第8章~隠れ島~
平山達一行は船から降りると内陸に向かって歩いて行った。幸い船はそれほど損傷もなく簡単に直せる状態だったということが分かり、現在地を把握するためにも島を調べることになったのだ。突然、彼の目の前に矢が降りかかってきた。
「うわっ、あぶねえな!」
平山が叫ぶ。
「分かったわ。ここはアルミ島ね。よかったわ。あまり流されていなくって。」
エリーゼがほっと一息つく。
「アルミ島ってどんな島なんだ。」
高橋の質問に
「アルミ島はヴラドっていう死者から逃げてきた人たちが住んでいる隠れ島よ。」
エリーゼが答える。
「うわさに聞いたことあるよー。ヴラドって趣味で人殺しする奴でしょー」
「アイラ、そんな生易しいものじゃないわよ。」
エリーゼはそういうと一歩前に進み不思議な動きをした。しばらくすると魔女が被るような黒い帽子をした一人の男が目の前にやって来た。
「お客人と知らず失礼なことをした。久しぶりだの、エリーゼ。」
「お久しぶりです、クラークさん。でもそれにしても人が悪いんじゃありません?いきなり攻撃してくるなんて。」
エリーゼはむっとした顔でクラークに言う。
「ああ、すまんすまん。エリーゼの偽物かもしれないから念のためだ。許せ。ところで後ろにいる人たちは誰かな?」
エリーゼはクラークに平山達のことを自己紹介する。
「見る者に出会えるとは、運がやっと我らに向かったと見える。皆さん、それでは隠れ家にご案内しましょう。」
平山達一行はクラークに案内されて隠れ家にたどり着いた。現れてきた人たちはみな、着の身着のまま逃げてきたのだろうか、みすぼらしい姿をしていた。
「たいしたもてなしもできずに申し訳ない。我々は奴から隠れるようにして生きているから。」
クラークは答える。
「なんで戦おうとしないんですか?隠れているだけじゃ何にも解決しないじゃないですか?」
「タカシといったかな、見る者の少年よ。君の言うことはもっともだよ。でもみんながみんな君みたいに強くないんだよ。」
とクラークは言った。続けてクラークは
「でも君の言うとおり、隠れているだけの人生は面白くないなあ。なあ、エリーゼ。ものは相談だが俺も君たちの旅に連れていってもらってもいいかな?」
という。
「クラークさんがいると100人力だから一緒にいてくれると心強いわ。でも、ここの人たちを置いて行って大丈夫なの?」
「心配はないよエリーゼ。おーい、ミスト。こっちに来てくれないか」
クラークに呼ばれて一人の男が姿を現す。
「彼はミスト。今、この集落をまとめているものだよ。」
「ミストです。はじめまして。現在、レジスタンスのリーダーをしております。」
「少年、我々だってただ隠れているわけじゃない。機会を待つことも大切なんだよ。そして今その時というわけだ。どうだエリーゼ、連れていってくれるか?」
「それでしたら問題ないわ。」
その日の夜、平山達は歓迎のパーティとクラークの送別会が行われた。そういっても豪華な食事ではなく、山菜やイモリの焼き物とか粗末なものだった。
「いやあ、粗末なもので申し訳ない。畑なんか耕したら奴らに見つかってしまうからな。どうしてもこうなってしまうのだよ。」
笑いながらクラークは答える。高橋は顔色一つ変えることなくそれらを口にして
「いや、命がけでとってきた食料のもてなし大変感謝します。なら我々も命がけで、この旅を成功させて見せます。」
と答える。高橋の返答に焦ったのか
「大丈夫っすよ、俺。好き嫌いないですから」
と平山はそう言って子供が嫌いなものを食べるかのような感じで食べ物を飲み込む。それを見た一同は大笑いをする。
「ちょっとそんなに笑うことないだろ。みんな平気なのかよ?」
「風の精霊は森の生き物、何でも食べるから平気だよー。」
「海の精霊も船の食料が無くなったとき、釣りをしてゲテモノ何でも食べるから、食べられるだけでごちそうよ。」
二人の精霊はそう言ってケラケラ笑う。
「俺は金がなくて生活に困ったときにいろいろ喰ったからな。平気だ。」
高橋は言う。
「みんな、たくましすぎですよ」
それを聞いて一同がまた笑う。そうして夜は過ぎていった。あくる日、ミストたちに見送られ一行は隠れ家から出発した。
「船は大丈夫なのか、エリーゼ。」
平山の質問に
「大丈夫よ。奇跡的にね。では乗りましょう。」
5人は船に乗り込みヴラドのいる城に向けて出発した。