第7章~海の精霊~
森を抜けて3人はアンデルの港町に向かって街道を進んでいく。途中平山がアイラに反話しかける。
「なあ、アイラ。俺たちついに魔法を使えるようになったんだぜ」
「ほんとー、精霊王様から教えてもらったんだ、よかったね。ねえ、早速見せてよ。」
「ふっ、驚くなよ」
平山はそう言って念じると平山は空中に浮かびあがった。
「すごいすごーい。タカシ、飛んでるじゃん。」
が、その直後、平山はバランスを崩し墜落してしまった。
「あちゃー、タカシ。練習が必要だね。よし、練習しながら町に行こう!」
そう言ってアイラは平山を起こす。
「あー、いてててて。ありがとう、アイラ。」
「どういたしまして。さて、やりますか」
アイラはそう言うと
「お客様、お手をどうぞ」
と素敵な笑顔で平山に左手を差し出す。
「あ、ああ」
と生返事で平山はアイラの手を握る。
「昔、空中観光案内の仕事をしていたことがあるんだ。一度、一緒に空を飛べがコツがわかると思うよ。」
そのままアイラと平山は宙に浮かぶ。平山が下を見ると高橋の姿がどんどん小さくなる。
「これから、前に進むよ。」
アイラは平山を引っ張って前に進んでいく。
「いい感じだよ、タカシ。少しコツをつかんだ感じだね。」
そしてアイラは平山の下に移動し平山の方を向き、
「じゃあ、今度は手を放すよ。失敗しても大丈夫、私が捕まえるからさ」
そう言ってゆっくりと手を放す。
「おお、飛んでる。すげえ、超気持ちいい」
「うん、いい感じ。でも、そろそろ降りようタカシ。結構、力使っちゃっているし。」
アイラの注意に関わらず平山は飛行を楽しんでいたが突如、ガクンと動きが止まって落下した。真下にいたアイラが平山を受け止めてそのまま地上へと降りた。
「はー、驚いた」
「まったく驚いたじゃないわよ。ちゃんと精霊の言うことは聞いてよね。」
むっとした顔でアイラは平山を見る。
「分かった、分かった。次からは気を付けるからさー、怒るなって。」
少し遅れて高橋が二人に追いつき
「お二人さん、なにじゃれあってるのかなあ。早く町へ行かないか。」
と言い、二人を追い越していく。アイラと平山は慌てて高橋についていく。やがて威勢のいい声が聞こえてきてアンデルの港町に3人は到着した。
「タカシ、ケイイチ。今から知り合い連れてくるからちょっと待ってってね。」
アイラはそう言って町の人ごみの中に消えていった。しばらくするとアイラは一人の少女を連れてやってきた。日に焼けた褐色の肌に全体的に引き締まった体。ショートカットをしたボーイッシュな少女だった。
「紹介するね、彼女は私の友だちのエリーゼちゃん。海の精霊だよ。」
「へー、あんたたちが見る者か。まっ、よろしくな。じゃあ、早速霊玉探しに行こうとするか。ついてきな」
エリーゼの言うとおりに平山達はついていくとやがて港にたどり着き、一隻の船が見えてきた。
「これがあたしの船さ。これさえあればどんな大陸だって移動できる。さあ、乗りな」
エリーゼは舵輪の中央部のスイッチを押すと、スクリュー音が鳴り響き船が動き出す。
「随分と近代的な船なんだな。」
高橋の疑問に
「ああ、見る者から教わったのさ。この船にはスクリューがついているこの世界で唯一の船さ。スクリューを回すのに魔力を使っているのさ。」
自慢気にエリーゼが答える。さらに高橋が
「じゃあ、その服もそうなのか。街の人とはずいぶんと違うから驚いたのだが」
聞くと
「そうさ。トップスにホットパンツっていうだってな。海に投げ出されたとき便利だろ?」
「ああ、まあな。」
と高橋はエリーゼの胸元に視線を向ける。その視線の先には豊かな胸がある。
「ほんとー、男の人ってみんな胸が大きい子好きだよねー。精霊も人間も見る者も関係ないんだねー。」
アイラが言う。
「まあ、男の性だ。許してくれ。」
高橋が答える。
「ケイイチの好みは分かったけど、タカシはどうなの?お姉さん気になるなあ。」
小悪魔のような顔つきででアイラは平山の方を見る。
「お姉さんって、俺と大して変わらないだろ」
「話を逸らすの下手くそだねー。ま、そこがかわいいから許してあげましょ。」
ふふんとアイラは鼻を鳴らしてエリーゼの方に向かう。二人は楽しそうに話をしている。
やがて日が落ちて星が顔をのぞかせる。エリーゼは夜空を見ながらふぅとため息をつく。
「どうした、エリーゼ。空が気になるのか?」
高橋の質問に
「まあね。本当は北に星なんか一個もないのさ。それが何でか知らないけどあんなにたくさんあるからね、気になってしょうがないのさ。」
エリーゼは答える。
「そうだねー。あれって死者たちが現れた時と時期が重なるもんね。」
アイラが言う。
「そういやさ、死者が現れたのっていつ頃なんだ?」
平山が聞くと
「うーん、だいたい一か月前ぐらい前かな。夢魔が現れてバクがさらわれて大変だったんだよー。」
アイラが答える。
「たしかバクは夢魔を倒せる切り札だったはずだが」
高橋が言う。
「その夢魔に挑戦してコテンパンにやられたんだろ」
そう言ってエリーゼは大笑いする。
「ごめんね、話しちゃった。」
アイラがぺろっと舌を出す。その後、夜の交代を決めることになった。最初の番が高橋とエリーゼの組み合わせで行われることになった。エリーゼによるとアイラも多少、船の番はできるから、その方がいいということで組み合わせが決まった。平山とアイラが船室に入ると甲板は高橋とエリーゼの二人きりとなった。波は穏やかで監視の執拗がないくらい静かだった。高橋は夜空の星々を見ながらエリーゼの話を思い出し、ふと思う。あれは本当に星なのか。眠ったまま起きない人たちと何か関係があるのではいかと。エリーゼが話しかける。
「ケイイチ、何か話さないか。番人が眠ってしまっては意味がない。」
「そうだな。何がいい。エリーゼは俺たちの世界に興味がありそうだな。」
「ああ、見る者の知識は宝の山だからな。何でも知りたいな。あっ、ちょっと待って。」
エリーゼはそう言ってどこかにでかけた。しばらくするとエリーゼは何やら持ってきて戻ってきた。
「この様子だと、今夜は波も静かだし。大人の時間を過ごさないか?」
エリーゼはグラスにワインを注ぐ。不気味な星空の下で二人は乾杯をした。ワインを口にしながら高橋は自分たちの世界について話をし、エリーゼは頬杖をついて高橋の方を見つめながら話を聞いている。時間はあっという間に立ち、平山達と見張りを交代した。
「タカシ、波が穏やかでよかったねー。」
「ああ、そうだな。」
眠そうな目をこすりながら平山は答える。
「ふーん、タカシ眠いんだ。こっどもだなー。」
アイラはケラケラ笑う。
「てっめー。いいやがったな」
平山がアイラのことを追っかけるがアイラはひょいとよけてしまう。
「こっこまでおーいで」
甲板上で二人は追いかけっこを始めるがやがて疲れて息を切らせながら座り込み大の字になって寝転がる。
「こんなに星が見えるなんてあるんだな」
「タカシが住んでいる世界はそんなに見えないの?」
「ああ、見えないな。」
しばらく二人は星空を眺めていたがやがて睡魔に襲われてそのまま眠りについた。次の朝、エリーゼの怒号で二人は目を覚ました。船は西の大陸に向かって舵を切っている。始めは順調な航海だったが、だんだんと雲行きが怪しくなってきた。風が吹き荒れ、波は白いしぶきをあげて船に襲い掛かってくる。エリーゼが全力で舵輪を制御しようとするが、制御ができない。時々大きな波が押し寄せ甲板を叩き付ける。アイラは風の魔法を使って暴風を打ち消そうとするが逆に吹き飛ばされて甲板から下に通ずる扉に叩き付けられ気を失ってしまった。
「平山、アイラを船室に連れていけ、俺はエリーゼのところへ向かう。」
「了解っす。」
平山はアイラを抱きかかえ扉の向こうへ消えていった。高橋が念を込めると足元に気流が生じる。そしてジェット噴射の要領であっという間にエリーゼのいる舵輪のところにたどり着いた。
「俺も手伝うぜ」
「助かるわ、あたし少し試したいことがあるから舵輪を任せていいかしら」
「ああ、問題ない。」
エリーゼは舵輪から離れ船尾に向かう。そして両手を前に出すと
「アクアトルネード!」
と叫ぶ。彼女の両手から大きな渦潮が発生し、強力な水流が発射され無理やり船の進路を変える。やがて風が穏やかになり嵐も収まったころアイラが目を覚ました。
「あれぇ、なんで私ここにいるの?」
「扉にぶつかって気を失ったアイラを俺が運んだからだよ。」
「そうなんだ、ありがとう、タカシ。」
アイラが平山に飛びつく。
「まったく、いちゃいちゃしちゃって。さっさと甲板に行くよ。」
エリーゼはそう言って階段を上って甲板に向かっていった。先ほどまでと打って変わって波は穏やかになっていた。
「陸だー、陸が見えるよ。」
アイラがはしゃぎだした。
「お手柄ね、アイラ。船もだいぶ傷んでいるみたいだし、あの島に上陸しよう。みんな上陸の準備手伝ってくれる?」
まずは緊急用のマストを張ることだった。先ほどの嵐でエンジンがやられたので手動に切り替えることになったのだ。平山と高橋がマストの帆を張る。
「うん、上出来よ。二人とも。じゃあ、船室から錨とロープを持ってきてくれる?」
エリーゼが平山達に指示を出す。
「よし、アイラ。たっぷり眠ったことだろうし、たくさん手伝ってもらうよ。」
そう言ってエリーゼはアイラに方向の指示を出し、アイラはそれに合うように風を起こす。
そうして船は接岸した。