とかしなくちゃと思っているから踏ん張っていますけど。クラークさんはどうして平気なんですか?」

平山の質問にクラークは

「平気なわけないだろ少年。俺がいた村は奴に襲われみな殺され串刺しにされた。あんなふうにな。運よく俺はたまたま通りかかった人に助けられたから生きているがな。」

それを聞いた平山は

「そうですか。」

と小さくつぶやくしかなかった。ちょうどその頃エリーゼと高橋が戻ってきて一行は再び城に向かって歩き始めた。しかし地獄のような林に近づくころ一行の前に兵士が現れ一行を取り囲む。

「怪しい奴め。いったい何の用だ?」

兵士の質問に平山が

「用?そんなの決まってるじゃん。あんたらの親玉ぶちのめしに来たんだよ!」

それを聞いて兵士たちがおなかを抱えて大笑いする。

「ヴラド様を倒す?こりゃ傑作だ。お前たち、ヴラド様の強さを知らんのか?こりゃあ面白い。よし、お前たち、来い!ヴラド様に会わせてやろう。そして後悔しながら死ぬんだな。」

兵士たちはそう言って平山達を城に案内した。やがて城の目の前につくとあまりの壮麗さに一行は思わず足を止めて見とれた。左右対称の構造に目の前の湖のほとりの静かな水面が城を上下さかさまに映していた。先ほどまでの地獄のような風景とは180度違う景色がそこには存在した。

「こ、これは凄い。多少の違いはあるが、まるでフランスのシャンボール城を彷彿させるな。」

高橋が驚きの声を上げる。気を失っていたアイラが目を覚ます。覚ますと同時にアイラが

「き、きれーい。す、すごいお城!でもくさーい。」

と声を上げ鼻をつまむ。

「よく目に焼き付けておくんだな。お前らはこれからお前らは地獄の苦しみを受けて死ぬんだからな。そろそろ行くぞ!」

兵士はそう言って平山達を城の中に力づくで入れる。城の内部も豪華絢爛で権力者がどれだけ力を持っているか一目瞭然だった。謁見の間に通されると、そこには世にも恐ろしいる猟奇的な王ヴラドがそこにはいた。

「ほう、余に歯向かう愚か者とはお主たちか。人間に精霊、そして見る者とは面白い連中だな。余は血を見るのが大好きだ。だが精霊は血を流さぬ、面白くもない。見る者は決して死なぬ。新たな拷問の実験台にでもするか。」

「てめー、ふざけるな!」

平山が猛然とヴラドに向かって突っ込む。

「愚か者が。」

ヴラドがつぶやくと同時にヴラドの後ろに複数のどす黒い魔法の槍が現れ平山めがけて発射される。

「ぐはっ」

複数の槍は平山の体を四方八方を貫いたかと思うとキラキラと光になって消えた。

「ふん、見る者とはこの程度なのか。つまらん、殺す気も失せたわ。お前たちは地下迷宮で永劫苦しむがよい。」

ヴラドが言い終わると魔法陣が現れ、平山達は瞬間的に地価の迷宮に転移させられた。

転移させられた場所は広場だった。扉は四方にある場所だ。ヴラドの声がどこからもなく聞こえてくる。

「ここは余が創り出した迷宮だ。もし抜け出すことができたら余が直々に殺してやろう。せいぜい頑張るがよいぞ。」

「串刺し公の迷宮ですか。罠がたくさんあるだろうから気を付けるしかないですな。まずは、少年の回復を待ってからにしようかの」

クラークが言う。ぐったりとした平山が回復するのを皆が待っていた。やがて傷が回復して平山はむっくりと起き上がった。

「やっと起きたか少年。無茶しおって、馬鹿者が。」

クラークの罵声が部屋中に響く。

「ほんとー、タカシってバカだよね。少しは頭使いなよ」

グサッとアイラが言う。

「ご、ごめん。次は気を付けます。」

平山がしょんぼりと答える。

「さて、それはさておき。問題はここをどう突破するかだな。」

高橋が部屋の周りを見渡す。

「東西南北に扉が一つずつ。どれが正解なのかしら。適当に開けるわけにもいかないわよね。」

エリーゼが言う。

「そんなときはこのアイラ様にまっかせなさーい。」

アイラが元気よく叫びそして、頭を垂れ手を組んで祈り始めた。アイラの頭上に緑色の輪が現れ同心円状に均一に広がった。緑色の輪は次々と現れ水面に小石を投げた時のように広がっていく。しばらくするとアイラは祈りをやめ

「正解はあの扉だわ。あとは偽物ね。」

と答える。

「なんで分かるんだ、アイラ。」

きょとんした顔で平山が尋ねる。

「今のは音の魔法なんだけどね。なんていうのかな、距離が違うと音が返ってくるまでの時間が違うんだよね。それで分かったの、分かった?」

平山は首をかしげながら

「ソナーみたいなものかな?」

「ソナーってなに?」

アイラが聞き返す。

「まあ、何となく分かった。」

平山が言う。

「ならいいわ。ではゴールに向かってゴー!」

アイラが元気よく扉を開ける。何のトラップもなく一行は迷宮の攻略に向かって進みだす。しばらく前を進んでいくと前方から人影らしきものが見えてくる。それは剣を持った骸骨だった。それを見たアイラは悲鳴を上げ平山にしがみついた。

「かわいそうに、今安らかに眠らせてやろう」

クラークは指先から炎を呼び出し骸骨に向かって投げつける。骸骨はあっという間に燃えその場で灰となった。

「では行こうかの」

クラークはそう言い前に進む。ほかのメンバーもクラークに続いて進む。やがて一行は行き止まりにぶつかる。

「困ったわね、引き返すしかないのかしら。」

エリーゼが困ったようにあたりを見渡していると何かを見つける。

「何かしら、みんなちょっと来て」

エリーゼの掛け声にみんなが集まる。そこにはスイッチが一つあった。

「明らかに怪しいねー。」

「罠の可能性は大か。だがそれにしても単純すぎる。」

「いっそのこと、この壁ぶっ壊してみないか?」

平山が提案する。

「ぶっ壊すね、やってみる価値はあるわ。アイラ、手を貸して」

「うん、やってみよう。エリーゼちゃん。みんなは危ないから後ろにいてねー。」

エリーゼとアイラは手をつなぎ反対側の手を前に突き出す。

「アクアトルネード!」

「ハリケーンストーム!」

水と風の魔法が壁に向かって放たれる。二つの魔法は互いに近づき一つになるころアイラとエリーゼは

「ツインディザスター!」

同時に叫ぶ。水と風の合体魔法で壁が破壊される。その先には新たな道が現れる。

アイラとエリーゼはハイタッチをする。

「ア、アイラすげえ。」

平山があっけにとられていると後方からドスンと重い音が聞こえる。それに気がついた高橋が後ろを向くと巨大な鉄球が平山達に向かって転がってくる。

「みんな、走れ!つぶされるぞ!」

高橋が叫び、全員一目散に走りだす。鉄球との距離はどんどん縮まってくる。またも目の前に行き止まりが現れる。

「また、かべー。そんな体力ないよー」

「こっちに道がある。行くぞ!」

全員が道を曲がったころ鉄球が壁にぶつかり動きが止まった。安心したのもつかの間、続いて床がぱかっと開き一行は下に落っこちる。高橋が両足からジェット噴射の要領で風を出し飛べないエリーゼをお姫様抱っこしながら浮遊する。アイラは翼を出し飛行体制に入る。そして飛べないクラークの腕をつかむ。平山も翼を出し、バランスを崩しながらもなんとか飛行する。

「タカシ、だいぶ上達したね。よかったよかった。」

とアイラ。一行は近くの安全なところに着陸し、おそるおそる落とし穴の底を見てみるとそこには無数の槍があった。

「危うく串刺しになるところだったわね、私たち。」

エリーゼはほっと胸をなでおろす。一息ついた後、一行は再び前に向かって進む。しばらくすると扉が一つある広間にたどり着いた。すると後ろの道ががらがらと音を立てて崩れる。

ゴゴゴゴゴゴとゆっくりと何かが動く音がして一行はあたりを見回す。

「上見てうえー!」

アイラが大きな声で皆に知らせる。上を見てみるとびっしりと無数の槍がある天井が徐々に降りてくる。

「吊り天井ですか。しかもなぜか魔法が使えません。何かしらの細工がされているな。万事休すか。」

クラークが諦めたようにつぶやく。エリーゼが扉に突進しドアノブをガチャガチャ回して押したり引いたりするがびくともしない。

「どうなってんのよ、鍵がかかってるじゃないの。せめて魔法が使えれば・・・」

エリーゼは悔しそうに扉をドンドン叩く。この間にも天井はどんどんと下がってくる。

平山が手持ちの剣で壁に切りつけるがびくともしない。

「全然だめだ、剣の方が壊れそうだ。どうしよう高橋さん。」

平山は高橋の方を見る。高橋はごそごそとリュックの中で何かを探している。天井はさらに下がってくる。

「もうむりよー、お願いタカシ。その剣で私を殺してー。」

アイラが泣きじゃくる。エリーゼは扉を殴ったり蹴っているがびくともしない。エリーゼはしゃがみ込み悔しそうに涙を流している。エリーゼの頭をポンと誰かが叩く。エリーゼが振り向くと高橋がそこにはいた。

「エリーゼに泣き顔は似合わないな、ちょっとどいてくれ。諦めるのはまだ早いからな」

手に持っている針金を見せて高橋はニッと笑う。そして鍵穴の中に針金を入れてガチャガチャ動かすと何かがかみ合うような音が聞こえた。そしてノブを回してドアを押すとドアが開き青空がその前に広がっていた。一同は歓声を上げ扉を抜けた。

「では、さっさとこの迷宮からおさらばするぞ」

高橋がそう一声かけると、皆で一斉に駆け出した。 すると急激にカラスたちが集まりだして一か所に集まっていく。それはだんだんと人のような姿になり正体を明らかにしていく。

「余の迷宮から抜け出せるとはさすがは見る者といったとこか。しかし悩ましい。見る者は不死身。いくら串刺しにしても死なぬ。さてどうしたものか」

ヴラドは首をかしげる。光がヴラドの隣に現れ見知らぬ人物が現れる。

「ヴラド公よ。彼らは見る者と言ってもチンギス公の夢魔に無残に敗れた者たち。いわば実験台の価値すらない者たち。放っておいてもよいのでは。」

「余興にもならぬ者か。なら、パラケルススの言う通り、ここは撤退しよう。」

そういって二人は姿を消した。

「俺ら、助かったのか」

平山が安堵の声を上げる。

「助かったというより、相手にする価値ないって感じよね」

とエリーゼがつぶやく。


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